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新ネパール民法典中、国際私法規定の試訳

1 はじめに

 2018年8月17日に施行された新しいネパールの民法典中,第6編(Part6)にある国際私法に関する規定について,試訳しました(原文は同国の法務・司法・制憲議会・国会省に係る英文に拠っています。また,「適用される」「決定される」やその他の日本語の表記揺れは基本的に原文に拠ります。)。

 なお、6編を含む新しい民法典については、既にその概説が公開されています(石﨑明人「ネパール新民法の概要」(法務省法務総合研究所国際協力部報77号156-191頁))。

 相続に関する規定の整理・理解の方法につき、議論がなされる(ないし情報が公開される)ことを期待します。

2 試訳

第6編  国際私法に関する規定

第692条 本篇の規定の適用 


(1)本編の規定は,外国人,外国の客体,又は入国でなされた行為による私的な法律関係に関連する事項に適用されるものとする。
(2)(1)項の一般性を妨げることなく,本項に定める規定は以下の事項に適用される。
   (a) 外国人の法的地位及び能力
   (b) 関連する当事者の少なくとも一人が外国人である,夫婦関係,親権及び親子関係並びにその他の家族関係,共有財産分割(partition)又は相続,又はこれらに関連する行為・行動が行われた場所がネパール国外にある事項
  (c) 関係者の少なくとも一人は外国人である,外国に所在する財産に関する事項
  (d) 当事者の少なくとも一人が外国人である,契約又は契約基づかない権利並びに義務に関する事項
  (e) 外国で締結された契約に関する事項

本編の適用上,「外国人」は,外国の自然人又は法人及び外国国家を含む。

第693条 外国人の権利能力の決定


(1)外国の自然人の権利能力は,同人の本国法により決定される。
(2)(1)項に従い外国の自然人の国籍が確認できない場合には,同人の常居所地がある国の法により決定され,常居所地も確認できない場合には,目下居住する地の国の法による。
(3)法人の法的能力は当該法人の登録地の国法により決定され,登録地が確認できない場合は同法人の本拠地がある国の法により,本拠地も確認できない場合には法人活動が認められる地の国の法による。

第694条 外国人の失踪宣告又は推定死亡


(1)外国人につき失踪宣告又は推定死亡がなされなければならない場合には,その者の本国法によりこれらの事項が決定される。
(2)(1)項に従い外国人の国籍が確認できない場合には,その者の常居所地がある国の法により決定され,常居所地も確認できない場合には,失踪宣告又は推定死亡がなされる直前のその者の住所地の国の法による。

第695条 外国法により決定される相続人


ネパールに居住する外国人の財産につき相続が開始した場合の相続人については,その外国人の本国法により決定され,本国が決定できない場合には同人の常居所地法により決定される。常居所地も確認できない場合には,同人が目下居住する地の国の法による。

第696条 死者の相続に関する決定方法


(1)ネパールにおいて外国人の死亡により相続が開始し,ネパールに所在する財産についての相続人及び相続順位を決定する必要が生じた場合は,被相続人の死亡時の本国法により決定される。
(2)(1)項に指定する法が確認できない場合には,被相続人の常居所地がある国の法により決定され,常居所地も確認できない場合には,失踪宣告又は推定死亡がなされる直前の同人の住所地の国の法による。

第697条 法人の性質についての決定


会社,団体又はその他法人が公法人か私法人であるかに関しては,同法人の国の法により決定し,そのような法が確認できない場合には,法人の本拠地又は登録地が所在する国の法による。

第698条 財産に関する規定


(1)動産の相続は,被相続人の死亡時の常居所地の国の法が適用される。
(2)不動産の相続は,所在地の国の法が適用される。

第699条 ネパール市民が外国で行う婚姻におけるネパール法への適合


(1)ネパール市民が外国で婚姻を行う場合には,婚姻に関する障害事由,要件及び条件については,ネパール法に従うものとする。
(2)ネパール市民が外国で婚姻を行う際の満たすべき方式については,婚姻を行う地の国の法が適用される。ただし,外国にあるネパールの大使館又は領事館で行う婚姻の方式については,ネパール法に従うものとする。
(3)(1)項及び(2)項に反して行われた婚姻は,ネパールにおいて承認されない。

