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競業への転職禁止について考えてみた

毎週月曜日、求人広告制作について忌憚なく語る『求人広告制作note』ですが今回も前回同様、制作という観点から少し離れたテーマでお送りいたします。

競業への転職禁止について、です。

競業への転職禁止ってなに?という方も多いかと思うので最初に解説を。

求人広告事業者が自社の社員に対して「おまえさん、うちの会社を辞めたのちに同業に転職したらいかんぞなもし」とお達しすることです。

ええっ!?この令和も5年目を迎えようとする超AI&DX社会でそんな埃っぽい掟があるなんて!ウッソーホントーシンジラレナーイ!

と、思うでしょ?ところが意外と残っていたりするみたいなんです。

みたいなんですというのは

実際にそういう縛りがあるので…と行動を制限されているという人を知っているんですが、求人広告代理店に約2年、媒体社に13年在籍していたぼく自身そういうことは言われたことないんですよ。

だから本当なのかどうかは若干、疑わしい。
未確認制限物体なのです。

だけど、よく考えてみると版元の場合はそうしたい気持ち、わからないでもないんです。

版元というのはリクルートとかパーソルとかエンとかマイナビですね。人によってはメディアといったり媒体社といったり、珍しいところではメーカーなんていう場合も。それぞれメディア企業は工夫を凝らして独自性のある媒体づくりに余念がありません。

(の、わりにどこも似たりよったりになるのは世界の七不思議ですが)

また、メディアは目に見える媒体特性やサービス以上に登録会員のデータベースをとても大事にしています。当たり前ですよね、会員情報は個人情報であると同時に金のなる木ですから。

だから万が一、在籍中の社員が会員DBにアクセスできるURLやID/PASSなどを持ってするりと競合企業に転職されると困るわけ。するりと転職したさきでぺろりと情報流出したりするとコトなわけ。

つい先日もこんなニュースありましたよね。

はま寿司で働いていた人がカッパ寿司に転職し、その際にはま寿司の営業秘密データを持っていったという。おそらくですがカッパ側としては、見返りに相当なポジションや金子を用意したに違いない。

こういうトラブルを避けるためにあるのが「競業への転職禁止令」なのです。令和の刀狩りみたいなもんですね。違うか。

版元ならわかるけど…

でもこれ、版元なら上記の理由から禁止する意味もわかるし気持ちもわかるんです。

問題は、これまでぼくが見てきた「や、競業禁止なんで、自分、社員インタビュー出れないんすヨ」となぜかしたり顔で語る人たちが全員『代理店』出身者ということ。

代理店というのは版元から降りてきたキャンペーン施策にのっとって文字通り販売代理、営業代理を行なう会社です。会社によっては制作部門も用意してそれっぽい体裁を整えますが、弱小代理店は単なる営業会社だったりします。スペースブローカーでしかないわけですね。

そういうところの出身者がなぜか、鼻の穴を大きくふくらませて「や、競業禁止なんで以下略」を繰り返す。これが不思議で仕方ない。

イキってるだけ疑惑

ま、もともと代理店で版元から煮え湯を飲まされてきただけに、同じく代理店だろうがなんだろうが新天地ではちょっと大物ぶりたいイキりたい、という気持ちから出たハッタリなのかもしれません。たぶんそうでしょう。

だって版元のどまんなかで制作部門のぜんぶをつくったぼくですら、辞めるときに競業禁止だなんていわれなかったもん。

ま、ぼくの場合はどうせ大したタマじゃないからほっとけほっとけ、あんなやつどこにいっても何もできやせん、とハナっからナメられていただけなのかもしれませんが。

その逆に創業メンバーだけにそんな小狡いことはしないだろう、と信用されていたんだったらうれしいですけどね(頼むからそっちであってほしい)。

では真剣に考えましょう

競業への転職禁止がどんなものかわかったところで、少しまじめにこのおふれについて考えてみたいと思います。

まずはじめに日本には職業選択の自由がある。しかも法律で定められているんです。日本国憲法第22条第1項です。

日本国憲法第22条第1項
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

wikipedia「職業選択の自由」より

そして職業選択の自由、と書くと自然に「アハハーン」というファンタジックなスキャットが思い出されます。

懐かしいですね、サリダのTVコマーシャル。そして高橋幸宏さん。闘病生活を続けていらっしゃいましたが先日、とうとうお亡くなりになってしまいました。幸宏さんがいらっしゃらなければぼくは音楽もドラムもやってないしなんならコピーライターにもなっていませんでした。すべての原点です。心よりご冥福をお祈りいたします。

