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ABC予想?フェルマーの最終定理?おいしいのか、それは。

2020.05.20. 追記:このNOTEを書いた3年前は「強いABC予想」と「弱いABC予想」があることを知らず、浅薄な知識で書いたことをお断りしておきます。

数学の世界に存在する数ある難問の一つ、ABC予想に対する証明がなされた。これがどれくらい凄いことなのか分かる人には分かるし、分からない人には全くピンとこない。筆者は後者だったので、少し調べてみた。

数学でいう予想は「たぶん合ってると思うんだけど、本当にそうなのか自分では証明できない。誰かこれ証明できる人いる?」という意味らしい。言いかえれば「自分が宝石だと思って拾ってきた原石があるんだけど、これが本物なのかただのそれっぽい石なのか判断できない。誰か代わりに鑑定してくれる人はいませんか?」という感じだろうか。

予想を見つけるに至った行為や洞察、直感などは称賛に値するものの、予想自体にはまだそれほどの価値はない。なぜなら、それを使えばいろんな分野に応用できて様々な問題を解決できるとしても「実はウソでした!」となったらすべてが夢物語になってしまうからだ。でも、一度正しいと証明されればそれは予想ではなくなり、立派な定理としてこの宇宙が存在する限り成立し続ける。まさに数学の世界で永遠の輝きを放つ宝石のようになるわけだ。

さて、ABC予想の凄さはフェルマーの最終定理を証明するための特急券と言いかえることができる・・・が、「そもそもフェルマーの最終定理ってなんだ?」と言う方もいるはずなのでそこからはじめよう。

中学校の数学を思い出してもらいたい。直角三角形の三辺には次のような法則性がある。斜辺の長さの二乗は、他の二辺の長さの二乗を足し合わせたものに等しい。いわゆる三平方の定理(x^2+y^2=z^2)だ【※平方=二乗】。これは2000年以上も前に証明されたもので、ピタゴラスの定理とも言われている。

フェルマーの最終定理というのは、この拡張版だ。もし二乗を三乗にしたらどうなるだろうか?いわば、三立方の定理(x^3+y^3=z^3)が成立するような三角形は存在するか?存在するとしたらどんな法則性があるか?という問いかけだ【※立方=三乗】。

それに対するフェルマーの見解はこうだ。「残念ながらそんな三角形は1つも存在しない。それどころか四乗、五乗、六乗・・・と三乗以上についての式にはそんな三角形は何ひとつ見つからない、たぶんね」と予想したのだ。元々フェルマーの最終定理というのは証明される以前からずっと”最終定理”と呼ばれていた。どうして”最終予想”と言われなかったのかというと、フェルマーが生前に遺していた数々の予想がみんな正しかったからで、それに敬意を込めてのものだそうである(”最終”という冠がつくのはフェルマーの予想に対して後世の数学者がそれぞれに証明を与えていくわけだが、これだけが証明できずに現代まで残り続けていたからである)。

フェルマーの時代からおよそ350年の年月が経った1995年、フェルマーの最終定理はついに解き明かされる。解いた数学者は7~8年かけてこの問題を解いたわけであるが、はじめはどういう作戦でいけば解けるのか全く分からず「真っ暗な家の中に入っていくようだった。家具や段差にぶつかりながら最初の明かりのスイッチを見つけることですら数年もかかってしまった」と表現した。問題の難易度を常人に分かりやすいように言えばこんな感じになるらしい。実際にその証明はとても難解で、紙に書き出せば100ページを超えるものになったそうだ。

もし、フェルマーの最終定理が2017年までに解かれていなければABC予想の証明と同時にフェルマーの最終定理も証明されていただろう。それだけでも充分驚くべきことなのだが、この時フェルマーの最終定理の証明にかかる文量がルーズリーフ1枚に収まってしまうというのが更なる驚きだ。

フェルマーの最終定理を再掲する。

  x^n+y^n=z^n  (n=3,4,5,6・・・)

  この等式を成立させるための(x、y、z)の組合せは存在しない

  ただし、x、y、zは1,2,3,4・・・のような自然数に限る

ABC予想が正しいと証明された瞬間、ABC予想によってnが6以上の数字(つまり六乗、七乗、八乗・・・それ以降の式すべて)に関してこの等式を満たす(x、y、z)の組合せは存在しないことが導けてしまう(しかも高校数学で理解できるレベルで、である)。これで、考えるべきはnが3と4と5(すなわち三乗、四乗、五乗)の場合だけでいいことになったわけであるが、これらは下記の歴史上の数学者が既に証明していたので改めて自力で証明する必要はないのである。

・三乗はオイラー(1770年頃)

・四乗はフェルマー自身(1670年頃)

・五乗はソフィ・ジェルマン、ディリクレ、ルジャンドル(1825年頃)

そしてここに、

・六乗以上は望月新一(2012年)

を加えて全証明は終了である。2012年というのはABC予想を証明したという論文が発表された年であり、専門家によって「この証明は本当に正しいのか?どこか証明にキズはないか?」という検証に2017年まで足かけ5年もかかったという意味である。

ABC予想がフェルマーの最終定理を証明するための特急券だと言った理由がこれでお分かりいただけるだろう。ABC予想が正しければ、フェルマーの最終定理も同時に正しいことが証明できてしまうのである。

しかしながら、予想というのは誰でも言うことはできるものの、実際にそれに証明を与えるのは容易なことではない。(数学ですらなくなるが)それっぽい例をひとつ挙げてみたい。プロ野球における好打者はシーズン打率4割がある種の上限(最高は1986年、阪神・バースの3割8分9厘)のように見える。このことから、「シーズン打率5割を超えるバッターは決して現れることはないはずだ」という予想ができる(どうして好打者は打率が3割強~4割弱という数値に揃ってくるのか?という疑問を予想という形に焼き直してみただけである)。

「それを予想するきっかけとなる具体例はたくさんあり、おそらく正しいとは思うけど自分には証明する方法が分からない。本当であるにせよ、ウソであるにせよ、それをそうだと論理的思考だけで導けるのかどうかすらも分からない。自分には手に余る難問だし、生きているうちに他の誰かがこれを証明してくれたなら、是非ともそれを拝んでみたい。」

というように、どこにとっかかりを見出せばいいのかも分からないような難問は数学の世界以外でも探せば転がっている(証明できるのかどうかは別にして)。つまりABC予想が解決されたということを感覚的に言えば、それほどのものだ、ということだ。歴史上の大天才ですら頭を悩ませるような数学の本質に迫り、それを完璧に理解した世界で初めての人には敬服するほかはないだろう。

「ためになるわ」と感じて頂ければサポートを頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。