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【広告本読書録:066】日本のコピー ベスト500

安藤隆 一倉宏 岡本欣也 小野田隆雄 児島令子 佐々木宏 澤本嘉光 仲畑貴志 前田知巳 山本高史 編著  宣伝会議 発行

どうです、この錚々たる編著の顔ぶれ。時代を超えて活躍するトップコピーライターがズラッと並んでいます。よくもまあ、こんなにバランスよく揃えたもんだ。で、この方々が何を編んだのか。何を著したか。

あるとき、東京コピーライターズクラブ会長である仲畑貴志さんが「記憶のコピーを探すのに、重いコピー年鑑をあちこち開くのはたまらん。良いのだけ一冊にまとめてほしいなあ」と言いました。それから想を得て生まれたのが本書です。(はじめに)

と、ある。つまり、この本は昭和何年ごろでしょうか、相当昔に遡るのだとおもいますが、だいたい半世紀ぶんぐらいの間に生まれた日本のキャッチコピーの中から選りすぐった500本を紹介しているものなのです。

その選出、および100位までのコピーの寸評に、冒頭のお歴々が関わっているというわけですね。これは大変便利でお買い得な一冊といえましょう。初版第一刷は2011年9月1日とある。もう9年も前になります。

なぜコピー年鑑はあんなに分厚いのか

仲畑さんが言うまでもなく、コピー年鑑は厚くて重い。青雲の志高く、の頃はあの厚さ、重さが逆に夢であり、憧れであり、権威でありました。しかし人生に秋風が吹きすさぶ頃になると、どうにも胃もたれしちゃうのね。

こないだも大森のブックオフをぶらぶらしていたら2000年とか1997年ぐらいの、つまりぼくがまったく広告から離れていたころのコピー年鑑が売ってたんです。しかもですよ、定価20000円ぐらいするやつが、中古だけれどもなんと1500円で!

それはもう、志村けんばりの「ワーオ!」で2冊を抱えてレジへ…向かおうとしたんですが、いかんせん、重い。でかい。かさばるわけ。こんなもん持って大井町駅でりんかい線の乗り換えできる自信ない。国際展示場の駅からマンションまで歩いて帰れる自信もない。やめよう…となったのです。

そんときおもったんですよ。なんでコピー年鑑ってあんなに分厚くて重たい仕様のまま、このイソターネッツの時代に生き残ってんのかな、と。書店だって置きたくないでしょう、あんなかさばる本。しかも売れるかどうかもわからんわけだし。場所とるわ、重いは、一年で一冊売れるか、売れないか。

さきほども書きましたが確かに、権威ではあります。うっすいコピー年鑑なんか見たくない気もします。でも、だけどですよ、もうちょっと違うアプローチで権威をキープしつつ、いまの時代にフィットしたコピー年鑑があってもいいようなもんですけどね。それこそクリエイティブなアイデアがひとつ、よろしくやってほしいなあ、なんて。

時代を、市場をつくったコピー

と、まあ本の紹介から外れてしまったので元にもどします。こちら「日本のコピーベスト500」とあるだけに、上位100位までがランキング形式で紹介されています。ただしベスト10までは投票順位、そこから100位までの90本は順位ではなく年代別に、そして残りの400本も同じように年代別に並べられています。

この中で解説がついているのが上位100位まで。うち10位までは編著者全員のコメントがついています。そこから下は一本に一人が担当するスタイル。

おそらくほとんどのコピーライターの方は一度は手にとって、結果をご存知だとはおもいますが、ネタバレ覚悟(?)でベスト3を紹介しますね。

1位:おいしい生活。

2位:想像力と数百円

3位:おしりだって、洗ってほしい。

すごい。糸井さん、糸井さん、仲畑さん。やはりこのツートップは昭和、平成、令和にまたがって崩せない山なのか。

確かに、これらのコピーは選者も絶賛するエポックメイキングばかりだ。真似しようったっていろんな意味で不可能である。時代をつくった、あるいは市場をつくったコピーの名作であることはぼくにもわかります。

なので、それはそれとして……ここでは徹頭徹尾私事で恐縮ではありますが独断と偏見で500本の中から『ぼくのベスト10』を選出させていただきます!もし「そうそう、これこれ!このコピー良かったよな」というものがあればとてつもなく幸甚でございます。

独断と偏見によるベスト10

ではさっそく10位から……

第10位:高速中国ANA 一倉宏/全日本空輸

この広告をはじめて見たのは取材帰りの山手線車内でした。ドア横ポスターだったとおもうのですが、上海(だとおもう)のタワーが夜空に輝きを放っているビジュアル。大きくゴシックで「高速中国ANA」と書かれていて、ぐっと惹かれた覚えがあります。そして見た瞬間に「一倉さんかな?」と直感でおもったことも。力強いキャッチです。

第9位:別ヨ 児島令子/ANA’s別冊ヨーロッパ

これは雑誌か何かを見ていて「別ヨて!」とツッコんだ記憶があります。元ネタがわからない方のために説明しますが、少女漫画の世界では別冊マーガレットのことを「別マ」と呼びます。それがわかっている人から「クスっ」となる。ターゲットはその世代の女性ですから。冗談みたいなキャッチですがターゲットセグメントの重要性を感じたものです。