あまりにも大事に思う人が亡くなると、下手に追悼のコメントなど書けないものですね。ぼくもまだSNSなどに何か関連することは書けていません。気持ちの整理がつかない。ついてたまるかそんなもん、とさえ思う。


さて本題に戻す前にもうひとつ小噺を…

実はぼく、上記で紹介した学生援護会初の女性向け転職誌「サリダ」の創刊にいち代理店の制作マンという立場で関わりました。

こちらのnoteでもちょっとだけ触れています。

そのサリダの創刊、どんなだったかというとこれが驚くばかりの阿鼻叫喚。なんせ入稿したデータがバラバラに反映されているんですから。発売日の朝からオフィスはまさに地獄絵図です。

キャッチコピーとビジュアルがあってないなんてかわいいほうで、フリースペースと募集要項が違うものだったり、ひどいのになると会社名と連絡先だけ違っていたり…ソッコーで回収となったのはいうまでもありません。

当時の援護会のDTPシステムがイマイチだったんでしょうね。版元はさぞや燃え盛ったことでしょう。何人ものDTPオペレーターの死体が累々と…南無~。

ちゃんと本題にもどします

とにかく日本には職業選択の自由が保障されているわけです。それを声高にうたっている業界の会社自らが職業選択の自由を剥奪するとはなにごと?って感じですよね。

さらに、求人広告に関する会社というのはどちらかというと転職活動が盛んになればなるほど潤う構造。誰も転職しない世の中だったとしたら、そもそもそこにサービスが介在する余地はありません。

誰もが職業選択の自由を手にし、より自分らしく働ける環境を求めて職を変える。会社を移る。そうして自らのキャリアを充実させることで豊かな人生を歩んでいく。

そのお手伝いをするのが求人広告に関わるプロダクトであり、サービスであり、人じゃないでしょうか。

にもかかわらず、自分の会社の不利益になりそうだ、という資本主義に利己主義が絡まったみみっちい理由から、ウチの会社の社員に限っては転職の自由をゆるしません、なんていうジャイアンルールが通用するわけないだろう。

君たちも君たちで

また、それを言われたからって何も考えず、調べず、思考停止して自分の権利を放棄する輩もどうかと思います。

ぼくはこの記事を書くにあたって先週末、謎の競業転職禁止ルールは存在しない、との言質を業界最大手の青い会社の人から取りました。少なくともグラントウキョウサウスタワーに本社がある会社さんではありえないルールだということです。

おそらく推測通り、代理店出身者がよくわからない虚栄心とドヤりたいヨコシマなデイドリームからそれっぽい風習をつくったのでしょう。

ですので求人広告制作者はこんなヘンテコリンな業界風習なんかに惑わされないようにしましょうね。もし自社に転職してきた経験者が鼻の穴を大きく膨らませて「や、競業禁止で…」とか抜かしたらへそで茶を沸かしましょう。きっとそいつはニセモンかせいぜい小物です。

でもいま思い出したんだけど

確かに版元に入社したばかりのとき、競業禁止なんで…と顔出しNGの社員がいたわ。いたいた。それも結構な数いた。

その版元はもともと業界最大手の代理店からスピンアウトして生まれた会社だったんですよね。なので立ち上げ当初は本体の代理店から転籍したり出向してきた営業社員が多くを占めていたんですが、彼ら一様に「自社稿の写真はちょっとNGで…」と逃げまくっていました。

その数年後、本体の代理店も廃業してスピンアウトした版元傘下に入ったんですが、その大きな理由は業界最大手からの圧力(大幅なマージンカットなど)という話でした。

そこでふと思ったのは版元と代理店との間の契約条件の中に社員の競業への転職禁止を特記事項として入れている可能性はあるかも、ということです。とにかくナンバーワンであるために万全を尽くすのが当時の業界最大手のスタイルでしたからね。

だけど、そんなことしないと競合への情報流出が防げないのっていかがなものかと。それより情報管理の仕組みをテコ入れしたほうが早くね?

ま、20年以上前の話なので、いまはもうすっかりこの手の風習はなくなっているとは思いますけどね。業界最大手も上場してコンプラうるさいでしょうしね。独禁法とかこわいだろうし。

みなさんの周りで競業禁止君(さん)を見つけたらぜひ「職業選択の自由~アハハーン♪」とツッコんでみてください。

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