「きれいな東京」に本当の愛はあるか
東京が「きれい」になっていく
日本の首都であり、政治・経済・文化の中心地である東京。多くの観光客も訪れるこの大都市は、日々どこかしら工事をしていて、新しいビルが建ったり再開発が進んだりしている。
昭和に建てられた建物はガラス張りのビルに生まれ変わっているし、以前は「治安が悪」かったエリアはファミリーでも立ち寄れるスポットに変身している。
東京が「きれい」になっている。
歌舞伎町タワー
JR新宿駅東口を北に進み、西武新宿駅にほど近いエリアに歌舞伎町という場所がある。
ホストクラブやら飲み屋やらが立ち並ぶこの地区に、先日「東急歌舞伎町タワー」がオープンした。エンタメとホテルの融合を掲げる同施設には、一泊300万の客室もあるそうだ。
館内の映画館「109シネマズ新宿」の一般利用料金は4500円と、一般的なシネコンの倍くらいの価格。「クラスS」というランクの座席は6500円である。
このほか、ゲームセンターや屋台街を模した「映える」フードコートなどもあり、コンセプト通りエンタメ性を高めている印象だ。
私も実際に立ち寄ってみたが、外国人の観光客の姿も目立っていて新しい観光地という様相である。
高級ホテルやお高めの映画館と、そこに集う若者や外国人観光客...。歌舞伎町が戦後の闇市から出発したようなエリアだと考えると、ずいぶんと””出世””したものだと感じる。
変わる渋谷
渋谷も10年ほど前から再開発が進むエリアだ。
東急線沿いに祖父母の家がある私個人としても、渋谷は子供のころから馴染みのある街。その渋谷は、中学生くらいの時から絶えず工事をしていて、本当に週替わりで駅の通路が変わっていた。
特に景色が変わったのは東口だ。
ヒカリエのオープンを皮切りに、スクランブルスクエアやらなんやらが建ち、銀座線のホームも不思議な形になった。
2020年には、宮下公園跡地に商業施設「ミヤシタパーク」がオープンした。ブランドショップやカフェのほか、1時間6500円~利用できる運動スペースの設備も用意されている。
かつて、新宿方面から山手線に乗っていて左手に”森”が見えたら「もうすぐ渋谷だ」と思ったものだが、今は壁のようなデカいビルになっている。
私個人としては、友達と語り合うのに使ったりもした思い出の公園だが、今は跡形もない。
公共施設が来場者を選ぶ
さて、このミヤシタパークについて先ほど「宮下公園跡地」と書いたが、実は公式見解ではいまだに「公園」だそうだ。
それも、渋谷区立。さらりと書いたが、区立公園で運動するのに6500円がかかる。
ミヤシタパークは建設までの経緯も曰く付きだ。
というのも、宮下公園周辺には多くのホームレスが生活していて、彼らを追い払って造った施設だからだ。
ホームページのコンセプトには、
と、糸井重里あたりが書きそうな寒いセリフであれやこれや書いてある。
しかしながら、ホームレスは追い出す。
「どうぞいらしてください」といいながら、ニンゲン扱いする人を選ぶのがこの、”公共施設”たる公園のスタンスなのだ。
ジェントリフィケーション
ジェントリフィケーションという言葉がある。
「都市の富裕化」とか「都市の高級化」と訳される用語で、地価が低かったり低所得だったりする土地を再開発することで、そこに住む人々の所得を上げる(高所得の土地にする)…というのが本来の意味である。
街がきれいになり、発展して人々の所得が上がる―。
一見すると、非常に理想的な「都市の成長像」のように思える。
先述のミヤシタパークは、ホームレスの住んでいた公園を再開発した。言葉を選ばずに言えば、世間でいうところの””綺麗””な場所にはなったかもしれない。
だが、都市に住む皆が「豊か」になっているのだろうか。
区立公園で運動するために6500円を支払える人のための施設。あるいは、管理する三井不動産というデベロッパーが賃貸料でもうけを出すための施設。そうではないだろうか。
歌舞伎町タワーだってそうだ。
ミヤシタパークのような曰くはないにせよ、その真下の街では令和だというのに若い女性が「立ちんぼ」をして売春をしている。貧困とセックスとドラッグに溢れている街であることに変わりはない。
綺麗な「箱」だけが完成する。だが、それを100%享受できる人はどれだけいるか。
格差が広がるこの日本で、分断が広がるだけではないか。
ショッピングモール化する東京
渋谷では西側のエリアの再開発も予定されているという。
道玄坂や文化村通りの周辺が「複合施設」になるという報道が、先日あったところだ。あのあたりの雑居ビルやラブホテルなどが一掃されるイメージだろうか。
例によってショッピング施設やレストラン、ホテルが誘致される「複合施設」。しかし、それって本当に”街”なのだろうか...。
街は、人が集まってできる。いろいろな考えの人間が、いろいろなアイデアで商売を始めたりいろいろな生き方をしている中で、完成するのが都市という空間でありその景色だ。
一方で複合施設のような、デベロッパーが仕組んだ「まちづくり」とやらにおいて店は「ただの一テナント」でしかない。出店する各オーナーの考えや思いはあるだろうが、主役はデベロッパーだ。
無個性な建物、均質的な空間に並ぶチェーン店。
渋谷が、地方のアウトレットのような場所に成り下がる未来が見える。そんな街に、価値はあるのだろうか。
自然破壊も
神宮外苑での再開発事業も話題となっている。同所はコンクリートジャングルである東京では貴重な、緑あふれる都市公園だ。
ところが、そんな外苑で1000本近い木を伐採する計画がある。中には樹齢100年近いものも含まれている。
神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替え、超高層ビルを建設するという計画があるためだ。なお、事業者にはミヤシタパークを手掛けた三井不動産も名を連ねている。
これについては、先日亡くなった坂本龍一をはじめ各界の著名人らも反対を表明している。
当たり前だと思う。SDGsだ温暖化だ言っている時代に、貴重な自然をわざわざ破壊して何になるというのだ。
東京の価値とは
街が「きれいになる」ことはいいこと。普通に考えればそうだとは思う。
時代のニーズや社会情勢によって、街が”アップデート”したりリフレッシュしたりすることも大切だとは思う。
だが、そこにあるのが「ビジネス」なのか、「共生」なのかでその意味は大きく異なる。
三井不動産が憎いわけではない。
だが、都市という空間をビジネスの道具としかみなさず、さらに「まちづくり」という耳障りの良い言葉を使って表現することに大きな違和感を覚える。
池袋でも再開発が進むという話を聞いた。
もしも、東京全体が「デカい、金持ち向けショッピングセンター」に生まれ変わるのだとしたら、いよいよ東京という街の価値自体を疑わなければならないフェーズに入る。
私であれば、そんな街で生きていきたいとは思えない。
企業が儲けるための、雰囲気だけの「綺麗な街」ではなく、皆が個性を出して暮らしていける東京であってほしい。
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