見出し画像

【先行配信】八画文化会館OFFICIAL FAN BOOK「矛盾不純」第1章AVメーカー事務所の片隅から(1)

私たち八画文化会館は、2010年5月の活動開始から6年間で『八画文化会館』本誌4冊と、『八画文化会館叢書』5冊を細々と発行してきたインディーズの出版社ですが、恥ずかしながらファンブックを出そうとしています。

▲八画文化会館叢書vol.07『矛盾不純 八画文化会館OFFICIAL FAN BOOK』

まだ発売日が決まっていないのですが、今年の夏には予約を開始します。

紙版の方は、編集部の取材記録の中から厳選して、路上からはみ出しているSEX、ニセモノ、交通安全の写真を中心に構成したアートブックです。次世代のエディトリアルデザインでの活躍が期待される、八画文化会館イチオシの若手イラストレーター小磯竜也氏の斬新なアートワークでお届けします。

note版では、矛盾や不純を抱えながら、本をつくってきた制作の裏側について書いた本文に具体的な数字を加筆し、紙版未収録の関連画像とあわせて先行配信いたします。

すべて単品(100円~600円)でもご購入いただけます。単品価格に値段のちがいがあるのは、実売数などの数字を公開している回は高めに設定しているためです。

マガジンは1000円で発売いたしますが、本日から一週間限定で、早割マガジンを800円で販売いたしますので、お見逃しなく!!

※6/28(火)20時に早割終了

全8回の配信予定は下記のとおりです。第1回目は、「1. 新宿のはずれ、大久保の雑居ビルにて」をお送りします。今回は初回なので、ほぼ全文無料で配信いたします。

-------------------------------------------------------------------------------

【目次】

第1章 AVメーカー事務所の片隅から
1. 新宿のはずれ、大久保の雑居ビルにて(第1回配信 100円)
2. 気鋭のイラストレーター小磯竜也との出会い
3. 自由の矛盾と金儲けの不純(第2回配信 100円)

第2章 28歳、私「あっち側」へ行ってきます
1. 酒井竜次の4年ごとに負けるストーリー(第3回配信 100円)
2. ジュンク堂新宿店「ふるさとの棚」の無責任編集(第4回配信 100円)
3.『愛知県漂流』に揺さぶられて(第5回配信 100円)
4. 赤信号を渡って『八画文化会館』に向かう(第6回配信 300円)

第3章 私の答えはただひとつ、続けること。
1.「ない」ものを数えて「ある」ものまで失くす毎日(第7回配信 600円)
2. とにかく続けること(第8回配信 100円)

-------------------------------------------------------------------------------

1. 新宿のはずれ、大久保の雑居ビルにて

3階非常階段の喫煙所で一服休憩していると、肩まである長髪を後ろで一本にくくり、不精ヒゲを生やした浅黒い中年男が、このビルの真下で立ち止まったのが見えた。

怪しい外見とは不釣合いな、淡いピンク色のキティちゃんスリッパを履いている。腰をかがめて鋭い眼光で辺りをうかがっているので、なにごとかと思って見ていると、車の下に寝そべっている猫に手を伸ばし、ひっぱり出している。

ひとしきり猫をじゃらして満足したのか、中年男はこのビルに入ってきた。

たぶん5階のデリヘル待機所の従業員だろう。

コリアンタウンから無国籍街へと変わりつつある大久保の駅からほど近くにある当ビルは、地下がカフェ、1階は美容室と鍼灸マッサージ店、2階はバイオ製品開発メーカー、3階はAVメーカーと八画出版部、4階は建設会社、5階はデリヘルの待機所という編成の雑居ビルだ。

私が喫煙所から自分の机に戻り、「矛盾不純」と打ち込まれたWordの画面を見ながら、どうしたものかと腕組みしている0と、矢継ぎ早に来客があった。

プロダクションの営業マンに連れられて面接にやってきたAV女優、スチール写真の納品に来たカメラマン、どうやって生計を立てているのかよくわからない陽気な自称AVプロデューサー。

八画出版部は、AVメーカーの事務所の片隅にある。

野坂昭如の『エロ事師たち』を地で行くような、いびつで滑稽で、少し哀しい人たちが集まっては、散っていく場所だ。


エロ事師たち (新潮文庫)


「はぁ? 『キチガイ盗撮DX』っていうタイトルが審査ひっかかったの? キチガイってNGワード? じゃ『淫行風俗店丸見え盗撮DX』にするか……」

隣の部屋から聞こえてきた電話の声により、私は午後の予定を思い出した。明日校了予定のAVパッケージ用原稿を、書かなくてはならないのだった。

私は隣に入居しているAVメーカーからパッケージの編集仕事を得ながら、『八画文化会館』というインディーズマガジンの制作をしている。


『八画文化会館 vol.1 総力特集:終末観光』2011年8月発売

▼通販限定のおまけ

-------------------------------------------------------------------------------

『八画文化会館 vol.2 総力特集:HOTEL NEW ROMANTIC』2012年8月

▼通販限定のおまけ

-------------------------------------------------------------------------------

『八画文化会館vol.3 総力特集:廃墟の秘密。』2013年8月発売

▼通販限定のおまけ

-------------------------------------------------------------------------------

『八画文化会館vol.4 総力特集:日本のワンダーランド伊豆』2014年8月

▼通販限定のおまけ

-------------------------------------------------------------------------------

八画文化会館は2011年8月に創刊し、14年8月発売の4号を最後に活動休止している。休むと決めたら椎間板ヘルニアになってしまい長期休暇したり、AVメーカーから大口の仕事を得ることができたのでそちらに専念したりしていた。

