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親の思い子知らず

いつもの起床時間より早めに妻が起きた。いつもは仕事に行く僕の方が起床時間は早いが、今日は妻の方が一足速かったようだ。眠気まなこで起きると、洗面台に向かうついでに、キッチンをのぞいていく。

妻がメロディーを口ずさみながら、玉子焼きを作っているようだ。熱された油に玉子が重なり、良い香りがリビングのほうまで漂っている。

今日は何の日だ?と仕事のスケジュールを見直すが特になにもない。顔を洗い、キッチンで妻に声をかけた。

「玉子焼きなんで珍しい、今日はお弁当が豪華だね」

「あら、忘れたの? 今日は保育園が月一回のお弁当の日よ」

「そうだった、今日はお弁当の日か!」

だから、妻の気合いがいつも違うのかと笑いそうになるのを我慢する。先月のお弁当は完食してもらえなくてガッカリしていたことを思い出したからだ。

今月のお弁当こそは完食してもらおうと、料理技術のすべてをお弁当に注ぐかのように集中している。

妻を見ていると、普段の僕のお弁当は何なんだろうと思うところがあるが気にしないようにする。

お弁当作りをしている妻をコーヒーを入れながら眺めていると、妻が息子と同年代の子ども達のお弁当を見てみたいと言っていたことが、記憶の片隅から浮かんできた。

我が家でこれほどなら、他のご家庭も負けず劣らず気合いが入ってるだろうと予想できた。
保育園のお帳面に給食完食または残しましたのコメントが書いてあるだけで、一喜一憂してしまうほど親は気にしている。愛情弁当ならなおさら気になると考えてしまう。

僕が仕事に出かけるころに、息子が起きて抱っこをせがんでくる。休みの日なら、そのまま散歩に出かけてもいいくらいだが今日はお仕事だ。おまけにゴミ出しも今朝のルーティーンに入っている。

「今日はママの愛情弁当だから完食するんだよ」

息子の頭にそっと手を置き、伝えてみたが寝ぼけているのか、バイバイと手を振っていなくなった。少しさみしい。

お昼時間に食べたお弁当は、いつもより彩りがきれいで、タコさんウィンナーが異彩を放っていた。いつもより、美味しく感じたのは愛情スパイスましましになっているからだろうか。

仕事が終わり家に帰ると、妻がふてくされて皿を洗っていた。ふてくされてた理由は、話すのも野暮なことなのでご想像におまかせしてします。
























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