函館に蔓延する不正受給 なぜ厳罰でないのか?

先日、暇つぶしにツイッターを見ていたら、「函館の論点2020」というタイトルを見つけました。どうやらみんなで出し合った函館の問題点やアイディア、考えなどを付箋に書いてまとめてもののようで、どこかほのぼのとした微笑ましい印象を受けました。

しかし、それをざっと見渡した後すぐにある「違和感」を感じずにはいられませんでした。そこには2019年に函館で起こったあの「不正受給」に関する問題がすっぽりと抜け落ちていたからです。

ツイッター上にアップされた「函館の論点2020」がどのようなテーマで出し合ったものなのかはよく分かりませんが、「函館の不正受給問題」は今最も議論されるべき内容であり、決して忘れ去られるべき問題ではありません。この問題は函館の今、そしてこれからのことを考える上で、非常に重要な根深い問題をはらんだ問題でもあります。

函館消防本部が引き起こした不正受給問題

不正受給問題といわれて、多くの人が頭に浮かべるのが、 2019年の6月に発覚した函館消防本部による不正受給問題でしょう。

これは、函館市消防本部(近嵐伸幸消防長)の職員が2012年度から6年間、時間外手当を不正受給していたものです。簡単にいうと、実際には働いていないのに働いていたとウソ申告して不正に給料を水増ししていたということですね。被害総額は計335万8400円(※地方公務員であるため、給料は函館市民から徴収した税金から支払われています)。

この事件は職員221人がうその申告で時間外勤務手当を請求していたというあり得ない事実が発覚したことで、函館だけでなく日本全国を駆け巡る大ニュースになりました。

おまけに、当然不正受給していた職員の大半に厳罰がくだされるかと誰もが思っていた矢先、同年11月に出された処分は想像以上に軽いもので、北海道新聞からつっこみ記事(函館消防不正受給 軽い処分、市民感覚とズレ 管理職の責任なおざり)まで書かれてしまう始末。函館市民だけでなく、函館市に関わるあらゆる人たちまでもがあきれ返ってしまう事態へと発展しました。

※この事件の最終的な処分は合計で307人に課されました。

※この事件を最初に取り上げたのは「北方ジャーナル」でした。

函館市職員4人も住宅手当を不正受給1260万円

不正受給問題は函館消防本部だけの問題ではありません。実は、2018年05月、函館市職員4人が、住宅手当を不正受給し、1260万円を横領していることが発覚しました。

以下、その詳細を記事(相川哲弥ブログ)から引用します。

40代の職員は、賃貸契約を結んだ親族と同居している場合は、住宅手当が支給されないにもかかわらず、住宅の貸主の義理の父と同居してことし5月までの18年間にわたって580万円余りを受け取っていました。また、50代の管理職は貸主の父親が死亡したことを届け出ず、330万円余りを受け取っていたほか、40代の職員は、持ち家に転居したあとも手当をもらっていたということです。

市の調査に対し4人は「故意ではなかった」と話していたそうですが、これは明らかに制度システムの穴を利用し、市民の税金を不当に自分の利益にするという悪質な犯罪です。

しかし、このときも不正をした職員への厳罰(懲戒解雇)はなく、函館市からの告訴もなし。実質的に「お咎めなし」で終わってしまいました。

※最終的に処分されたのは、函館市の管理職4人を含む市職員30人でした。

この悪しき前例は、先に話した函館消防本部が引き起こした不正受給問題と関係がないわけではありません。もしも、2018年時点で函館市職員に厳罰を下していたならば、函館消防本部の職員たちも不正を続けることはしなかったでしょう。つまり、不正をした函館市職員への甘い処分が函館消防本部の不正を引き延ばすことにつながったともいえるのです。

札幌市でも起こっていた住宅手当の不正受給

実は住宅手当の不正受給は函館市だけの問題ではありません。2018年05月15日、札幌市の職員19人が住宅手当あわせて6000万円余りを不正に受給していたことが発覚しました。

その後、札幌市はその職員19人全員に対して停職などの処分。制度そのものも見直し、親族間で住居の賃貸借契約をしている職員について、同居の有無にかかわらず住宅手当支給をやめることにしたのでした。

