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新宿・歌舞伎町より愛を込めて

6月3日
今日は2ヶ月ぶりにお笑いライブの手伝いに行った。
もちろん超厳戒態勢、無観客ライブをネット生配信するものである。

バイトを早めに上がり、久しぶりに入った劇場。ドアを開けて入って真っ先に思ったことは『くっせぇ』だった。
なんせ劇場の運営が再開したのも昨日今日の話。2カ月ぶりに冷房を入れたら、まあ悪臭が撒き散らされたのである。これは初夏の冷房はじめに毎年起こる、いわば夏の風物詩だと主催者の方は語った。すこぶる嫌なレガシーである。

「今日はライブはじめだから、YouTubeから無料配信にするんだ。もちづきさんは舞台の道具出しをお願いします」
漫才マイクやコント用の机と椅子を出しハケする『道具出し』、今まで何度もやってきた仕事だが、この状況下では細心の注意と感染拡大防止の工夫が必須となる。

まず、漫才マイクは2本用意。2mの間隔を開けて舞台に置くのである。理由はもちろん、1本のマイクに顔を向けて漫才することはできないからだ。そして、このマイクも使用するたびにアルコールスプレーを振りまいて除菌・滅菌する。
次に平場。一般的なネタを披露するライブでは、ライブの趣旨説明などを行うオープニングトーク、出演組を2・3ブロックに分けてブロックの合間に行う『中MC』、出演者総員が登場して告知などをするエンディングトークがある。しかし、狭い舞台にたくさんの人間を上げることは密状態を作ることになってしまうため、少数組によるMCトークが実施された。エンディングに関しては、全員は舞台に上げられないため、苦肉の策としてコンビの代表者1人が登場するシステムになった。

これだけ気を遣っても、まだお客様を入れてのライブは開催できない。入れたとしても、密状態を避けるため限られた人数しか入場を認められないし、飛沫防止を避けるために舞台にはシートが貼られることだろう。
「緊急事態宣言が解除されて、会社も通勤に戻った。いつもどおりになり始めてるのかな」と思っていた2日前の自分に行って聞かせてやりたい。「まだ、何も解決しきっていない」と。

「YouTubeで生配信するからお客さんからコメントはもらえるけど、やっぱ笑い声ないのは寂しいよね……」
主催者さんは悲しそうに語っていた。だから我々スタッフは、舞台袖や客席の1番後ろから大きな笑い声を上げた。マスクは必着だが、久しぶりにお腹の底から笑えるのは本当に楽しかった。なにより、芸人さんたちの面白いネタを劇場という場所でまた観られたことが嬉しかった。
YouTubeのコメントでも「芸人の皆さんの元気な姿が観れて良かった」「早く劇場に観に行きたい」など、好意的な感想をたくさんいただけた。出演者の皆さんもそれを嬉しそうに読み上げていた。
演者さんもお客様もスタッフも、みんな気持ちはひとつなのだ。そう改めて感じた。

新宿、歌舞伎町。日本有数の繁華街であるこの地は、きっと今1番忌み嫌われている。
それでも、こんなに素敵な思いにさせてくれる劇場があるこの街を、私は嫌いになったり避けたりすることは一生かけてないだろう。

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