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未経験者採用と経験者採用

これを読んでいるのは求人広告制作関係者だけなので、いまさら感満点なテーマで大変申し訳ないです。今回は未経験者採用と経験者採用の違いについて殴り書きします。あ、いや決して殴らないのでご安心ください。いたっておとなしい性格です。

この回を読めば、応募資格や検索フラグだけ『未経験』にして応募数を稼ぎつつ実は経験者採用を狙う、みたいな行為がいかに愚の骨頂というか、本質的にやってはいけないことかわかります。

そういうことを求人広告事業者のみならず採用企業まで一緒になってやってるから、結果として求人広告ではまともな人材が採用できない、やっぱ人材紹介だよね、みたいなことになっているんですよね。

でもぼくは決して求人広告でまともな人材が採用できないなんてことはないとおもっています。人材紹介には紹介の良さがありますし、同じように求人広告には広告の良さがある。そこを明確にするためにも、まず未経験採用と経験者採用はこれだけ違う、ということをおさらいします。

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不安払拭の限りを尽くす

はじめに、未経験採用について。

ひとことで未経験採用といっても実はさまざま。その仕事の経験を持っていない職種未経験もあれば、業界がはじめてだという業界未経験、さらにはまったくの職種経験すら有していない社会人未経験まであります。

最初に求人広告制作者がやるべきことは、その案件の未経験はどれを指すのか、をしっかり見極めることです。ここでメッセージを届けたい相手をさだめて、どのような内容をどういったフレーズで伝えるかを決めます。

当然ですが、ある程度の社会人経験を有しながらも新しい職種にチャレンジしようと思っている人のマインドと、長らく続くフリーター生活からなんとか脱出したいと思っている人のマインドって異なるものです。

そこを見誤ると、コミュニケーションが成立しなくなる可能性があります。

採用対象者とメッセージの関係性をざっくりといえば以下の通り。

職種未経験者には…仕事軸でやりがいや面白さを訴求
業界未経験者には…業界特性と職種経験がどう活きるかを訴求
社会人未経験者には…可能性やビジョンを訴求

もちろん上記はあくまで基本の型であり、取材を通じてより魅力的なエピソード、訴求力の高い打ち出しが見つかればそちらを採用すべきです。ただ一定の型を持っておけば安心ですし、応用も効きますよね。

そして、詳細な仕事情報は一にも二にも「わかりやすく」「具体的に」を心がけます。なにしろ読み手は未経験なわけです。読みながらできるだけ立体的に仕事がイメージできることを目指す。これ結構むずかしいんです。

なのに現場では未経験募集だから簡単だろうと新人クリエイターに丸投げしちゃうパターンが往々にしてあるんですよね。

応募資格や会社の情報についても同じで、未経験者は往々にして「不安」です。未経験の種類に応じてその「不安」を払拭してあげることも、求人広告の大事な役割だとおもいます。

そしてこのあたりについては紹介会社のように人が介在しないので、情報は多めに提供してあげることが肝要かと。

なんといっても求職者にとって応募前に、そして面接前に頼りになるのは求人広告に掲載されている情報だけですから。

そして力関係としては往々にして『求人企業>求職者』となります。

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情報の「自分ごと化」を狙う

つづいて、経験者採用について。

経験者の定義はふたつ。職種経験者と業界経験者。でも、業界経験者で職種の経験を持たない人はいわゆる職種未経験者に属するから、実際にはひとつですね。その職種の実務経験を持っている人になります。

経験者募集原稿を作るときのポイントはいたってシンプル。ミッション・ポジション・待遇のいずれか、あるいは組み合わせでつくる。以上です。

たいがいの経験者は、自分のスキルとキャリアのモノサシをもっています。俺は、私は、これぐらいのことができて、今の会社でこれぐらいお金をもらっている。だからこの会社に転職するならこれぐらいの給与額をもらうに値する、みたいな。

