小説【再会】 告白#2

慌ただしい年末も明けて、新年になった。
やっさんの話もいよいよスタートしそうだ。
詩織とも毎日、会えて幸せだ。

「いけー!!!よし!! 1~!2~!3~!!!よっしゃー!!!!」
「きゃー!カッコイイ!!」

僕らは今、後楽園ホールにいる。
もちろん詩織とだ。
「笑点」ではなく、プロレスを観に来たのだ。
正月から好きな団体の興行があるので毎年、観に来ている。
聡と淳美も誘ったが、新婚の初の正月とあって忙しいらしい。

詩織は初めてのプロレス観戦に満足そうだ。
やっぱり最初は”聖地・後楽園ホールで・・・”と
思っていたので嬉しい。
好きな選手が勝って何よりだ。
プロレスを知らない詩織に何かと説明出来るのも
ちょっといい気分だったりする。

プロレスは”受けてから始まるスポーツであること”。
贔屓の団体はエンタメ系なので、”大笑いしたいところはしていいよ”と。
それもプロレス。
”声を出して応援すると選手も喜ぶから”と。
技がどうとか、バンプがどうとか、そういうことは後から教えればいい。

僕は静かに見ているタイプなのだが、
さすがにフィニッシュになると声を出してしまう。
色々な見方があっていい。
イケメンなら女性の黄色い声援もいい刺激になるはずだ。

最後にエース兼、社長の「3.2.1 !!ファイヤー!!」
の、かけ声で興行が締めくくられた。
一緒に立ち上がって腕を振り上げると気持ちいい。
詩織も気持ち良さそうだ。

「健ちゃん、またねー。」
「はいはいー。またねー。」
「次は-?」
「新木場かなー?」
「また、会場でね-。」
「そうだねー。ばいばいー。」

次々、かわされる見知らぬ人々との会話に詩織はきょとんとしている。
ホールのロビーは大混雑だ。
階段を下りてエントランスまでやってきた。

「じゃ、遅くなったけどお昼食べようか。」
「うん。どこで?」
「ここで。」

僕が指さしたのは同じ建物の入り口が別になっている
「後楽園飯店」だった。
興行が夕方に終わると店が空いていていいのだ。
しかもここは美味い料理が揃っている。

「何が美味しいの?」
「何でも美味いけど・・・そうだなぁ。とりそばなんてどう?
それと水餃子。辛いタレがたまらんのよ。俺は五目やきそばにする。」
「うん。任せるね。どれも美味しそう~。健ちゃん、ビール飲む?」
「そうだな。正月だし。でも、腹一杯になるかな。ま、いっか。」
「うん。いいよー。」

料理を待つ間、買っておいたパンフを見ながら
色んな話をしていた。
やっぱり初心者には疑問が沢山あるようだ。

「それでねー、帰るときに誰かと話ししてたでしょ?あれは誰?」
「ああ、あれは観戦仲間。まぁ、プロレスヲタクだな。会場で会うと話するの。」
「へぇ~、そうなんだ。」
「通ってると顔見知りになって話するようになるんだよね。
名前も知らないんだけどさ(笑)」
「え?名前、知らないの?それで良く話せるねぇ。」
「ま、同じ団体を見てるって言うことはそれだけ親近感が沸く・・・
って、いうことかな。みんないい人だよ。」
「へぇ~、いいなぁ。」

話してる内にビールは空いた。
いい気分だ。
そんなことをいってるうちに熱々の麺が運ばれてきた。

「いただきまーす。」
「はーい。俺もいただきます。」
「んん~。美味しい~。上品でいくらでも食べられる~。」
「ね?美味しいでしょ。大きい丼だけどすぐに空いちゃうよ。」

素晴らしい中華料理を堪能して店を出た。
プロレスをまさか詩織と観戦出来るなんて思わなかった。
やたらと興奮していた。

「今日はどうするの?帰る?」
「ああ。一回、帰ってからまた出るよ。」
「話してた同期の人との飲み会?」
「そうそう。飲み会って言っても相談があるらしいんだ。
女の子だけど、心配しなくていいからね。」
「・・・そうなんだ。ちょっと心配・・・。」
「まぁまぁ、外人の木こりみたいな奴だから(笑)
帰って駅に着いたら電話する。」
「うん。待ってるね。」