第8位:ネクタイ労働は甘くない。 眞木準/伊勢丹

自ら「ダジャレではなくオシャレ」と豪語するその道の第一人者、眞木準さん。長く担当されていた伊勢丹のコピーの中では個人的にこれがいちばん気に入っています。確か大学卒業したて(だったはず)の田中康夫をビジュアルに起用した新聞広告。いやそれにしても上手いこと言うなぁ…と舌を巻いたものです。

第7位:僕の君は世界一。 糸井重里/パルコ

糸井さんのコピーの中で最も詩的というか、アッコちゃんが曲をつけたらなかなかの作品になりそうな佇まいのフレーズ。そうなんだよ、僕にとっての君は世界一なんだ。そしてそう言われる彼女はなんて幸せなんでしょう。そしてこのコピーを見て、パルコっていいお店なんだな、と感じるぼくら。なんだかあたたかい、幸せなサークルに入れてもらえた気がしました。

第6位:太るのもいいかなあ、夏は。 土屋耕一/伊勢丹

眞木準さんにバトンタッチする前の伊勢丹は、ザ・土屋耕一劇場でした。山ほど名作コピーが生まれたわけですが、そんななかでぼくが推すのはちょっぴり地味なこのフレーズ。なんだか、のびのびと、すこやかな感じが気に入っていまして。モデルの女性もやっぱりふくよかなんだけど、にこやかな笑顔がすてき。そうなんです、夏ぐらい、太ってもいいでしょ。

マニアックなコピーの祭典、いよいよ残り5本

さあ、いよいよベスト10も折り返しです。5位以下いってみましょう。

第5位:なぜ、時計も着替えないの。 粟野牧夫/SEIKO

これは中学生ぐらいのときにテレビのコマーシャルで見て以来、ずっと刺さっているコピーです。というのもCMのストーリーが非常にわかりやすい。なるほど、と膝を叩く15秒です。

ではどんなCMか。懐かしいTVCMアーカイブの第一人者として尊敬しているmakotosuzukiさん(この人は本当にすごいアーカイバーです)がアップしてくれている『1976-1992 腕時計CM集』19:37~に収められています。

このCM集には他にも名作がたくさん収録されているので、ぜひ最初から最後までお楽しみください。

第4位:サラリーマンという仕事はありません。 糸井重里/西武セゾン

糸井さんは求人広告を作らせても上手い。さすが、早い、安い、糸井です。これは西武セゾンの求人なのですが、たしかに、そうだよなあ…と首肯させられるフレーズですよね。長いこと糸井さんのコピーを見ていて最近おもうのが、糸井さんのコピーには必ず「発見」があるんですね。しかもそれをわかりやすく提示するための、既存フレーズとの合体。どこかで聞いたことがある顔つきで斬新な気づきを与えてくれる。それが糸井コピーの極意かと。

第3位:帰ったら、白いシャツ。 眞木準/全日空

ダジャレ、いやオシャレコピーの帝王から繰り出される、ストレートなコピー。これはまったく狙っていません。しかし、すごく情景が浮かびます。ああ、いいなあ、南国で健康的に日焼けして、帰国したら白シャツが映える男(女)になれるんだ。夏のリゾートのイメージが一気にふくらみますよね。眞木さんはダジャレ系ではない領域でも名作を生む、本当に稀有な才能を持ったコピーライターだったとおもいます。

第2位:地図に残る仕事。 安藤寛志/大成建設

このフレーズはどこのゼネコンでもいえます。しかしだからこそ、一番乗りした大成建設の勝ちです。他社はさぞ悔しいおもいをしたでしょう。このコピー、大成建設の現場には必ず掲げられています。おそらくこの先も、ずっと使われ続けることでしょう。広告とは本来、刹那的なものです。その中において、耐久性の高いフレーズが作れたというのは、コピーライター冥利に尽きるのではないでしょうか。

第1位:人類ハ麺類 村上孝文/日清食品・麺皇

このキャッチコピーに触れた時、そうだ、将来こういう言葉をつくる仕事に就こう!とおもったかどうかはわかりませんが、確か小学生ぐらいでした。アホみたいに「人類は麺類」といい続けていましたね。それぐらい、地方都市のガキにとってはインパクトのあるフレーズだったのです。そうか、人類は麺類なのか。だからオレはラーメンが、特に日清のインスタントラーメンが大好物なのか。なんて勝手に思い込んでしまった。なんでもない6文字ですが麻薬的な力を持つコピーです。

■ ■ ■

と、いうことでいかがでしたでしょうか、極私的独断と偏見で選ぶ日本のコピーベスト10。お前の選出なんかどうでもいいわ、とおもわれる方も決して少なくないでしょう。わかります。そうおもわれた方はぜひ、一冊購入してご自身なりのベストをつくってみてください。たぶんぼくのランキングとぜんぜん違うものができあがるはずです。

コピーは選ぶものです。選ぶ感性、選ぶ視点が磨かれていないと、いいコピーは書けないはずです。そういう意味で、ぼくのランキングもまだまだというか、センスがいいかどうかは確証が持てません。

ただ一つ言えるのは、インプットは大事だし、何に影響を受けてきたかはその人のアウトプットの質を左右するということ。ぜひご自身のランキングをつくり、眺めながらなぜ選んだかを考え、いまの自分の仕事にどのような影響を与えているかを振り返ってみてください。

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