そんな鼻息荒くなくとも、いまこれぐらいの仕事でこれぐらいもらってる。でも少し背伸びしてこういうことにもチャレンジしたい。だけどいまの会社にはそのポジションがない。つきましては給与額がスライドしてもいいから転職したい、みたいな。

とにかく、転職にあたっての自分なりの判断基準が明確なんですね。

そんな経験者たちが欲しい情報が、ミッションか、ポジションか、待遇なんです。ぼくもそうでした。

ミッションとは…経験者に期待すること、何を任せるかについて
ポジションとは…入社時どの地位からスタートしてもらうかについて
待遇とは…その経験をいくらで買うか、あるいは特別な処遇について

これら3つは経験者に刺さる以上に未経験者にはさっぱり魅力として伝わらないものばかりです。逆にいえば未経験者に伝わるような内容では経験者には物足りない。経験者が読んで「ニヤリ」とか「ははあーん」と膝を打つような訴求が求められるのです。

仕事内容についても同様で、基本的な一日の流れ…とかはどうでもよくて、目標数値設定の根拠であったりマーケット規模だったり、あるいは業界の将来展望などが知りたいですね。

技術職の場合は使用する道具の種類や、それが支給されるかどうかなど。開発環境、使用ツールからも職場のリテラシーをイメージできます。

とにかく、経験者は求人広告に掲載されている情報をキャッチして自分なりに脳内で立体化する能力を持っています。なので、求人広告の役割は情報提供が最善。しかもノイズにならないように選別する必要があります。情報は量より質ということですね。

力関係は『求人企業≦求職者』だったりします。

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未経験者と経験者ではこれほどまでに求める情報が違う、ということがおわかりいただけたでしょうか。といってもこのnoteは求人広告制作関係者にのみ向けて書いているものなので、当然というか常識だったかもしれません。すみません。

問題は、こんなにも属性もヒットポイントも違うにも関わらず、冒頭でも書いた通り「応募数を集めるために未経験フラグを立て、掲載規定に抵触しないように応募資格に未経験可と書き」ながら実は経験者を狙っていくというわけわかめな広告が横行しているってこと。

なぜそうなるか。きっと、その採用担当者が過去にそれで成功した経験があるからだとおもいます。でもその成功は残念ながら偶然、あるいは求職者側の求人広告リテラシーの低さが招いた出会い頭の僥倖(あるいは事故)にすぎません。再現性のなさがそれを表しているはずです。

採用担当者が年配の方の場合は紙媒体の時代の思い出から抜け出せないというケースもあるでしょう。一方、ヤングでも面接通過率から逆算して必要応募数を割り出し、それを媒体社の担当営業につきつけて鼻の穴を大きくするというエセ・マーケティング風味確率論が跋扈していることも理由のひとつかも知れません。

「それでも未経験募集にしないと検索にひっかからないし、ひっかかって経験者が応募してくるってことは、やっぱり求人広告なんて読まれていないんだから未経験にしとけばいいじゃん」

かつてぼくはこのような台詞を吐かれたことがあります。だけど、だからといって、読者である求職者がよく読んでないから、読んでも意味が伝わっていないから、求職者を騙すような行為をやっていいのか。

だいたい読んで意味が伝わってないのはその広告を作ったクリエイターの力不足であり、その力をつけさせるには未経験者採用と経験者採用の違いをキッチリと広告で表現する環境が不可欠じゃないのか。

そんなふうに反論したものでした。若かったですね。

いま、これを読んでいる求人広告制作者の中で、まだ経験が浅くてこういった圧力に逆らえないという方がいたら、この記事に書いてあることを盾にして戦ってみてください。もし勝てたらすばらしいし、負けたとしてもどっちが正しいかは歴史が証明してくれます。たぶん。

いずれにしても、もう、かつての悪徳SESや家電携帯量販店向け派遣会社のように「なんでもいいから大量に応募させてその中で選別していく」という人材を物のように扱う業者のやり口からは卒業しないと「求人広告がなくなる日」は早晩訪れるとおもいます。

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