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【素人の鑑賞観】高級ティーカップ☕に入った味噌汁なんて要らんのですよ

1.心臓に刺さる悪夢の読書実験

 今から2年前、自分は「読書嫌いな私が村上春樹氏の本を読んだらどういった感想を持つのか?」という読書実験なるものを行った。

 結果から言うと、無数の意味不明な比喩表現に滅多刺しにされて、何が書いてあったのかさっぱり分からなかった。その代わりとして、言葉で言葉を飾りつけて徒に文字数を嵩増ししているという印象が強烈に残っている。それらは総じて物語に味わいを添えないどころか、中身をただ希薄化させているだけだった。このように、本編とは無関係な作者の言葉遊びを散々見せつけられたことによって「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」は底知れぬ空虚の時間と激しい動悸を自分にプレゼントしてくれたのである。

 例えるなら、道端に転がっている適当な石ころを拾ってきて適当に金箔を貼っ付けて「これは金塊です。素晴らしいでしょう?」と見せられている感じだろうか。確かに外観は物凄く綺麗で申し分が無い。しかしながら、金箔はそれ単体で綺麗なものであり、陳腐な中身を隠すためだけに金箔が使われているのだとしたら、それは余りにも芸が無さすぎる。自分のような素人を虚仮にするのはそれくらいにしておくべきだろう。

2.嘘臭さを漂わすのは勘弁して

 このように自分が物語に対して拒絶反応を示す判断基準は2つある。前述の通り、①本編と深い関わりを持たない言葉遊びや性的表現などの目眩ましで中身の無さを隠蔽している場合と、②作者が自分の創り出した世界に対して案内人としての責任を放棄していると感じた場合だ。一つでもあれば、自分は物語に没入していくことができない。
 なので、文章の読みやすさはもちろんのこと、物語の嘘臭さを払拭することは作者に課せられた暗黙の義務だと勝手に思っている。これは小説作品に限らず、終始綺麗な画を続けることで物語を描いているように見せかけているマンガやアニメ作品にも同じことが言えるだろう。

3.高級ティーカップには高級な紅茶を

 そういった作品群を見て自分が思い浮かべるイメージが高級ティーカップに入った味噌汁である。外観が素晴らしいにも関わらず、良く見るとそこには全く不釣り合いな中身が入っているのだ。個別に見ればどちらにも味わいがあるものなのに、両者を合わせればそれぞれの良さは打ち消し合って、たちまち違和感へと変わってしまう。「なんで、油揚げと豆腐が浮いてんだ!?」と戸惑うし、この外観と中身とのギャップがあればあるほど心理的な受け入れは困難になっていくだろう。それ故に、素晴らしい外観にはそれ相応の立派な中身を入れるべきだと思うのだ。

4.外観よりも、むしろ中身を充実させて欲しい

 画の綺麗すぎるマンガやアニメ作品を見始めた時、自分は「高級ティーカップに味噌汁現象か……」と身構えてしまう。その後、緊張した頭や体を作品が自然に解いてくれることを期待して鑑賞に入るけれど、大半の作品は中身がそれ相応ではないことが多い。下の鑑賞観図でいうとⒷに属する。

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 こうなる理由は、自分が中身・内容重視で作品を見ていることに他ならない(要するに偏見だ)。Ⓐだと思っていたのが蓋を開けてみればⒷだったことで「期待を裏切られた」と強く感じてしまう。その結果、Ⓑの落胆の度合いはⒶ~Ⓓの中で最大になるのだ。

 自分が物語に求めているのは単に綺麗な画ではない。「鬼滅の刃」の感想NOTEに書いたけれど、①精神的救済・浄化、②理不尽の加減、③人間関係の贅沢だ。この3種のいずれか(複数なら尚可)が丁寧に描写されているなら、作画が平均的であろうと、平均より劣っていようと気にはならない。自分にとって綺麗すぎる画は却って目眩ましに映り、中身に集中できなくなるという意味で苦手にしているのだ。

 先ほどの例えで言えば、かしこまって高級ティーカップを使うよりも、大衆的な湯飲みやマグカップを使った方が変に気取っていなくて良い。それには理由がある。仮に見た目が平均以下のカップであっても、実際に味わって中身が素晴らしいと知った時の方が良い意味での意外性やサプライズを感じるからだ(鑑賞観図で言えばⒸに当たる)。美味しい紅茶を味わう際には、自分は外乱(紅茶以外に目立つ要素)をできるだけ省きたいのである。

素人の鑑賞観まとめ

 「知ったようなことを書きやがって」という感じのことをここまで書いてきたけれど、素人の鑑賞観なんてのは……まぁこんなものだ。

 物語を見るにあたって、綺麗な外観より中身の方を欲していることを、高級ティーカップに入った味噌汁で例えた。これは、綺麗すぎる外観にはそれなりの立派な中身を描かなければ釣り合わないだろうという偏見を含んだ暗喩だ。結論としては、自分は外観よりも中身の方を重要視しているので、必ずしも外観が綺麗である必要はないように思う。

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