ステレオタイプ/話し辛さ/答の無い問題 ~Project Act Tokyo第3回公演―堕天使とボノボ 観劇~
見出し画像

ステレオタイプ/話し辛さ/答の無い問題 ~Project Act Tokyo第3回公演―堕天使とボノボ 観劇~

Haru

知り合いであり、大先生でもある安城龍樹氏が代表を務め、脚本・演出を手がける舞台を観て来た。今回の演目は新作の「堕天使とボノボ」。ジェンダーによる役割分担が成される古典的な男女関係を批判し、愛、恋、そして性の側面から人類そのもののあり方について問い直す問題作であった。

感想

本作はテーマが非常に難しく、堅い事を書こうと思えばいくらでも書けてしまう。ひとまず難しいことを後回しにして、まずは劇そのものに関する感想を書いてみる。

今回で通算3回目の公演となったProject Act Tokyo。舞台は五反田、毎度場所が分からなくなり右往左往してしまう平賀スクエアにて行われた。

第2回公演である「比翼連理の果て」にはお邪魔できなかったため、初回公演「悪魔の涙」以来の平賀スクエアであった。

「悪魔の涙」ではスタジオを縦に使った舞台であったのに対し、本作ではスタジオを横に使うことでステージを広く取り、より多くの大道具を取り入れ、多彩な場面を描き分けていた。

電車の乗り継ぎに失敗してややぎりぎりで到着。間もなくいざ、開幕と、その瞬間に安城ワールドに引き込まれることになった。

約2時間にわたる舞台は前後半に分かれており、僕は前半早々に登場人物たちの抱えるジレンマを実感した。そして、彼らの耐え難く、抑えがたい感情と衝動に自らも取り込まれていった。

後半は特に大迫力の演技が展開された。浮気に走る心理や、男性恐怖症を患う登場人物の心理が具現化され、目の前で再現される。そのリアルさに自らのトラウマさえも掘り起こされんばかりであった。

あまりにも精神の根底に迫る演技であったため、途中から役者さんの心配をするほどであった。

実際のところ、男性恐怖症の京子を演じていた役者さんは、一時期精神に変調をきたすことがあったと、公演後の交流会で話してくださった。正直、男性恐怖症が目の前で具現化されたときは僕も怖かった。本作終盤の、感情大爆発シーンが無ければ、本当に精神を病んで終わってしまう懸念があった。

それだけシリアスな展開からの大爆発であるからこそ、それぞれのシーンが活きてくるから、本当によくできていると思う。役者さん本人の鬱憤をも晴らさんばかりの大暴れぶりで、こっちもスカッとすると同時に、床に投げつけられた小道具のマグカップの持ち手なんか飛んできたりしてちょっとびっくりした。

安城さんにお願いして記念品としてもらってきました。


稽古期間中の公式Twitterの動画を見て、この劇は最後の公演の方が爆発力がありそうだと予測したのも間違いではなかった。千秋楽で、劇中で溜まった役としての鬱憤も、一人の人間としての鬱憤も全て大爆発させている様子が見られて、どこか安心しました。

本作のテーマである、愛と性のジレンマについて、僕も実体験として思い当たる節があるので、新たな視点をもらったようで観てよかったと心底思っている。

また公演がある際には、ぜひお声かけください。素敵な舞台、ありがとうございました。


観劇を通じて自分が感じたこと、考えたことと共に、付随して浮かび上がってきた諸問題について少し綴りたい。

答の無い問題にスポットを

本作は男女関係、主に彼氏彼女、夫婦という関係におかれる人々が、それぞれ持ち合わせている性欲という根源欲求に苛まれる姿を描き、象徴的に浮かび上がってくる結婚や普遍的な貞操観念のジレンマについて指摘している。

同時に、このジレンマが果たして必然的なものであるということをロジカルでありつつかつ感情的に描き出しており、豊かな表現と迫力の演技によってこれが強く問題提起された。

彼氏彼女、妻や夫の存在に関わらず、不特定多数の男女に魅力を感じ、性的な欲求を持つこと。本来であれば浮気や不倫として禁忌され、民法上でも不貞行為として離婚の条件に盛り込まれるなど、誰もスポットライトを当てようとしなかった話題に進んで光を投げかけた形だ。

なぜ誰も積極的に話題にしようとしないかといえば、こうした特質を自分も持っていることが少なからず図星であるからではないかと僕は考える。

古来、配偶者や恋人をもつ者は、彼/彼女を一途に愛し、他の者には見向きもしないことが男女関係における美学だとみなされてきた。

しかし実際は浮気や不倫と呼ばれる行為が存在し、そして恐らく、少なからぬ誰しもが自分のパートナー以外に性的な魅力を見出したことがあるのではないだろうかと推測する。

生まれてこの方、文化として形成された”正しい”男女関係しか知らない我々は、自分たちの持つ欲求に素直になれない現実があることに、ある時点で気付くのである。この内包されたジレンマを禁忌として捨て去ることで、ことごとく言及を避けると同時に、自分たちとは関係の無いものだと暗に認めることを拒否し続けてきた。

