製氷室は今日も寒い

「暑いねえ。」と、
誰に言うでもなく独り言を言う。
誰の返事もない。
まあ、誰もいないからな。

吸い寄せられるように、冷蔵庫に向かう。
氷が入ったところを開ける。
ガラッ、と氷がぶつかる音と、
「冷えるねえ。」という独り言が聞こえた。

そりゃ冷えるだろうな。
なんたって氷点下だ。寒いだろうよ。
「あったまりたいなあ。」
氷はそう言うけど、こっちは暑いんだ。

「飲み水を冷やしてほしいんだけど。」
「水かよー。熱いお湯に浸かりたいなあ。」
こいつ、なかなか無茶なことを言う。

じゃあ、アイスコーヒーの材料にするのはどうだ。
粉を溶かすタイプのやつなんだけど、
最初はお湯じゃないと、うまく溶けてくれない。
そこで、お湯で作った後に氷を入れるのだ。

…というのを提案してみたけど、
「結局、冷え冷えになるんじゃないかよ。」
「そりゃ、氷ってそういうもんだろうよ。」
「そうだけどさあ。寒いんだよ。しょうがないだろうが。」

ケンカになった。
ついには、冷蔵庫に仲裁された。
「そんなに開けっぱなしにしてたら、全部溶けるぞ!」
そういう意味の電子音が鳴った。

結局、水に氷は入れなかった。
それでも冷蔵庫で冷やしているから、
冷たいことは冷たいんだけども。
やっぱ、氷も欲しかったな。

その日、陽が沈んだ頃のこと。
ふと思いついて、もう一度さっきの氷と話した。

「これからラーメン茹でるけど、そこに入るか?」
「ラーメンを冷え冷えで食べる気か?」
「いや、もともと熱すぎるから。そうはならんよ。」
「なら、それでいいや。」

盛り付けてすぐ、まだ湯気の上がるラーメンに、
「冷えるねえ。」とかぼやいていた氷を入れた。
少しかき混ぜてやると、すぐ溶けた。
でも、まだ熱い。

作ってすぐだと、熱すぎて食べづらいんだよな。
そこに氷を入れるってのは、良いアイデアかもしれない。
さっきの氷がどこにいったか、もう分からないけど…
まあ、たぶん満足だったろう。

「暑いねえ。」と、
誰に言うでもなく独り言を言う。
あとでアイス食べよう。
今度は誰かとケンカにならなきゃいいけど。


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