第700条 外国人がネパールで行う婚姻における当事者の国の法への適合


(1)ネパールにおいて,外国人同士又は外国人とネパール市民が婚姻を行う場合には,婚姻を行う各当事者の婚姻能力,要件及び条件はそれぞれの本国法による。
(2)ネパール国内で外国人が婚姻を行う際に満たすべき方式については,ネパール法が適用される。ただし,ネパール国内にある外国大使館又は領事館で行う婚姻の方式については,当該外国の法に従うものとする。
(3)(1)項及び(2)項に反して行われた婚姻は,ネパールにおいて承認されない。

第701条 婚姻の効力における当事者の国の法の適用


(1)婚姻後の当事者の関係及び婚姻の効力は,両当事者が同一の国籍である場合には,当該夫婦の本国法により決定され,国籍が同一でない場合には常居所のある国の法により,常居所国が異なる場合には目下夫婦が居住する国の法による。
(2)婚姻の効力につき(1)項で決定できない場合,婚姻を行った国の法により決定される。

第702条 親権における本国法の適用


(1)父,母と息子,娘との親権を含む関係については,状況に応じて,息子又は娘の本国法が適用される。
(2)(1)で定める法が確認できない場合には,父母の常居所がある国の法が適用され,そのような国が確認できない場合には,父母が目下居住する国の法による。

第703条 養親子関係に対する本国法の適用


養親子縁組の結果としての,養親子関係は,養親の本国法が適用され,その法が確認できない場合には,養親の常居所がある国の法により,さらにその法が確認できない場合は養親が親子関係を伴って居住する地がある国の法による。

第704条 後見及び保佐の決定


(1)無能力者又はそれに準ずる者の後見若しくは保佐については,その者の本国法により決定される。
(2)(1)に定める国が確認できない場合,その者の常居所がある国の法により決定し,そのような国が確認できない場合には,その者が目下居住する国の法による。
(3)後見人又は保佐人と後見又は保佐に置かれる者との関係は,後見人又は保佐人が選任された国の法により決定される。ただし,後見又は保佐に置かれる者の常居所がネパールである場合には,ネパール法により決定される。

第705条 常居所地法による決定


(1)法定別居に関する事項は,婚姻当事者の常居所地のある国の法が適用される。
(2)(1)に定める事項において,婚姻当事者の常居所が同一でない場合には,婚姻当事者の最後の常居所地のある国法が適用され,そのような国が確認できない場合には,アリモニー(訳者注:別居ないし離婚後の扶養)について審理がなされている法廷地の法による。

第706条 外国離婚の承認


 ネパール市民間又はネパール市民と外国人との外国における離婚は,その国の法に従い効力を有すれば,ネパール法に従い,ネパールにおいて承認及び執行される。

第707条 所有権の内容に関する財産所在地国の法による決定


(1)財産の所有権及び占有の内容は,当該財産所在地の国の法により決定される。
(2)不動産所有権の存続期間及び終了に関する問題は,当該不動産所在地の国の法により決定される。

第708条 物品における仕向地法の適用


 運送中の物品については,仕向地法が適用される。

第709条 当事者の決定による契約準拠法


(1)契約準拠法は,当事者が契約により決定する。
(2)(1)による準拠法がない場合には,履行地の法が適用され,そのような法が確認できない場合には,契約締結地の国の法による。(訳者注:(2)項の場合)ただし,ネパールで締結された契約はネパール法が適用される。

第710条 外国で締結された証書の承認


 ネパール国外で締結された契約及び証書の有効性は,締結地の国の法で決定され,同国の法に従い締結された契約及び証書は,ネパールでも有効かつ承認される。

第711条 寄附者の本国法の適用


(1)寄附又は贈与の有効性に関する事項は,寄附又は贈与時の行為者の本国法が適用される。
(2)寄附又は贈与が当該行為のなされた地の国の法の方式による場合には,寄付又は贈与行為は有効とみなされる。

