第5回梗概感想 1/4

今回のポイント

・順番のランダム化は継続
・一人当たりの『読み解く時間』を均等化


品川必需『仮想現実の彼女』

VRラブプラス的な感じ、僕もやりたいし、やったら帰れなくなる自信もある。あとADVにおける謎シナリオはよく聞く、TKOYとかで。
品川さんのナンセンスギャグは個人的にとても好きなのだが、今回はギャグへの振り切り方が弱い気がする。ヒニョラを見た後だったり、またみたみたみを読んだ後だったりすると、特に(ヒニョラの印象に引きずられてホラーなのかと身構えてしまう)。
仮想現実と現実との落差はギャグでもあり、ある種現実への批評ともなり得るので、上手くバランスを取れれば、道満晴明とかがよくやる社会風刺じみたギャグになり得るし、逆を言えば笑えない冗談としてシリアスに振ることもできるように思うので、どう来るのかを楽しみにしたい。


岩森応『朝食/歯磨/落下』

梗概だけだと結構色々な謎が残る。主に設定面での。本来そこに突っ込むのは野暮なのだが、物語のテーマ性の部分にまで入り込んでしまっている気がする。
話の本筋は『友人の力を借りて家族と再会する』だと読んだのだが、妹が兄と再開できない(テルースから一人で降りることができない)理由があまりないような気がする。考えようと思えば、読み解くことはできる(妹がテルース民に助けられた時には、事故から時間が経っており連絡の取りようがなかった)とか。
ビジュアルイメージとしての設定(空の幕とか天井に住む友人とか)はとても面白いので、そこを上手く整合性(『実現可能か』という論点ではなく、説得力)を見つけて物語に落とし込めれば面白いはず。


泡海陽宇『R2』

とても感想が難しい。
なぜか。完結していないから。
混血有機ロボのアルとモカが主人公だと思っていたら、梗概の最後のパラグラフで出てきたR・カッシーニ氏がいつのまにか行動の主体になって物語の〝ひき〟を担当しているし、アルとモカの二人とR・カッシーニ氏の関係性も、梗概の時点では判明していない。
……なので申し訳ない、わからん……
個々の設定の字面は面白い(〝有機〟で〝混血〟なのに〝ロボ〟とか)ので、次回こそ完結した梗概を読んでみたい。


安斉樹『推しのいない世界』

ダイビングのモチーフと多世界を掛け合わせる発想は確かに今まで見たことがないかもしれない。面白い。
テーマとしては、僕はこの話をある種の『純愛モノ』として読めた。喪失した〝推しの彼女〟(=美の女神の模写)を、主人公が再生する物語だ。けれどそれは、多人数の協力(監督とか)によって生み出されたモノなので、主人公に独占されることはない。ゆえに〝推しの彼女〟は主人公だけの被造物(=ある種の娘)となるのではなく、対象としての〝推しの彼女(=ある種の他者であり恋愛対象)〟でいられるという話だ。
一例として、エルリック兄弟は〝自分たちだけ〟で喪われた母親を再生しようとして失敗した。
今回の作品では、〝他者〟の再生のあり方に新たな視点をもたらしてくれるのかのしれない。
実作を読んでみたいと素直に思う。

藤田青土『足跡』

『他人の記憶が降る町』というのがとてもエモーショナルで好き。死にそうなほど。集積された記憶が、個人ではなく町という総体の中で管理・積層してゆくというのは、他者を経由してからでないと自己を明確にできない人間精神の可視化でもある。
反面、書くのがめちゃくちゃ難しい。自分でも記憶に関してやってみて難しかった。
で、書くのが難しいと読むのも難しい。多分僕はこの話の本筋を、藤田さんが提示したかった形で読み込めているのか自信がない。
とはいえ、この街にいる以上『個人』としての物語の意味など、とっくに無くなっているのかもしれないとも思える。
刹那的な感情のフラッシュバックを受け取るためだけに、肉体が存在している町に住み続ける人間が、何に執着しているのか。そこの焦点を明確化すると、わかりやすくなると思う。


藍銅ツバメ『家庭内枕返し』

あいかわらずリーダビリティが高い。それはすなわち上手いということだ。
そして今までの作風と同じように、実作になれば個々のシーンの描写の力で読者を引っ張っていくのだろう。
ゆえに、これはこれで感想が難しい……
綺麗に纏まっているし、実作のイメージもつくから。
なので純粋に好きな部分を語ると、反抗期の弟のキャラがすごい好き。自身が生存を許された夢の世界を打破するとしても、最後まで反抗し続けるさまは、とてもキャラクターがたっている。
夢というモチーフを使うと、とたんに物語の落とし方がご都合主義なものになりがちなのだけれど、今作はこの弟の存在でそれが回避されている。キャラクターがたっている(=論理的な一貫性を演出できている)から。それは物語の骨子がしっかりしているということでもあり、文法の構造以上の物語の構造としてリーダビリティを高めている。
上手いのだよなぁ……
というわけで、短編を創る上でとても参考になる、お手本のような作品な気がする。


遠野よあけ『雉子も勃たねば撃たれまい』

そもそも短編連作が好きなので僕には刺さった。あと当然エロも好きなのだが、エロというのはとても難しい。まず発表の仕方から難しい。そこをいくと、短編連作で小出しにしていくやり方は、エロを描く上で上手い匙加減が可能なのかもしれない。DMMあたりのソーシャルエロゲがそうであるように。
そして、その連作が、個々の物語によって意味の転換がなされるという形式は連作の醍醐味だと個人的には思っていて、それが描かれる実作がとても楽しみなのである。
「秘密基地」だけは個々人の関係性が、他三遍に比べて読み取りにくい(情報量が多い)ので、実作では整理して提示するのが必要だと思う。
あと作品を語る際に『〇〇に似ている』というのは、ある意味で何も語っていないに等しいのだけど、とても町野変丸っぽい。すなわち、僕は大好き。


宇部詠一『アムネジアの不動点』

タイトルが好きオブ好き。
各古典SFの元ネタを断言できぬのが惜しい…… 心当たりはあれど断定ができるほど覚えてはいないのだよなぁ。明示しないと明言されているのだから探るのは野暮なのだが、気に立ってしまうのがさがだ。
で、話の本筋はおそらく『主人公が創造性を手に入れる(被造物からの跳躍)』で、批判的な読者と独善的な作者との両方から解放され、素朴で純粋な娯楽性の喜びを手に入れるというもの。
であるのなら、もっと主人公の『小説世界に対する感情』を梗概の内部に入れてもいいのかもしれないと思った。その感情は、否定的にしろ肯定的にしろ、最後に自身の創造性を獲得するための動機になるからだ。
とはいえ、毎度のことながら宇部さんは実作で化けると勝手に期待しているので、楽しみなことに変わりはない。

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