ゆっくり帰ってもまだ時間はある。
ラブとは待ち合わせの時間も約束してあるし余裕もあるから大丈夫だ。

にしても、何のことだろうか・・・・・。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしく。」
「こちらこそ明けましておめでとうございます。」
飲み屋の席でうやうやしく挨拶した。

「健ちゃん、正月早々悪いわね。彼女とラブラブなんでしょ?(笑)」
「はい。そうです。」
「なにそれ~!ちょっとは照れるとか否定するとかしなさいよ~。」
「だって好きで付き合ってるんだもん。仕方ないじゃんか。で、ラブはどうなのよ。彼氏とかさ。」

と、ここまで言ってラブの顔が曇った。

「そのことなんだけど・・・・・。あ、ビール。」
「生2つ。それと刺身盛り合わせと唐揚げと煮込み下さい。」

「どうしたんだよ。なんかあった?あったから、呼んだんだろ。」
「そうなんだけど・・・・・。どうしていいか判らなくて・・・・。」
「何よ?どうした。」
「実は・・・・・・。」

「えー!!それマジかよ。いつの話?」
「つい最近だって。総務の子に聞いたから本当の話。」
「亀さんは?なんて言ってるの?」
「本人にはまだ聞いてない。聞けないでしょ・・・・・。」

なんでも、奥さんと不仲になっていてつい最近離婚したらしいのだ。
聡の結婚式のあたりではっきりしたらしい。
そんなこと聞いてないぞ・・・、言えないか・・・・。
ぐるぐると頭に考えがよぎる。

「でもね、あたしその話を聞いたときに思わず”チャンスかも”
って、思ったの。でも、嫌でしょう。そんな女・・・・。」
「いや、ラブは悪くないよ。だって、そうじゃん。奥さんとの話にラブが関係してる訳じゃないんだろ?」
「そうなんだけど・・・・。でも、やっぱり・・・・。それでもあたしの気持ちは変わってないし・・・。」
「ちょっとさぁ、ほとぼりが醒めてから話したら?遅いってことないぞ。きっと。」
「そうかなぁ・・・・。」
「そうだよ。ちょっと自信持てよ。亀さんだって悪い気はしないだろうけど、
きっと今は落ち込んでるから・・・・・さ。な?」
「うん・・・・・。飲もうか。」
「そうだな。のも。」

「で、子供さんがいただろ。どうしたのよ。」
「なんでも、奥さんの実家がお金持ちで引き取ることになった・・・って。」
「そうなんだ。子供は可哀想だけどな。でも、雰囲気の悪い家庭だったら
片親でもいいんかなぁ・・・・。わからねぇな。」
「うん・・・・。判らない。」

「ラブ、待てよ。待ってるしかないぞ。いつまでかわからんから辛いだろうけどさ・・・・。」
「そうだね・・・・・。でも、なんか健ちゃんに話したらすっきりした。」
「そうか?それならいいけど・・・。でも、今まで我慢したから”不倫”にはならなかったんだろ。偉いな、ラブは。」
「そんなこと・・・・。偉くなんか・・・。今でも、今すぐでも・・・・・。」
「泣くなよ~~~!!!今、”すっきりした”って、言ったばっかだろー。」
「ごめんね・・・。ごめんねぇ~・・・・。うえええええ~~ん・・・!」
「もう、こいつはぁ(笑)でっかいなりして泣くんじゃないよ!」
「中身は乙女~~!!!(泣)」
「ぶぶっ。ビール、噴いちゃうよ。もったいないだろ!(笑)」

ひとしきり泣いてスッキリしたようだ。
今度は本当に(笑)
また、何かあったら電話してこいよ・・・・といって別れた。
今度は彼女とねー、とも言っていた。

帰りの道すがら亀さんのことが気がかりで頭の中がぐるぐるしていた。
酔えない酒でなんだか気分が良くない。
詩織の顔を見て気分良く眠ろう。
家路に急いだ。

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