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脱炭素・化石燃料産業遺産の再利用

1997年に開催されたCOP3にて温暖化に対する国際的な取り組みのための国際条約が採択されて以来、先進国を中心に脱炭素の取り組みが進んでいる。特に自動車業界では、ガソリン車から電気自動車への移行がスピード感を持って進められているが、電力を供給する発電所をはじめとして、エネルギーを供給する側の事業転換も同時に進行している。

先日(2022年1月25)には、”ENEOS 和歌山製油所を閉鎖へ 脱炭素化でガソリン需要落ち込み”(NHK)というニュースが報道され、身近に感じるよりも早いスピードで転換が進んでいることを実感した。

今は利用されなくなった近代化を支えてきた土木構築物や建築物のことをまとめて「近代化産業遺産」という。それら近代化産業遺産を歴史を知るための資料として保存公開するだけではなく、日常的に歴史に触れられる重層的な空間を創り、現代に生かす取り組みがある。駅舎を利用したオルセー美術館、火力発電所を利用したテイト・モダン、貨物列車の高架を利用したハイ・ライン、精錬所を利用した犬島精錬所美術館など、様々な事例がある。

「脱炭素・石油燃料産業遺産が今後増えるのではないか」「あの膨大な敷地に建つ施設をどうするのか」「それらを利活用する方法はないのか」と、友人と議論していたところに和歌山製油所のニュースであった。

石油プラントはタンカーから効率的に石油を搬入できるように、海に面して計画されている。都市部であれば石油プラントに関係のある企業や工場が隣接しているが、都市にとっては自然を感じられる海辺空間を都市と分断する原因にもなっている。また、緑が豊かな郊外に立地している場合もあり、和歌山製油所はそれにあたるだろう。

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千葉石油工場  出典:Google
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和歌山製油所  出典:Google

原油タンクは高さ21m〜27m、直径58m〜100m※ほどある。これらの円柱のタンクを再利用して様々な施設にリノベーションし、独創的な海辺の風景を創れないだろうか。

集合住宅、高齢者福祉施設、ホテル、学校、公園、商業施設、水族館や美術館など教育文化施設等すでに存在する用途に改修するだけでも、産業遺産を利用した新しい郊外の風景が想像できる。人口減少の時代において、これらの施設を従来通りの必要容積で考えるのではなく、緑豊かで海に面した大らかな都市として蘇らせるないだろうか。道路などのインフラはそのまま利用できるし、減価償却を終えたと考えればどうだろう。効率が優先された交通インフラは、自動運転などとの相性も良いはずである。

製油所は製油するだけの施設だけではなく、石油を材料にしたプラスチック製品の製造や製品開発の研究所など、様々な施設が隣接している。それらは石油燃料に依存した製品から脱却するためのプロセスに利用できる。

原油タンクを利用したコワーキング・ステーションなどを設け、知識産業に従事する研究者や技術者との交流を促し、イノベーションを生み出すイノベーション・シティにできるかもしれない。

点滅する照明、それに照らされる金属の設備と構造物、それらに重なる蒸気、サイバーパンクを思わせる重工業地帯の風景はツアーが開催されるほどに人気がある。将来「かつて生きていた風景」も遺産として活用し、独特の景観を気軽に楽しめる、新しい日常風景を創れるかもしれない。

大学卒業設計の提案のような構想だが、すでに起こった未来であり、現実的な課題である。既存の施設を解体し、これまでのような近隣住区を再開発するのではなく、誰も見たことのない街と風景を創れたらおもしろい。

※ENEOS喜入基地株式会社のサイトのQ&Aより


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