第712条 不法行為責任の決定


(1)外国人,外国の物,外国での行為に関し,不法行為を構成する行為による賠償責任の決定は,当該不法行為地の国の法により決定される。
(2)(1)項において,行為がある国で行われ別の国で結果が生じた場合,賠償責任は,結果が発生した地の国の法により決定される。
(3)(2)項により賠償責任に関する法が決定できない場合には,不法行為が行われた地の国の法により決定される。

第713条 契約に準じる行為又は不当利得


契約に準じる行為又は不当利得による責任は,当該行為が行われた地の国の法により決定される。

第714条 その他国際私法原則による準拠法の決定


(1)外国人,外国の物又は外国での行為に関し,本編にない事項については,同事項につきネパール法に別途規定があればネパール法により,そのような規定が認められない場合には,承認された国際私法の原則による。
(2)(1)項の規定にかかわらず,当事者全員が合意する場合には,(1)項に規定する事項についてはネパール法により決定される。

第715条 重国籍の場合の常居所地国法の適用


(1)本編の規定により本国法により決定される事項において,ある者が重国籍又は複数国籍を同時に有する場合,その者の本国法は,常居所地がある国の法として決定される。
(2)(1)項により指定される法により決定できない場合には,最も密接な関係にある地の国の法を本国法として決定する。ただし,ネパール市民,又はネパールに常居所を有する者若しくは住所を有しないネパールに居住しないネパール市民については,ネパール法とする。
(3)(1)に規定する事項につき,難民又は無国籍者の場合には,常居所地がある国の法により決定され,そのような法がない倍には,目下居住する地の国の法による。

第716条 外国裁判所での審理許可


(1)係属中のある外国当事者に係る事件において,当該係属事件につき当事者居住地国の裁判所において解決されることが適切かつ実効性があることを特定し,両当事者が共同で申立て,同申立てが合理的と認められる場合には,裁判所は当事者の求めの氏,外国の裁判所での手続を許可することができる。
(2)(1)項に基づく外国裁判所での手続許可が下された場合,同一の問題につき再度ネパールの裁判所で手続を行うことはできない。


第717条 ネパールの裁判所における係属事件の延期


ネパールの裁判所に当事者間の事件が係属中であり,そのような当事者間の同一の事項が外国の裁判所でも係属する場合に,当事者がネパールでの事件係属が外国での裁判所で下される判決に直接影響すると考える場合には,ネパールで係属する事件につき延期の申請を行い,同裁判所は外国裁判所の判断が下されるまで事件を延期することができる。


第718条 ネパールの裁判所が有する裁判管轄


 ネパールの裁判所は,以下の事項に関連して生じた紛争につき,手続を裁定し解決する際場管轄を有する。
(a) ネパールに居住する外国人とネパール市民との間で,本法またはその他の法が適用 される事項
(b) ネパールに居住している外国人を被告とする事項
(c) ネパールに居住していた同国外国人で,死亡時にネパール国内に財産を有していた者の相続に関する事項
(d) ネパールで行われた金融取引の支払又はネパール市民と外国人との間の海外取引に関する事項
(e) ネパールに所在する財産における,外国人間又は外国人とネパール市民との事項
(f) 外国人間又は少なくとも当事者の一人がネパール市民若しくは法人である,ネパール国内で締結または履行される契約に関する事項
(g) ネパール市民間又はネパールに常居所を有する外国人間のネパール国外で生じた不法行為,契約に準じる行為,又は不当利得に関する事項
(h) 本法第699条(2)項に基づきネパールの裁判所が判断を下す事項

第719条 ネパールの裁判所で解決されるその他の事項


主要な紛争につきネパールの裁判所が管轄を有する外国人が関与する事件において,その他の関連する事項についても裁判所で解決すべきである場合には,同裁判所は当該事項にも管轄を引き受けることで解決することができる。

第720条 条約等の適用


 本編と別の規定が含まれるネパールが締約国である条約がある場合,本編の規定は,場や木の規定に影響を及ぼさない。

第721 本編の規定が適用されない場合


(1)本編の内容にかかわらず,ネパールにおいて本編の規定により適用される法が公序に反する場合,本編の規定は適用しない。
(2)(1)項に定める事情が生じた場合には,本編に関する事項については,それに近接する基準を適用し,そのような基準が決定できない場合には,ネパール法による。

 


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