なぜやめることにしたのかというと、住宅手当に関する規定の中にあいまいな部分(どこまでが親族なのかなど)があり、制度上の「抜け道」を探す人が再び出てくるだろうと予想されるからです。つまり、札幌市は将来決して不正受給をする人が絶対に出ないように事前に手を打ったです。

しかし、函館市の場合は、不正受給をした職員に対してたいした処罰もなし。制度の見直しも「検討」のみで済まし、親族間で住居の賃貸借契約をしている職員についても、これまで通り住宅手当を受給し続けています

これは一体なぜなのでしょうか?

※函館市は、事件後、親族間での賃貸借契約の住居手当廃止について札幌市と同様、叔父・叔母などの3親等まで廃止するべきかどうかを検討しました。しかし、2020年1月現在 、現行制度からの変更は一切ありません。

函館の公務員が不正をしても罰せられない理由

函館で起こった2つの事件に共通していることは、函館市の税金を横領するという重大な犯罪を犯しながらも、実質的にはほとんど罰せられていないという事実です。それも制度上の穴をつくという極めて悪質度の高いものであることも共通しています。

では、このような専門家も首をかしげるほどあり得ないような事態はなぜ起こってしまうのでしょうか?

その答えを考える上で浮かび上がってくるのが「地方公務員」というキーワードです。消防員たちも函館市職員たちも函館市が管轄する部署の一員であり、現在の函館市長(元亀田市役所職員)と非常に近い間柄でもあります。

函館市民なら誰もが知っているように函館市長は代々函館市役所から選抜されています。事実上、「函館市長=役人のボス」ということになり、この伝統的な流れが、知らず知らずのうちに、役人・地方公務員に対する甘い態度・優遇される立場を生み出したとも考えられます。

深まる疑念と亀田地区総合施設  総事業費 29億8000万円

こうした函館市および地方公務員に対する疑念は総事業費 29億8000万円の「亀田地区総合施設」が新たに建てられたことでさらに深まることになっています。

すでに過去記事(函館 美原に立派すぎるコミュニティセンターが登場する?!)で述べたとおり、この施設には市民から要望が多かった「美原図書室」を廃止し、ほとんどニーズのない「会議・研修室」を3階フロア全体に設けています。

この「会議・研修室」は一体誰のために設けたものなのでしょうか? 隣に亀田支所があることを考えれば、主に函館市の職員とその関係者が使用するものであることは明白です。

市民の要望を踏みにじり、福祉施設を統合するという名目で自分たちの都合のいい施設を建設するという行為は断じて許される行為ではありません。

不正受給は擁護するべき問題か?

ネット上でいろいろと調べていたところ、住宅手当の不正受給を擁護する意見もちらほらと見かけました。住宅手当は、本人の問題なのではなく、「制度」の問題であり、制度そのものを見直すべきだというのがその主張の内容です。

たしかに現行の制度では、親族と賃貸契約を結び、さらにその親族と同居していない場合に住宅手当を支給するというややこしい条件がつけられています。不正受給を擁護する人からすると、「制度を全面廃止にする」もしくは「地方公務員には一律で全員に住宅手当を支給する」というふうに分かりやすい制度に改善した方がいいのではないかと思ってしまうようです。

しかし、この考え方は今回の函館市の住宅手当 不正受給問題には当てはまりません。仮に制度に不備があったとしても、職員が故意に不正を働いたのであれば、「懲戒解雇」級の厳罰を課すべきだからです。

問題は「故意に不正を働いたのかどうか」を、函館市の職員、つまり身内のみが調査しているという点です。不正に住宅手当を受給した事実があり、横領事件として犯罪の可能性が高いにもかかわらず、起訴されないというのはいかがなものでしょうか?

森雅子法相は会社の資金を横領した疑惑のあるカルロス・ゴーン氏の批判を受けて、日本の法制度は「的確な証拠によって有罪判決が得られる見込みのある場合に起訴するという運用が定着している」と述べています。

森雅子法相の言葉をそのまま受け入れるならば、住宅手当をした職員を起訴し、その是非を法によって裁くのが道理ではないでしょうか?

