ショートショート 悪魔

*はじめに
このショートショートはフィクションです。

あるところに一人の青年がいた。
その青年は生まれたときから一人だった。

そして人の悪意の中で生きてきた。

僕は誰かに僕のものを
渡したことがない。
僕のものは僕のもの。

だから、
人から何かを借りても決して
返さない。

僕の手に入った瞬間から、
それは僕のもの。

何を言われようと構わない。
僕のものは僕のもの。

この世界で生きていくためには、
たとえば、お金が必要だ。

僕は人からお金を借りる。
借りるのなんて、簡単だ。

向こうから借りてくださいという。
返すのが当たり前だと思ってる。
僕のものは僕のもの。

いろんな人が僕のところに来て、
返せ返せと喚き散らす。

僕は決して返さない。
僕のものは僕のもの。

やがて黒眼鏡をかけた人が
僕のところにやってくる。

黒眼鏡の男は借りたものは
返すのが当たり前だという。

僕はいう。

「なぜですか?僕のものですよ。」

それを聞いたその人は、
僕に命を渡せといい、

後ろにいた子分に僕を襲わせる。
遠のく意識の中で、
黒眼鏡の男はいう。

「やっと、返すことができたな。」

と。




海の中。
僕はどんどん沈んでいく。
足についた重りで浮かばない。
海の底で僕は考える。

バカなヤツだ。

僕は何も返さない。
僕のものは僕のもの。

僕は僕がいらないといえば、
どんなものでも
僕のもとから離れていく。

痛みや、傷や、
この足かせや、
海の水さえも。

僕のものは僕のもの。

いらないものは、
僕はいらない。

僕は再び、
黒眼鏡の男の前にいる。

男は驚く。

「お前は、誰だ?」

「さあ、誰だろうね。
僕はあなたがいらない。」

その瞬間、
黒眼鏡の男は消えてしまう。

やがて人は僕をこう呼ぶ。

悪魔と。

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