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繊維製造工業マーケティングのすすめ。15

いきなりですが、繊維製造の委託加工業は製造業ではなくサービス業です。

この内容のまんまなんですが、工賃で商売をする際、自社が扱っている商品は設備を使用して加工するという『サービス』になります。「いやいや、製造業でしょ」とツッコまれそですが、意識的な感覚という意味でとらえてもらえれば良いかと思います。
どういうことかと言うと、編み工場なら依頼者の糸を預かって指示のあった組織を作り生機に編み加工するサービス。染色工場なら生機を預かって染色整理加工するサービス。縫製工場なら生地を預かって裁断縫製して服に加工するサービス。そのままです。

なぜ敢えてサービス業と言い換えているかと言うと、技術がいくら高いと言っても、本当にズバ抜けたテクニックや他社に無い設備を持っている場合を除いて、出来上がってくるモノのクオリティはどの業者を選んでも大した差はありません。
職人が機械調整出来る差はあるにせよ、大まかな部分はほとんどの場合機械設備の問題です。機械設備を提供している業者はそれほど多く無いので工場の機械設備は、規模的な大なり小なりはあれど、どの工場もほとんど差がありません。

そうなってくると、工賃の価値というのはサービスの質によって変わってくるのです。

工場の商品はサービス

サービスというと、奉仕活動のように誤解されがちですがそれは違います。工賃が商品提供対価なので、工賃を発生させている商品は加工というサービスです。
例えば、縫製業で考えてみると、裁断するだけの工場もあれば、縫うだけの工場もあり、仕上げだけの工場もあります。
これまでのこのシリーズでも何度も書いている通り、それぞれの工程は洋服を作り上げていく上で一つのピース、歯車です。欠ければ出来上がらない非常に重要な要素でありながら、提供しているのは『モノそのもの』ではありません。そして先述の通り、保持している機械設備は、同業ならある程度が同じ物を使っているので、よほど拘ったメーカーでない限り、その調整技術の差を感じてくれる依頼者は少ないです。

上がりトータルで見て、その服がよくなるような工場の選択を依頼者自身が適宜判断して振り分けることが出来れば良いですが、ほとんどの依頼者はその技術の差を理解していないと考えておくと、『工場が提供する商品はサービス』という視点を受け入れやすいです。

この前提で話をすすめていくと、依頼者が求めているクオリティというのは、商品の出来栄えも当然ですが、それよりも全体的な対応の部分の方が良い工場だと感じる要素になりやすいです。
電話にすぐ出る、納品時に検寸表が付いている、見積もりも数量の枠ごとに提示がある、指示内容に対して無理なポイントを箇条書きにして検討要請をする、無理な部分に対して出来る方法の代替え案を出す...etc
当たり前に出来ている工場にしてみたら、「何を今更w」となりそうな内容でさえ、実は意識しないと出来ない工場は非常に多いです。与えられた事をただこなすだけならどこでも出来ますからね。それを指示された作業だけやって「工賃が低い」などの愚痴が出てしまっているようでは、その工場の成長は難しいと言わざるをえません。

自分たちの状況だけで物事を完結せずに、いかに受け手が先に動きやすいかを意識してパスを出すかということが出来ていると、依頼者は「良い工場だ」と感じやすいです。

サービス業だと意識すると他と差を出しやすい

自社が提供している商品がサービスだと意識出来るようになると、他社と差を出す方法が明確にしやすいです。それこそが製造業にとっての商品の差別化ってやつです。

提案から生産フロー、納品からアフターフォローまで実に長い期間、服が出来上がるまで関わっている僕の視点からすると、各工場の対応いかんで工賃価格に対する評価は非常に明暗分かれます。

例えば染色加工で言えば、基本的に『きちんと指示色に染まって』『物性安定していれば良い』ので、特殊加工を除いて、その染色工場である必要性が出てくる要素は、『きちんと指示色に染まっている』ことと『物性安定している』ということが出来る工場になりますが、これは染色工場としては当たり前のことなので、ここに工賃を上乗せするポイントはありません。安いところを選ぶ一択です。
この当たり前が出来ていない場合は論外ですが、この当たり前の基準に差がない場合、同じテーブルに乗せられたら安い方を選ぶのは当然です。

同じテーブルで依頼者が値段以上に感じるポイントは保険要素が強いかどうかです。つまり当たり前以上のサービスポイントです。この点は同業者で同等クラスの設備なら、自社と他社を比較しやすいです。
デリバリーの納期管理が優秀だったり、輸送梱包の状態や、延反した時に発見しやすいS点の付け方、見やすい検反表、不良に対するフォローなど、仕事を預けたら放っていてもきちんとした物が次の工程へ移る工場は信頼がおけます。悲しいかな、これが出来ない工場が多いため、この程度でもサービスの差別化は出来ます。そしてその安心を価格転嫁しても良いと考えます。これだけでも十分かもしれませんが、依頼者の仕事のシェアを深く多く得るにはもう少し弱いです。

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