『象られた力』

【ネタバラシしておりません】

『象られた力』

著者:飛浩隆

出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)

発行年:2004年9月15日

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裏表紙より。

惑星〈百合洋(ユリウミ)〉が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星〈シジック〉のイコノグラファ―、クドウ圓(ひとみ)は、百合洋の言語体系に秘められた”見えない図形”の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった……異星社会を舞台に”かたち”と”ちから”の相克を描いた表題作、双子の天才ピアニストをめぐる生と死の二重奏の物語「デュオ」ほか、全4篇を収録した日本SF大賞受賞の傑作集

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 久しぶりにSFを読もうということで、早川書房から出ている本書を手に取りました。「デュオ」、「呪界のほとり」、「夜と泥の」、「象られた力」の4編が収録されています。昔、大学の読書会で「デュオ」が課題になったから本書を買ったんだよなあと懐かしい思いが湧いてきました。懐古はほどほどにして、〈SFほぼ読んでこなかった素人読者〉の私でも4編とも楽しく読むことができました。まず、学生時代に読んだけどすっかり忘れていた「デュオ」、これはミステリ的趣向がすばらしかったです。(課題短編に選んだ同級生はやはり素晴らしいです。)調律師が双子の天才ピアニストと出会ってから、歯車が少しずつ狂い始めます。冒頭らへんで出てくる〈右手と左手、生と死、音楽と感情の二重奏をめぐるエピソード〉(p.10)という意味が、徐々に分かるようになると、なかなかに怖い展開になっていきます。好きだなあ。また、主人公と竜が色々あって道を間違えてしまい、とある男に出会う「呪界のほとり」は、ザSFのような感じでした。(生ぬるい感想だこと。)主人公に面白い設定があるのが良かったです。〈モラル・マルチプレックス〉(p.135)……これは本当に嫌な思考システムです。そして、「夜と泥の」は幻想的な雰囲気からあの展開、見事にやられました。最後に、表題作である「象られた力」。どこをどう考えたら、このような作品ができるのだろうか……。すごかったです。いわゆる「かたち」について少し考えてしまいました。

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