見出し画像

無名の兵士

「無名」というのは、時に残酷である。

時にやりたいことを阻み、常に届けたい声をより多くの人に届けることも出来ない。
「無名」ということは世間的に見ると「名前が無い」というのと同意義だ。

名前を海外や世界中に馳せれば色んな悦びを感じることができる。
食欲・性欲・金銭欲など人それぞれで色様々。人によって欲望の色が変わる。
「有名」になることは世間的に見ると「名前が有る」というのと同意義だ。

そんな無名から有名になる成長過程。
無名な人がむしゃらに有名になることに興味を持つ。
これは、そんな無名の兵士が「有名」目指す物語である。



スマホを覗くと、眼前に広がる「承認欲求の壁」
壁に立ちはだかれば、向こう側には目を覆いたくなるような「有名」がいる。
そこに追い求める「名前」が存在するのかもしれない。

こんな自分にもプライドはある。声に出すのも恥ずかしいつまらないモノ。
レンズの向こう側に対して無理に気持ちのレバーを引き上げてまで映し出すような有名者ではない。後で自分が見返した時に恥ずかしくなるようなあの感覚だ。

しかし、画面に喋りかけるのは下らないプライドを投げ打って挑戦し続けた者。
新しい自分を作り出したり後ろ指を指されてまで、レンズの向こう側に対して脳みそに血を通わせてまで、必死に考え抜いて電波に乗せてチャレンジした者。

「名前を得る」者はいつも決まってそんな無謀な挑戦者。
羞恥心や周りに渦巻くのは「プライド」という名の土石のカーテンが幾多も挑戦者の侵入をいつも華麗に防ぐ。

名前を獲得した者は、すべからく知っている。
そのカーテンの向こう側。
薄くて分厚いその布っきれの向こう側。
まるで、ベルリンを思わせるかのような分厚い国境だ。

国境を渡るため無名者は彷徨い各々自慢げに武器を探す。
「果たして、この武器で良いのだろうか」
「こんな武器でこの国境を越えられるのだろうか」
「そもそも武器なんて自分にはあるのだろうか」

分厚く、越えようのない壁を前に大半の無名は諦める。
もしかしたらその手に持つ武器が「とんでもない破壊兵器」だというのに。
そして大半の無名の兵士は壁を背に武器をそっと置き、また壁の内側で愚痴を肴に酒を飲む。夜通し深くもなんともない傷を舐め合う。

壮大な壁を睨みつけ、小さな武器を片手に無名な兵士がただ一人。横を見渡しても、後ろを見渡しても同じ方向を向いている人はもう居ない。

ひたすら壁に標準を合わせ、無心で弾を撃ち続ける。

一向に壁の向こう側は見えない。
光も見えない。一寸先も闇だ。
何時間も、何日も、何ヶ月も何年も撃ち続ける。

そして残酷なことが知らされる。
数人が壁を通過。自分よりも小さな武器。
想像にもしない小さな武器で、だ。

「諦めよう」
「どうせ自分には無理だ」
「気持ちはわかるけど」

さっきまで後ろにいなかった仲間の声が掠れて聞こえる。
そしてその声は耳元をゆっくりと、強く激しく通過した。
目から小さな水が出た。それも小さな水だ。


「悔しい」


幾多にも修羅場を乗り越え、武器を抱えて戦地を乗り越えた自分にそんな感情が移ろいだ。さっきまで目を彷徨いていた水がだんだん湖になっていく。
心なしかその溜まりきった湖は少しだけ青く、少しだけ黄土色がかっていた。



「諦めるしかない。」



湖がようやく海になろうとした手前で、人差し指にかかっていた自慢の銃のトリガーが先ほどよりも距離を遠く位置していた。先ほどまで肩に力を入れて、真剣な眼差しで見つめていた視界に青がかった黄土色の視界が登場した。

自分の可能性を最後まで信じることができなかった。
諦めと悔しさが壁をさらに大きく、分厚く感じさせる。
無名者は横を見渡すと、自分一人だった。

はるか遠くで壁を崩す音が聞こえる。
壁の向こうは小さく、でも確かに強い歓声が聞こえる。

「名を手に入れた無名の声」だった。

両膝をついた。そして、武器をゆっくりと置いた。
立ちはだかる壁の前で無呼吸になりながら上を見上げた。
立ちはだかる碧空まで突き刺さるは、無数の弾丸の跡が残された壁だった。

ゆっくりと、深く深呼吸をついて後ろを振り返った。
そこには自分を見守る仲間達、後ろ指を指しているかつての仲間達、未だ壁に対して助走をつけて武器を拵えている仲間達が居た。

「がんばれ」
「応援してるぞ」
「大丈夫だ」
「お前ならできる」

さっきまで黄土色がかった視界が少しずつ青くなった。
そして湖から水が引いていく。
カラカラに干上がった湖跡には今までに見たことのないくらい、激しく眩しい一筋の太陽の光が差しがかった。

仲間の静かな声援を背に、ついた両膝を片膝ずつ懸命に上げた。
両足の底で力強く大地を踏みつけた。
一度横に倒れた武器を拾い上げ、全身でゆっくりと構えた。

数秒ほどの深呼吸を終え、スコープを覗き狙いを定めた。
そこには今までに撃った弾跡がある。自分以外が撃った跡もくっきりとある。
今までにはないくらい、落ち着いた気持ちで全身で構えた銃のトリガーに指を再びかけた。


その刹那。


男はその力強い銃声と共に、再び立ちはだかった壁に向かって前進を始めた。
名前も何も書かれていない胸のプレート共に足をまた一歩壁に近付けて撃った。



壁の向こう側にある「名前」を目指して




無名の兵士

#2000字のドラマ

サポートしてくれた暁には全力で喜び、這いずり回りながら本を買いたいと思います! そして、Twitterでしたらメンション飛ばしていただければ、お礼&拡散申し上げます!! 必死にアウトプットさせてください!さあ、今の内!