ただのゾロ目の日でした

7月7日
テレビから聞こえる天気予報で、今夜は夜空が楽しめなさそうだという気象予報士と、それに残念そうな相槌を打つ女子アナウンサーの声が聞こえる。
ああ、そうか今日は七夕か。

あいにく、私の周辺には七夕を堪能できそうなものはない。笹も、短冊も、小学校の給食の時食べた七夕ゼリーも、何も。
歳を重ねるにつれて、こういった行事から離れていってしまっている気がする。どうでも良いと言えばそれまでなのだが、やはり少しは世間とワクワクを分かち合いたいものだ。

なんとなく、今日は水羊羹でも買って帰ろうかなぁ、などと考えながらバイト先へ向かった。会社に着いて仕事を始めるも、それもすぐに終わってしまった。抱えているタスクがまるでない。
先輩社員に聞いても、今は手伝ってほしいことは特にないと言う。出勤30分で仕事が終わるなんて思ってもいなかった。
考えた挙句、私は自分の編集部のあるデスクの島近辺を掃除することにした。

年末休業前もちょうど1人で同じようなことをしていたが、あれから半年も経てば汚れはとんでもないものになっているわけで。
せっせと要らぬゴミを捨て、コーヒーのこびりついたエスプレッソマシーンを分解して洗う。デスク近辺を整理整頓していると、前職の記憶が戻ってきた。
ああ、あの頃も暇な時間には制作備品や小道具の入った折りコン(折りたたみコンテナ)を綺麗にしていたっけ。誰も何も言ってくれなかったし、次の収録が終わったときには跡形も見えないほどゴチャゴチャになっていたけれど。
掃除を終えると先輩が「ありがとうね」とお礼を言い、お菓子をくれた。幸い、今の職場には私の努力に気がついてくれる人がいるらしい。

仕事を終え、同タイミングで会社を出る先輩と途中まで帰ろうとすると、他の社員さんも合流して皆で駅まで向かうことになった。1年この職場にいるが、まだ一度も話したことのない『THE・OL』といった風貌の綺麗な女性だ。こういう人に私の持っている自己紹介トークはウケないことをよく知っている。当たり障りのない天気の話を皆でしながら歩いていると、共通の顔見知りである先輩社員が寄る場所があるからと離脱。1番危惧していた『あまり親しくない人との帰り道』イベントが到来してしまった。この時点で、もう天気について語ることはない。

相手も気まずかったのか、「今までなかなか会いませんでしたねー」「どっかで会ってるはずなのにー」などと話しかけてくれる。こちらもなんとか返そうとするも、『ウケ所とオチのない話は罪』という歪んだお笑い忠誠心が邪魔をする。
あまりぶっ飛びすぎないようにしつつ、「ほぼ自分のデスクにしかいませんからね…オフィス歩き回るときは、昼食の茶漬け用にレトルト米をレンチンするときだけです」と4流アメリカンジョークで場を凌いだ。運良く、愛想笑いまでは獲得できた。

駅で彼女と別れたあと、言い知れぬ疲労が襲ってきた。たった5分間の会話でこんなにエネルギー消化するとは。
もう少し、どんな相手にも合わせられるようにトークの幅を広げようと心に誓った。なんか、ホテルビュッフェの話とかもできるようになろう。
疲れすぎて、結局水羊羹を買うことを忘れて帰宅してしまった。

物書き志願者です! 貴方のサポートが自信と希望につながります!