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ちょっと病んだ

「誰でも良いのか」と問われたら、答えに困る。答えに困って、そうではない理由を並べ立てる。きっと、話しかける前から考えていたことを、つらつらとのたまうのだ。聞いてくれる相手は誰でも良い。そういう自分なのだ。
 本心を話したところで、何が救われるのだろうと思う。どうせ、相手は困る。だけど「何故、自分に話したのだ」と僕を責めないだろう。泣きもせず、ただ泣きもせずに黙ったままの僕を見て、相手は心配するだろう。もしかしたら、本当に本心から困っていないかもしれない。でも、この僕のしんどい心を共有して、相手はどうなるだろう。もしや、僕が夜の間に命を絶ってしまっていないだろうか、と。心配してくれるだろうか。きっと、する。そして、どうにか僕を救おうとしてくれる。僕を、こんなしょうもない僕のことを、どうにか助けようとしてくれる。いや、実際に助ける。そうなのだ。そういう人なのだ。みんな、みんな、そうなのだ。
 だから、言わないでおく。どうせ、何も変わらない。僕がしんどい思いをするのはいつものことで、そんな大したことではなくて、まるで朝がくるように、まるで夜がくるように、当たり前のことなのだ。僕が、自分をうまく誤魔化せないから。本当に、これは必要なことだと思いこめば、きっとなんとかなる。なんとかなる。なんとかなるんだ。なんとかなるよ。だから、これ以上、惨めな真似は止めよう。しんどいと口にして、腫れ物のように扱われて「ああ、病んでしまったんだ」と。そんな顔をされるぐらいなら。そんな扱いをされるぐらいなら、僕は救われなくたって良い。助けられなくたって良い。いや、そうじゃない。結局、そんなの。
 僕のしんどさを相手に押しつけて、何の意味がある? それで、相手が救ってくれなかったら、助けてくれなかったら。僕は被害者で、相手は加害者だとでもいうのだろうか。僕は、相手を加害者にしたくない。僕を救えなかった、助けられなかった人のレッテルを貼りたくない。だから、僕は被害者になりたくない。そうだ。そのために、これまで生きてきたんだから。
 あれっ、本当だっけ?
 そんなことのために、僕は生きてきたんだっけ。ただ、ちょっと面倒になっただけ。そういうことにする。僕は、僕の所為にする。僕がダメだったんだ。僕が嫌なやつなんだ。ろくでもないやつだよ、僕ってやつは。なんで、みんな、僕みたいなどうしようもないやつに引っかかるのだろう。どうする? このまま逃げたら。これまで、いつでも誰かに助けてもらってきた意気地なしだよ。どこにも行く場所はないけど、どこか遠くへ行って、それでまた新しい人生をやり直す。本当に、そんな意気地もないのに、そういう妄想だけしている。
 満たされた? まさかね。ああ、今、ようやく気づいたよ。「そうすべき」が口癖のやつは悪人で、僕を加害者にしたてあげる。でも、昔の僕も同じことを言っていた。だから、過去の自分に殺されるだけなんだ。過去の自分を、自分は許せても。過去の自分に殺された人は、もう、二度と戻ってこない。だから、僕も甘んじて殺される。それが、運命だとでも言うか。馬鹿馬鹿しいね。

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