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『イケ恋』のブラッシュアップの話

こんにちは!七盤のハムさんです。

この記事は、上杉真人さんが企画した「Board Game Design Advent Calendar 2022」の12月25日(日)分の記事となります。

この前、MARUYAのボードゲーム合宿で、神楽坂さんさん堂名義でハムさん自身がゲームデザインを手がけた『イケ恋~イケメンと恋をする方法~』を遊び、やっぱり面白いゲームだな~と思いました。
せっかくのゲームデザインに関するアドベントカレンダーの機会なので、初期モックから製品化までのブラッシュアップという観点から、『イケ恋』を振り返ろうと思います。

※もともと予定していたテーマの「製造と宣伝の橋渡しの話」はアドベントカレンダー外で公開しようと思います。お待ちくださっていた方がいたら、申し訳ありません。

『イケ恋』とは

『イケ恋~イケメンと恋をする方法~』は神楽坂のボードゲームカフェのRE:ALLのお客さん同士で結成したボードゲーム制作団体「神楽坂さんさん堂」がゲームマーケット2020秋に発表した作品です。

神楽坂さんさん堂の結成過程や制作プロセスの概要については、当時のnoteに連載の形でまとめています。

この記事は上記の連載記事内で書いた、この記述について深堀りしていこうとするものです。

そのとき(注:ディベロップのとき)に最も困った点は、単純なバッティングシステムにすると、序盤に得点を上げた人が一方的にゲームを優位に進めるため、だれてしまうという課題でした。
そこで、序盤に点数を上げたプレイヤーは終盤で点数を上げにくいように、
また必ずしも点数を上げることが勝利に結びつかないように、ルールの調整を行いました。
【『イケ恋』誕生秘話】Part3 ルールのブラッシュアップ より

完成版ルールブック

完成版のルールブックはこのようなものです。
この後のディベロップ過程の説明では、できる限り本文だけを読んでいってもわかるように努めますが、ルールブックをあらかじめご一読いただけるとより理解が深まると思います。

ルールブック(表面)
ルールブック(裏面)

初期モック作成

初期モックでは、以下のようなストーリーとシステム概要でテストプレイをしてもらいました。

ストーリー
プレイヤーは高校二年生の女の子になり、学園のアイドルと呼ばれるイケメンへの告白を成功させるために、あれこれ戦略を練ってアプローチしていくゲーム。

システム概要
・毎月のアクションによって外見・性格・イベント回数のパラメータを上げたり、イケメンの好みのタイプを情報収集したりする
・イケメンの好みはイケメンごとに異なり、裏向きにされた「理想カード」でランダムに設定される(▶︎だから情報収集が必要)
・選択したアクションが他のプレイヤーとかぶるとアクションを実行できない
・最終的にイケメンの好みの女の子になれたプレイヤーがゲームの勝者となる

初期モックの課題

初期モックには、以下のような課題がありました。

  1. 序盤にバッティングが多発すると、プレイするモチベーションが下がる

  2. 序盤に大量リードしたプレイヤーがそのまま勝ってしまい逆転要素がない

そこで、ブラッシュアップにおいては上記の2つの課題を何とかすることがゴールとなりました。

課題解決と解決方針、その具体的な手段に関するマインドマップ

ハムさんのこだわり

「フレーバーに沿ってルールを説明できる」ゲームを作りたいという思いがあったので、ブラッシュアップの過程で要素を追加する場合でもできる限りフレーバーで説明がつくように工夫しました。

バッティング多発への対策

バッティング処理は、わかりやすくジレンマを演出できる一方で、「バッティングの回数が多くなりすぎると、嫌になってしまう」という欠点があります。
またバッティングは「両方負けさせる」処理であり、言い換えれば二人が不快になる処理なので、最終的には「プレイヤーはバッティングを警戒するが結局はバッティングが回避される」状態が理想であると考えました。

具体的な方針としては、
・バッティングを減らす工夫を加える
・バッティング時のメリットを付与する
という方法での調整を試みました。

バッティングを導入する必然性

「フレーバーに沿ってルールを説明できる」を実現するためには、システム選定の理由をフレーバーから説明しないといけないと考えました。
そこで、説明書のストーリで以下のように説明しました。

フレーバー
「他人と同じことをしていては、恋のライバルを超えることはできない」

バッティングしても実施可能なアクション「自分磨き」

変更前
原則通り、他のプレイヤーとバッティングしたらアクションを実行できない。

変更後
外見か性格を1上げる最も基本的なアクションである「自分磨き」については、バッティングしていてもアクションを実行できることにしました。
これにより、自分の行動でゲームの停滞を打開することができるようにしました。

