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木刀・竹刀の「バット持ち」は意外に強い

剣道の竹刀も木刀も、両手の間隔をあけて、鍔元と柄頭を持つのが主流。

主流があれば傍流があるわけで、野球のバットを持つように、両手をくっつけて竹刀・木刀を持つ方法もあります。

・バット持ちで剣を操作する人たち

たとえば夢想願流の伝書には両手をつけている絵が描かれていますし、天然理心流の伝書にも「左右の手を付けて持つなり」という記述があるそうです。

甲野先生も、もっぱらこの持ち方で、そのまま鍔迫り合いで相手の剣を抑え込んだりしていました。

両手をつけて持つ、バット持ち。
力が入りにくそうに見えますが、力学的には一定の合理性があります。

・三角形と、ねじれ四角形

左がバット持ち、右が竹刀持ち

上図が、バット持ちと竹刀持ち(以下、竹刀持ちと呼びます)の模式図。拳がドラえもんの手のようになっているのはご容赦下さい。
下図は、体幹部を加えて、直線に簡略化したもの。

バット持ちが三角形になっているのに対して、竹刀持ちは四角形をねじった、不安定な立体になっているのがわかりますね。

三角形(トラス)が、外力に対して強く、歪みにくいのは、ご存知の通り。四角形、それも、ねじれた四角形は極めて外力に弱く、簡単に変形してしまいます。

竹刀持ちはねじれ四角形なので、横から押されたときに腕力で支えるしかありません。

バット持ちでは、拳の触れる場所を頂点として、体幹を含めた三角形が形成され、横への動きが防がれます。
腕がねじられる動きについては、右手のねじれを左手が、左手のねじれを右手が直線的に支えることで防がれ、強い力に耐えられるのです。

それならみんなバット持ちにすればいいのでは、と思いますよね?
残念ながら、バット持ちには厳しい条件がつくのです。

・バット持ちでは肘を動かせない

三角形が強いのは、直線が支え合い、変形しないからです。剣を操作するために肘を曲げると、その瞬間に三角形の強度が失われます。
それどころか、両手が近いことが裏目に出て(テコの原理)、ねじれ四角形以上に弱くなってしまうのです。

肘は曲げないか、軽いカーブを描く程度。

振るのも大変です。
肘の屈伸を使えないので、竹刀で一般的な「右手で押し、左手で引く」という操作ができません。そもそも両手の距離が近すぎて、テコ的に最弱。
腕の力で剣を振るのではなく、肩甲骨や体幹による重心操作で剣を導かなくてはならないのです。

使いこなせれば体幹の力を直に剣に伝えられるが、使えるまでは振るだけでも難しい。
ピーキーすぎて、バット持ちは主流にならなかったのだろうと想像しています。

強力であっても多数派になりえないものがあります。
これは、どの分野でも同じ。

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