その後は本書で7冊目となるシリーズ『八画文化会館叢書』という自主流通の冊子を作っている。

『八画文化会館叢書vol.01 ビックリ廃墟ジャーーナル』RUINS 4 MAFIA著 2014年12月発売

『八画文化会館叢書vol.02 公園手帖 コンクリート動物百景』あさみん著 2014年12月発売

『八画文化会館叢書vol.03 知られざる日本遺産 日本統治時代のサハリン廃墟巡礼』那部亜弓著 2015年8月発売

『八画文化会館叢書vol.04 公園手帖2 キノコ公園』とよ田キノ子著 2015年8月発売

『八画文化会館叢書vol.05 ロマンチック廃醫院』タケピン著 2015年12月発売

AVメーカーからのパッケージ請負業務と、紙の本の作成。これが、現在の私の仕事だ。お金じゃないよ、と思いながら必死でお金を稼いで、本を作ってきた。

そして今、八画文化会館とは何だったのか振り返り、これからどうしようかと思いながらこの文章を書いている。

テーマは決まっているのになかなか進まないのは、私が「本を作って生きる夢」に消耗してギリギリになっているからだろうか。

パソコンから目を離し、すでに半分ほどページの入っている『矛盾不純』の束を見ているうちに、アートワークを担当してくれている小磯竜也に初めて会ったときのことを思い出した。


2. 気鋭のイラストレーター小磯竜也との出会い

2015年8月。私はジリジリとうだるような炎天下を、小田急線沿線の駅前から商店街を抜けて歩いていた。年季の入ったアパートのチャイムを押すと、中から小磯さんが出てきた。

アトリエ兼自宅アパートは、リノベーションなしの和室で、作業スペースにはプラスチックのヤシの木が飾ってある。

趣味の良いレコードや本に混じって、自作の原画や作品が置かれた棚からは彼のクリエイターとしての美意識を感じる。

出してくれた麦茶ですらエレガントで、私は緊張しながら話を聞いた。自主制作のZINEなどのアートワークを担当した作品を見せてもらう。

小磯竜也OFFICIAL SITEより

(※名刺、ポスターなどの商業デザインも、油絵も、さらに展覧会の空間デザインまでもこなしてしまう、マルチな才能を発揮している小磯ワークスは必見。言葉を尽くして、彼の手がけた作品の素晴らしさを表現しようと思えば思うほど、作品自体のパワーにかなわないので、ぜひオフィシャルサイト、ツイッターをチェックしてみてください。twitter→小磯竜也@koin89 )

------------------------------------------------------------------------------

小磯さんの作品は、どれも目を引く素晴らしいデザインだった。

仄かに官能的な匂いのするニューウェーブデザインの鬼才、羽良多平吉のようでもあり、美術と商業の両方の経験を積んだアバンギャルドな漫画家タイガー立石のようでもある。

『アイデア2011年5月号 特集:羽良多平吉』(誠文堂新光社)

(※「HEAVEN」、「WX-raY」ほか丸ごと一冊羽良多ワークスの貴重な一冊。八画文化会館の創刊号を作るとき、ずっと机の横に置いていた本です。「こんなふうにデザインして!」と本誌のデザイナー担当にお願いして、困らせていました。夢のような本をつくる大御所・羽良多平吉のデザインを惜しげもなく収録した名著。)

『TRA』タイガー立石・著(工作舎)

(※まさに所有したくなる本。本棚にあるだけで幸せな気分で過ごせます。装丁は祖父江慎!という夢のタッグで工作舎から発売。2010年の刊行だけど70年~80年代のエディトリアルデザインにパワーが満ち満ちていた時代を思わせる一冊。タイガー立石は『とらのゆめ』ビリケン出版などの絵本もお薦め)

-------------------------------------------------------------------------------

差し出された名刺には「イラストレーター/アートディレクター」とあった。

80年代の雑誌黄金時代を彷彿とさせるのは、イラストが手書きのためかもしれない。

「アルファベットにすると見た目は何でも格好よくなるが、日本語でもできるはずで、今は日本語の見せ方を研究している」と訥々と話す小磯さんは、東京藝術大学の油絵専攻を2013年に卒業したばかりで、弱冠26歳。


『工作舎物語 眠りたくなかった時代』臼田 捷治(左右社)

(※小磯さんの仕事場で話をしていたときに、思い出していた本がこれ。出版デザイン史に残る稀有な版元「工作舎」の関係者インタビューに基づいた貴重な記録。不夜城のような工作舎の初期の熱量が伝わってくる)

ここから先は

119字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?