フレーバー
「自分磨きはそれぞれが自分の部屋でやっているので、他のプレイヤーとアクションがかぶった場合でも実行可能です」

バッティング時の優先権を得るアクション「予習」

変更前
これについては、もともと入っていたルールなので変更前はありません。

変更後
次月に優先的にアクションをすることができる「予習」というアクションを作成し、予習を成功させた次の月には必ず次のアクションを成功させられるようにしました。

フレーバー
「あらかじめ予習をしているので、次の月には他のプレイヤーより一足先にイケメンにアプローチすることができます」

ひとまとめドラフトの導入

変更前
6月/9月/12月の終了時に、捨て札にしたアクションカードがすべて戻ってくるとしていました。
したがって、7月/10月/1月の段階では、全プレイヤーに4種類のアクションカード(イベント・予習・情報収集・自分磨き)が各1枚ずつある状態でした。

変更後
全てのプレイヤーの捨て札をひとまとめにして、その時点で性格と外見のステータスが最も低い人を起点として、1枚ずつピックするドラフトをすることとしました。
「ドラフト中にどのカードが減ったか」という情報から各プレイヤーの狙いを推測し、バッティングを回避したり、逆にバッティングさせて他プレイヤーのアクション失敗を誘発したりすることができるようにしました。

フレーバー
(特になし)

予習成功者の存否

変更後(派生効果)
先ほど予習成功者がバッティングしなくなるというメリットを示しましたが、予習が成功することは他のプレイヤーにとってもメリットがあります。
予習成功者は純粋に最もやりたいアクションを行う可能性が高いため、他のプレイヤーは自然と回避してそれ以外のアクションをとろうとします。
これにより、バッティングの回数を減らすことができました。

失敗時はカードが減らない

変更前
もともと、アクションの成功/失敗にかかわらず使ったアクションカードは捨て札にすることとしていました。

変更後
これを処理変更して、アクションに成功したプレイヤーはそのカードを捨て札にしますが、アクションに失敗したプレイヤーのアクションカードは手札に戻るようにしました。
これにより、アクションに失敗したプレイヤーの選択肢が増加して、「来月に巻き返すぞ」と思えるようにしました。

フレーバー
(特になし)

序盤の大量リードへの対策

序盤の大量リードに対しては、
・アクションに成功し続けると不利益がある
・パラメータが上がりすぎると不利益がある
・他プレイヤーから狙われる
という三つの観点で、序盤のリードが勝ちに直接は結びつかないように工夫しました。

ひとまとめドラフトにおける手札不足の誘発

変更前
先にも述べた通り、7月/10月/1月の段階では、全プレイヤーの手札に4種類のアクションカード(イベント・予習・情報収集・自分磨き)が各1枚ずつある状態でした。

変更後
失敗時にはカードが減らない状態で捨て札のみを1枚ずつ取っていくドラフトを行うことで、「アクションに多く成功しているプレイヤーほど、手札が少なくなる」という状態を作り出しました。
また、ドラフトの起点はドラフト時点でステータスが最も低い人として、手札不足がより発生しやすいようにしました。

フレーバー
「目立つ女の子は周りから目をつけられちゃうんですね、可愛いのは罪なんですかねー」

「告白失敗条件」の新設

変更前
理想カードはイケメンカードの上にのみ配置し、「告白を成功させるための条件」としてのみ機能させていました。

変更後
序盤に大量リードしていても、むしろ不利益になる状態を考えました。
具体的には理想カードをイケメンカードの上と下に配置するようにルールを修正し、下に配置された条件を満たしてしまった場合には、告白が失敗するという「ドボン」を設けることにしました。

ハロウィンイベントの新設

変更前
他のプレイヤーのステータスを減少させる方法はありませんでした。

変更後
10月に「プレイヤー2人の外見・性格ステータスを全て交換」という効果のハロウィンイベントを追加しました。
これによって、序盤に大量リードしているプレイヤーに「他プレイヤーからステータスを奪われるかもしれない」というリスクを考慮させ、他プレイヤーからしたら、逆転の可能性に期待してゲームを進めることができるようになりました。

フレーバー
「魔女にいたずらをかけられて、二人の性格と外見が入れ替わってしまったみたいですね」

まとめ

アドベントカレンダーという機会をいただき、『イケ恋』のデザイナーズノートのつもりで、ブラッシュアップにおける課題感とその解決策についてまとめました。
楽しんでいただけましたら幸いです!

個人的に大きな反省としては、「フレーバーに沿ってルールを説明することにこだわったのに、説明書にフレーバーをあまり盛り込めなかった」ことがあります。
(何か解決策を知っている方いたら教えてください!)

昨年・今年とゲームデザインからは離れていたので、来年は何かしらの形でゲームデザインにも関わる活動ができたらと考えています。

最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、メリークリスマス🎁🎄🎅

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