その結果、浮気や不倫は絶対悪として捉えられるようになり、文化はよりステレオタイプ化することとなった。

劇中では人類学、文化人類学、進化学、生物学といったバックグラウンドを元に、このステレオタイプに苦しめられる人間達が解放されていく様子が描かれる。様々な形で訪れる抑圧と欲求の応酬に、感情大爆発のクライマックスが導かれた。

本作には題材となっている著書がある。Christpher Ryan氏とその妻Cacilda Jetha氏による「性の進化論」である。本著では、ここまで綴った男女関係におけるジレンマ的側面を学術的視点から解き明かし、チンパンジーやボノボといったヒトと共通する遺伝子を多く持つ種族の生態と人類の現代社会を照らし合わせている。

これによって浮かび上がってくる、人類が自ら作り出した文化に束縛され苦しむ様子と、どうしたらよいか分からず思い悩む姿を現代日本に落とし込み、如実な表現と観客を引きずり込む演出で描ききった安城氏の力には感心しきりだ。

性の問題には答が存在しない。何が正しいのか分からず、自分自身に翻弄されることが多い。というのも、最初から答など存在しないというのが答だからと、今なら言える気がする。僕自身も、自分たちの作り出した文化によって、“正しい”答を探し求めていた一人であり、遺伝子的にあるべき姿まで立ち返って見直すという新たな視点を授けて頂いたこと、またこうして性のジレンマについて堂々と言及できる場を作ってくださったことに感謝している。


ステレオタイプの話

本公演では、舞台終了後にキャストを交えた交流会がある。これが非常に楽しくて、安城さんやキャストの方々を交えてしばしの間お話させて頂いた。

その中で、先述した役者さん自身のトラウマに関わる部分も伺う事ができたし、作者の安城さんご自身からもお話を伺う事ができた。本当に貴重な機会なので、今回は劇はもちろん、この交流会もすごく楽しみにして赴いた。

お話しする中で、安城さんにこの劇を書いたきっかけについてお伺いした。曰く、ご自身が感じていた男女関係のステレオタイプと現実の乖離について考えていたところ、前出の「性の進化論」に出会ったことがきっかけだとのいこと。ステレオタイプによる抑圧と現実の乖離から生じる悲劇、理不尽に対する一種の怒りのようなエネルギーを垣間見た。

「全部ぶち壊してやりたいと思って」

この言葉に、僕は自信をもらった。というのも、僕は今、仕事や就職に関するステレオタイプをぶち壊すべく動いている身だから。

人間は、自らが作り出した枠によって抑圧され、苦しめられている側面がある。その最たるものが愛と性に関わるもので、実際に悲劇や理不尽が生まれ、とても具体的な形で身に降りかかる、非常に分かりやすいものであるともいえる。

僕の場合この問題を仕事や就職という観点に適用している。しかし仕事や就職における枠組みで、なにか認識できる損失があるかといえば難しいところで、当事者が損失に気付かないうちにはまりこんでいたり、気付いたときにはもう遅いということが多い。というのも仕事や就職というのは、愛や性よりも結果が出るのが遅い上、より上のレイヤーにある文化であるがために、何らかのトリガーが無ければ認識することすら難しい現状がある。

なのに、人生における重要性が非常に高いのだから本当に厄介である。現在の就職システムは生産ラインもいいところで、それが当たり前と思って進むのは人生における実質的な損失になりかねない世の中になってきている。新卒採用や、有名企業への就職を漠然と目指す社会は終わりを迎えようとしている。僕は一刻も早くこの現実をより多くの人に知ってもらいたい。

僕が現在の活動をしているのは、安城さんの演劇活動に触発された側面もあるため本当に感謝し切りである。なんとも稀有な出会い方をしてからというものの、安城さんからは学ぶことばかりである。

車好きのガキを拾ってくださった安城さんに感謝しつつ、今後も精進することを誓います。

いろいろな意味で、観てよかったと思える舞台でした。

ありがとうございました。

Project Act Tokyo HP - https://project-act.amebaownd.com/
公式Twitter - https://twitter.com/TokyoAct
12/11編集:逸話であったため、ミレニアムの節を削除しました。
この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
Haru

最後まで読んでいただきありがとうございます。 いただいたサポートはよりよい作品のために使わせていただきます。ほかの記事もぜひご覧ください。

フォロー&シェアお待ちしています
Haru
IKEA/Photographer/Writer/Web/...