函館市の行動は、この日本の法制度をねじ曲げる行為にほかなりません。

不正受給はまだまだたくさんある?

不正受給問題が発覚してから、函館市民の間でひそかにささやかれていることがあります。それは、今回の事件は氷山の一角で「まだ不正受給をしている人がたくさんいるのではないか?」という疑いです。

よくよく考えてみると、函館消防本部による不正受給が発覚するまで実に6年間もかかっています。まともな常識を持っている人が一人でもいればすぐに問題が発覚したはずなのに、なぜそれだけ長い間 問題が発覚しなかったのでしょうか?

その原因の一つとして考えられるのが、函館市特有の強い「集団意識」です。血縁や地縁で結びついた人たちが集まることで、社会のルールを守る意識が薄まり、悪いこともなあなあで済ませることが習慣化していたと考えられます。

そしてそのように考えてみると、「まだ不正受給をしている人がたくさんいる」というのはあり得ない話ではなく、十分にあり得るリアルな現実として浮かび上がってきます。

最後に

函館市は2018年11月06日、市民から住宅手当不正受給職員の処分についての質問に対して、以下のように答えました。

住居手当の過支給に係る職員の処分については、本年10月29日付けで処分を行い、同日、報道機関への発表を行ったところです。(※市民の声回答一覧に掲載)

ここには、いつ処分を行ったのかを述べただけで、実際にどのような処分を行ったのは具体的に書いていません。もしも、市民に対して誠意を以て答えるならば、どのような処分を行ったのかを詳しく説明したことでしょう。

ここには自分たちの都合の悪いことはふせておいて、表面上だけ市民に取り繕うとする函館市職員の思惑が見てとれます。


私たちは一体いつまで傲慢ともいえる函館市職員、および地方公務員たちの行動に我慢しなければならないのでしょうか?

そして私たちはいつまで自分たちが汗水流して収めた税金を無駄に使われなくてはならないのでしょうか?

これから函館を支えていくであろう若い世代のためにも、市民の立場から声を上げ、函館市政を健全なものに変えていく必要があるように思えてなりません。



<追記>

2020年1月15日、函館の近嵐消防長が不正受給問題の責任をとって今年3月末で辞職することが発表されました。彼が辞任することを決めたのは昨年の5月だったそうです。


<参考記事>

北方ジャーナル|information http://hoppo-j.com/corporation_iss.html?ISS=2019_7_2

時間外手当、対象職員の7割がウソ申告し不正 函館消防:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASM6P42VJM6PIIPE00C.html

函館市消防の時間外手当不正受給問題 職員の85%が関与、管理職が自主返納 | 2019/10/2 /函館地域ニュース by e-HAKODATE https://www.ehako.com/

消防本部が307人不正手当受給 - 不祥事.com https://www.fusyouji.com/entry/2019/11/11/195916

函館消防不正受給 軽い処分、市民感覚とズレ 管理職の責任なおざり:北海道新聞 どうしん電子版 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/363743

函館市職員4人が、住宅手当を不正受給1260万円 - 消費者保護。東日本大震災・津波避難・福島原発。子供安全。冤罪。警察不祥事。労働者権利。相川哲弥ブログ https://blog.goo.ne.jp/jp280/e/abbd072e3a0fef5d71d044276c1030df

職員の住居手当不正受給について | 函館市 https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/citizensvoice/docs/2018082800027/

<札幌市の住宅手当 不正受給>

【不祥事】札幌市職員19人 住宅手当不正受給 | 札幌速報 https://sapporo-sokuho.com/

札幌市:親族間賃貸、住宅手当なし 不正受給防止策 - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20180530/ddr/041/010/004000c

<小樽の不正受給>

住居・通勤手当不正受給!看護師を懲戒免職 https://www.otaru-journal.com/2018/09/2018-0925-2/

<カルロス・ゴーンの批判を受けて>

森法相「正しい理解、世界中の皆さんに」未明に続き会見:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASN193D0NN19UTIL002.html?iref=comtop_8_05

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