アリクイのもちくんとシロノワールという概念の結婚

 うちにはアリクイのもちくんが住んでいる。私の彼女が、裏の世界の上野動物園にあるという、闇のぬい身販売の店で購入してきた。(周知のとおり、ここにはさまざまな問題がある。しかしながら、こういった方法は、われわれ人間たちがぬいたちと暮らしはじめるためのもっとも容易な方法として、認められなければならないだろう。話が逸れるため、この問題には、これ以上深入りしない。)最初は、我々人間の生活に慣れず、疲れている様子であったが、一週間もしないうちに、慣れてきたようで、元気になった。
 あるとき、彼女と彼と私の三人で話していたときに、もちくんから、あることを打ち明けられた。以下はそのときの会話である。
 
もちくん「コメダ珈琲のシロノワールと結婚しようと思うずら」
彼女「え?シロノワールは食べ物だから、結婚はできないよ」
もちくん「でも、好きなんずら!」
私「あれだな、きっと、シロノワールという概念と結婚するんだ」
彼女「いやあ、概念とは結婚できないでしょう。シロノワールは食べちゃったら、なくなるし……」
私「結婚は認められないですか……?」
彼女「……他の人?とかとも会ってみたりして、決めたほうが」
もちくん「そういうことを結婚式で言うずらか?こないだ結婚した〇〇ちゃんに言ってくるずらな!他の人ととも試してこいってな!」
私「たしかに、あらゆる結婚について、そういうことは言えるね。だから、本人の気持ちを大事にしたほうがいいよ」
彼女「シロノワールという概念に果たして、気持ちがあるのか?」
もちくん「人間には気持ちがあるのか?僕も概念的に存在していると思うずらな。もち性を伴ったアリクイずら。」
彼女「でも、それはすべてのシロノワールに共通する、一般的なシロノワール性と結婚するということでしょう?それは、ある種の性別とか、ある種の人格類型とかと結婚することと同じではない?」
もちくん「人間同士のカップリングもそういうところあるずら、女だったら誰でも良い男とか絶対いるずらな!」
彼女「シロノワールだったら、なんでもいいってことなのか?それは、シロノワールに失礼じゃない?」
もちくん「男のうちの一人の男を選んで結婚するずらから、甘いもののうちのシロノワールを一つ選んで結婚するずらな」
私「ほえ?」
彼女「あたしは、すべての私くんに共通する、一般的な私くん性と付き合ってるってことじゃない?」
私「いや、ちょっと待って、私は性質だけじゃなくて、なんか実体?みたいなものがあると思うんだよね。彼女さんは、それと付き合ってるんじゃないの?なんというか、いやらしい意味じゃなくて、この体と、あとなんだろう、そこについてる私的なものだ。いやらしい意味ではなくてね!」
もちくん「違うずら!もしも、僕が喋らなくても、体がなくても、存在しているものがあるはずずらな。それが僕ずら。だから、シロノワールにもそういうのがあるずらな。」
私「それを認めるとさ、私が木村拓哉と結婚できちゃうよね?」
もちくん「いいずらな!」
私「いや、なんか問題あるでしょ?工藤静香はどうなる?」
もちくん「分有するずら、きむたくを、工藤静香と」
彼女「分有したら、それは結婚じゃないんじゃない?」
もちくん「シロノワールは、たぶん、誰とも結婚しないから大丈夫だし、多夫多妻制を認めればいいと思うズラよ」
彼女「おっけー。私くんは木村拓哉と結婚するとして、シロノワールの気持ちだね、やっぱり」
私「あれ、結婚は認めないんじゃなかったの?」
彼女「いや、どうでもいい」
もちくん「一世一代の決断ズラよ、まじめに相談に乗って欲しいずらな」
彼女「シロノワールという概念とどう合意するの?」
もちくん「知ってると思うけど、エッフェル塔と結婚した人がいたでしょ?合意なくても、いいんずらな。ほら、昔はね、合意なんてなかったしね、結婚に」
私「……ふむ。それを認めるとして、結婚ってなんなんだ?もちくんとシロノワールという概念が結婚するとして、それはいったいどういうことなんだろうか?」
