見出し画像

白揚社だより2021年夏号『統計はこうしてウソをつく』『愛を科学で測った男』を紹介!

白揚社2021年夏号をお届けします(白揚社だよりとは、白揚社の本に挟んでいる出版案内のことです)。「白揚社だより夏号」は『プリンストン大学教授が教える“数字”に強くなるレッスン14』や『元素創造』(8月発行予定)に挟んでいますので、書店で見かけたら、ぜひ手に取ってご覧ください!

さて今回の表紙は『犬から見た世界』です。すぐれた目と耳で、飼い主の微妙な表情の変化に気づき、飼い主の繊細な心の動きを見抜く――人間が犬を理解している以上に、犬は人間のことを理解しています。愛犬家必読のベストセラー。

▼「白揚社だよりVol.8」の表紙

画像1


■ ■ ■

今回の注目書◇『統計はこうしてウソをつく』◆ポピュラーサイエンス書研究家の鈴木裕也さんが注目する一冊を紹介

0111統計はこうしてうそをつく

『統計はこうしてウソをつく』ジョエル・ベスト 著 林大 訳 2860円(税10%込)


多くの実例を楽しみながら学ぶインチキ統計がはびこる理由

 私には何かというと数を数える癖がある。「街を歩くカップルのうち手をつないでいる割合は?」「銀座を歩く若い女性のミニスカ率は?」など、街を歩きながら、脳内のカウンターをカチカチ鳴らして「うん、銀座のミニスカ率は100人中〇人」とキリのいい母数になるまでカウントするのだ。このオリジナルの統計を企画会議などのプレゼンに利用していた。実にいい加減なデータだが、説得材料としては効果的だったのだ。
 だからかもしれないが、統計にはだまされないという自信があった。ずっとメディアにかかわる仕事をしてきて、たくさんの統計データを使用してきたからだ。それなのに、本書の冒頭で著者が「疑わしい主張大賞」にノミネートしたうえ、「これほどひどい社会統計はなかった」という統計の噓が私にはわからなかった。
 著者が示したのは「米国で銃によって殺される子供の数は、1950年以来、年ごとに倍増している」という論文だ。この主張が間違っている理由は、1950年に1人の子供が銃によって殺されたとすると、翌51年は倍の2人、52年はそのまた倍の4人と増えていき、60年には1024人、65年には3万人を超え、80年には10億人に達するからだ。これがあり得ない数字であることは明白だ。統計に対する私の自信はほんの数ページで打ち砕かれてしまった。
 本書は、ついつい信じてしまう統計が必ずしも正しいとは限らない理由を、実に興味深い実例を交えてわかりやすく解説した一冊だ。たとえば、「ある児童保護推進課が、毎年3000人の子供がインターネット上のメッセージにおびきだされて、誘拐されていると米国議会で述べた」という統計的な主張について。報道機関はこれを事実として伝えるが、著者は、「どの誘拐がインターネット上で誘拐することによっておこなわれたのかを記録する法執行機関があるのだろうか」と指摘する。私のオリジナル統計についていえば〝そもそもミニスカの定義は?〟〝若い女性とは何歳のことで、該当するか否かをどうやって判断したのか?〟など、問題だらけの統計だったことが本書を読むとよくわかる。

間違った統計が流布していく仕組み

 興味深いのは「突然変異統計」といわれるものだ。その実例として紹介されるのは、拒食症の危険についての統計だ。ある活動家が見積もった「米国には拒食症の女性が15万人いる」という数字を、フェミニストが「毎年15万人の女性が拒食症で死んでいる」と誇張した。これがメディアで受け売りされ、間違った数字が二次利用、三次利用されていく。こうして突然変異統計が蔓延し生き延びていくという。
 驚いたのは国勢調査の不正確さだ。様々な理由で人口の数え落としや数えすぎが発生し、その割合は人口の2%、数百万人に及ぶという。はたして正確な統計とは何なのか、考えさせられた。事実、世論調査は質問の仕方で結果が異なってしまうし、デモ参加者数も主催者と警察のどちらサイドの発表かで大きく数が食い違う。
 本書は、有名人に対するストーカー行為をしている人数、自殺するティーンエイジャーの同性愛率などについて、楽しみながら読みすすめるうちに、統計学の基本が身に付くような構成になっている。まさに、世間に流布される数字たちにだまされなくなるための統計学の入門書である。
 新型コロナ禍を報じるニュースにも多くの数値が用いられている。本書を読んで、誤った統計を鵜吞みにしないよう、よりいっそう注意しなくてはと改めて自戒した。(鈴木裕也・科学読み物研究家)

