滅びろクソ野郎

1月20日
自分は滅多に、人に怒ったり悪態を吐くことはないほうだと思う。
誰かを嫌いになれるほど自分ができた人間だとは思えないし、人を嫌っても自分にメリットなどないと思っていたからだ。
しかし、そんな生ぬるい優しさも今日までだ。

街コン参加の条件で始めさせられたマッチングアプリ。
もちろん、ここで恋をできるように頑張ろう!的な気持ちは10%くらいあるが、いかんせん他人に恋愛感情が湧かない体質なので、今後の作品のための実地調査的なツールとして使用していた。
人はわからないものだ。アイコンにした写真を見ただけで「いいと思ったので」「かわいかったので」とメッセージを送ってくる。この加工技術が進化した世の中で、この1枚の写真をそんなにも信用し、それだけを原動力にメッセージを作成できるのが不思議でたまらない。そこでいつも通りの返答をすれば、人はどんどん離れていく。薄情なものだ。

その中でも、何人かは必死で食らいつくように返信をしてくる。問題の男性もそのうちの一人だった。
「本当に可愛いと思ったから」
「早く会いたい」
「俺なら君を離さない」
など、熱に浮かされたインフルエンザ患者みたいに妄言を吐く。それを軽くあしらったり、調査のために理由を尋ねたりしていたのだが、戯言はどんどんエスカレートしていくばかり。さらには会う約束まで取り付けてきた。これに関しては『強めのネタが手に入るかもしれない』という邪な心が働いてそれを飲んだが、やはり相手は突っ走り続ける。
「会った時『いいな』って思ったら付き合いませんか?」
「俺の女になってくれたら最高です」
「付き合ったら家行きたいです」
「キスやエッチは嫌いですか?」
だんだん質問の内容が初対面も済ませていない関係性で許されないものになってきた。そしてついに
「処女ですか?」
の質問に、私は苛立ち始める。

「先ほどから初対面の、それも実際に会ったことのない人間に聞く内容でないものばかり質問なさいますね。正直胸糞悪いっすわ。『これが普通』とおっしゃるのなら、すこぶる価値観が合わないようなので、これにて失礼させていただきたく存じます」

少し期待していた。これだけ言ったら形だけでも謝ってくるだろうと。許しはしないが謝罪は欲しかった。それなのに男の返答は、
「とりあえず一発やらしてよ」
の一言のみ。

「潔いくらい救いようがねえな」

「貴様みたいな生殖器に肢体がついた野郎、こちらから願い下げだよ」

「二度と連絡してくんじゃねえ」

即座にブロック&運営に通報。滅びろクソ野郎。

そのあと、言いたい放題言ったおかげで心は晴れ晴れし、気分が良かった。
ただ、また恋愛をする気が失せたのは事実だ。とりあえず、引き続き調査を続けるとしよう。

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