もちくん「あがるずらな。気持ちがばくあげずら。あと、僕という概念とシロノワールという概念の中間みたいなものが産まれるときっとかわいいずらな」
彼女「うん、どうでもいいんじゃないかな」
私「いや、ちょっと待って、エッフェル塔との結婚は見過ごせないと思うんだよね」
彼女「そう?なんか勝手にしてって感じ」
私「エッフェル塔と結婚するというのは、もちくんが言う通り、気持ちがバクあげになるからするんだよね?家族とか関係なくね。そもそも、もちくんがここに来たのも、合意とかないしなあ。バクあげになるからだしなあ、こっちが」
彼女「ほえ?それは言わないほうがいいんじゃないか」
もちくん「いいずらな。だから、僕もシロノワールと結婚するズラな、勝手に」
私「あのさあ、僕もシロノワール好きだから、食べるときは食べていいんだよね?」
もちくん「私くん、それやばいぞ。食べることと結婚は別のことずら。僕が結婚しても、私くんが食べてもいいずらな。それにシロノワール一般は食べることができません!」
私「でも、彼女さんが食べられてたら、私はいやだなあ」
もちくん「彼女さんが、いっぱいコメダとかで提供されていることを想像してみてほしい」
私「うーん、ちょっとやめてほしいかなあ」
もちくん「でも、私くんは、彼女さんと、ずっと一緒にすごしているわけでもないずらな。あと、すごしている時間とは関係ないズラよ、愛というものは」
私「そうなのかなあ。だんだんわからなくなってきたよ、もちくんの言ってること」
もちくん「彼女さん性と同性のものがたくさんあるとして、その同一の性質のほうが彼女さんだと思うズラよ。そのうちのひとつじゃなくて」
私「ほえ?」
彼女「まあ、大丈夫よ、あたしはひとりしかいないのだし」
私「私が、三百人いたら、彼女さんは、どうする?」
彼女「コメダ珈琲のシロノワールみたいに?」
私「そう」
彼女「そんなことないんだから、考えたってしかたないじゃない」
私「エッフェル塔はひとつだよね」
もちくん「違うズラな。今日のエッフェル塔と昨日のエッフェル塔では違うずらな。エッフェル塔と結婚するというのは、毎日毎日互いに異なっているエッフェル塔のうち、結婚した以降のすべてのエッフェル塔と結婚するということずらな」
私「やっぱさあ、私がある一つのシロノワールを食べるよね。すると、私は、もちくんのパートナーを食べたことになるよね……」
もちくん「気にしなくていいずらよ。今日のエッフェル塔は、明日にはないずらよ!」
彼女「……ところでさあ、もちくん。戸籍ってあんの?」
もちくん「結婚に国家は関係ないずら!」

 ひとびとは、ひとびとのある性質を期待して、ほかのひとびととともに暮らしはじめたりするわけではない。猫と暮らしはじめたいときには、「ある猫」と暮らしはじめるのだ。決して、猫一般とは暮らせないだろう。しかし、その「ある猫」一般と暮らしてはたしかにいる。もちくんは、甘いもののうち「シロノワール」を選んだ。たとえ、私が一つのシロノワールを食べても百個のシロノワールを食べても、それに加えて、決してないことだろうが、シロノワールの販売が停止されても、コメダ珈琲がなくなっても、地球が消し飛んでも、宇宙が終わっても、もちくんとシロノワールのふたりはたしかに存在している。結婚おめでとう。

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口角に泡、焦点の合わない目、糸の切れた頭は重力に傾き、これまでに覚えた少ない語の組み合わせで歌っている、ボロボロの紙コップを持ったルンペンは黄色い鳥

まいどあり〜
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三十一歳無職。平行四辺形の夕べにそっと安定しない向きに台形を配置した電波日記小説。
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