試し読みする(PDF)

■目次
はじめに──最悪の社会統計

1 社会統計の重要性
社会統計の台頭
社会問題をつくりだす
数字オンチの受け手としての一般大衆
組織慣行と公式統計
統計を社会的産物として考える
本書の構想

2 ソフトファクト──おかしい統計の根源
当て推量
定義
計測
標本抽出
よい統計の特徴

3 突然変異統計──数字をおかしくする方法
一般化──初歩的な種類の誤り
変換──統計の意味を変える
混乱──複雑な統計をねじ曲げる
複合的な誤り──おかしい統計の連鎖をつくりだす
突然変異統計の根源

4 リンゴとオレンジ──不適切な比較
異なる時点の比較
計測方法の変化  変わらない尺度  予測
異なる場所の比較
集団間の比較
社会問題の比較
比較の論理

5 スタット・ウォーズ──社会統計をめぐる紛争
特定の数字をめぐって論争する──100万人が行進したのか
データ収集をめぐって論争する──国勢調査はどのように人口を数えるか
統計と争点
統計の権威を主張する
スタット・ウォーズを解釈する

6 社会統計を考える──批判的アプローチ
素朴な人々
シニカルな人々
批判的な人々
避けられないものに立ち向かう

著者 ジョエル・ベスト
カリフォルニア大学バークリー校で社会学のph.Dを取得。カリフォルニア州立大学、南イリノイ大学などで教鞭をとり、現在デラウェア大学社会学・刑事司法学部主任教授。


白揚社の本棚◇『愛を科学で測った男』
◆マニアックになりがちな白揚社の本たち。その読みどころをカンタンに紹介

0175愛を科学で


 1950年代、心理学者たちは「子供には愛情が必要」という考えを非科学的だと否定し、子供に触れない衛生的な子育てを推奨していました。ところが、清潔な環境で栄養十分に育てられても、病死する子供が続出します。そんな状況を変えたのが、変人科学者ハリー・ハーロウ。なんとサルを使って愛情を「測定」し、子供には愛が必要であることを証明したのです。布の母親人形に抱きつく赤ちゃんザルの写真(上写真)は有名になり、ハーロウは一躍科学界の英雄に。その一方で、残酷な動物実験を繰り返したと非難され、次第に忘れられていきます。『愛を科学で測った男』は、そんな天才の波瀾万丈の人生と、子育てに絶大な影響を及ぼした心理学革命を、ピュリッツァー賞受賞ジャーナリストが克明に記した一冊です。

試し読みする(PDF)

■目次
はじめに——新版によせて
プロローグ 弧を描いて飛ぶ愛
1 ハリー・ハーロウの誕生
2 人の手に触れてもらえない
3 アルファ雄
4 好奇心の箱
5 愛の本質
6 完璧な母
7 愛の連鎖
8 箱の中の赤ちゃん
9 冷たい心、温かい手
10 愛の教訓
エピローグ 行き過ぎの愛

著者 デボラ・ブラム
ウィスコンシン大学科学ジャーナリズム論教授、サイエンスライター。「ニューヨークタイムズ」「ワシントンポスト」「ディスカバー」など多くの新聞・雑誌に執筆。1992 年、霊長類を動物実験として使う倫理問題を論じた新聞連載でピュリッツァー賞受賞。それをもとにした『なぜサルを殺すのか』のほか、『脳に組み込まれたセックス』(共に白揚社)、『幽霊を捕まえようとした科学者たち』(文藝春秋)、『サイエンスライティング』(共編、地人書館)などの著書がある。

最後までお読みいただきありがとうございました。私たちは出版社です。本屋さんで本を買っていただけるとたいへん励みになります。