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逮捕された二世タレントに思いを馳せる


※これは2017年11月8日に書いて発表したコラムです。今回、誤字修正や読みやすく書き直しています。

◆清水アキラの三男逮捕

 2017年10月11日、池袋のラブホテルでデリバリーヘルスの女性に覚せい剤を無理やり吸わせ、自身も覚せい剤を使用した罪で逮捕・起訴されたモノマネタレントの清水良太郎。モノマネタレントの大御所・清水アキラの三男。

 2017年11月1日の記者会見で清水アキラが「保釈はさせない」と発言しているのをワイドショーで見た。
 良太郎が逮捕された直後の10月の会見では、アキラが「何かあればひっぱたいて育てた」「それがよくなかった」と言っているのを見た。
 殴って育てて、保釈もさせないってスゴイな…。と私は思った。

 芸能人だし、良太郎はアキラより知名度の低い二世タレントだし、良太郎の父親であり所属事務所の設立者であるアキラが記者会見するのはこの世の中では当然のことだと思う。
 でもなんかどうしても、昭和の犬の飼い方みたいだなーって思ってしまった。
 普段から、悪いことしたらお仕置(せっかん)、特に悪いことをしたら「俺の飼い方がまずかった」と言いつつ更なるお仕置(締め出し、家に入れない)。
 お仕置に次ぐお仕置。褒めて“やる”時は、自分が仕込んだ芸をうまくできた時だけ、みたいな。
 清水良太郎は29歳。妻がいて去年長女も誕生している。
 良太郎は父親なのである。

◆初めて父に歯向かう

 良太郎逮捕時のアキラによる記者会見の動画を見てみると、「良太郎がアキラに怒鳴った」というエピソードについて話していた。
 その会見より10日ほど前、一緒にゴルフをしていた際のことだという。
 良太郎のゴルフマナーに対し、アキラが「お前ふざけんなコノヤロウ」と注意したら、良太郎が「ふざけんじゃないよ」と怒鳴り返してきたという。
 アキラは穏やかに丁寧に話しているのだけど、その「お前ふざけんなコノヤロウ」のところだけはアウトレイジみたいな迫力でめちゃ怖かった。

 良太郎は「ふざけんじゃないよ」と言い返したのだが、そうやってアキラに歯向かってくるのは初めてのことだったという。
 納得のいかないアキラは「お前、俺にそういう口きけるってことは、他でもそういう口きけるんだろうな?」(アウトレイジ)とすごみ、アキラの芸能事務所を辞めるという話になったという。本人も辞めることに同意した、っていう話だった。

 実の父が、それまで誰もやったことのないオリジナルの芸で名を馳せた人物っていうだけでも息子としてはいろいろな面で葛藤があるものだと思う。さらに良太郎は父と同じ道を歩いている。
 父が師匠でありしかも事務所の設立者。兄がその事務所の社長。
 それだけでも息が詰まりそうなのに、仕事でもなく芸の事でもない遊びの場でも父と一緒に過ごし、そこで歯向かったらその場で仕事がクビになるという強烈な支配的関係性。想像しただけでこめかみに圧がかかり、身が凍える。

 そんな環境で、父親に怒鳴り返したのがその時初めてなんて、今まで相当、良太郎は従順にやってきたんじゃないだろうか。

 アキラの家では普段から、芸能人の覚せい剤スキャンダルがテレビで流れるたび、家族で「良太郎は大丈夫だろうか、そこまでバカじゃないよな」と話したり「お前はこういうことしないだろうね」と本人に聞いたりしていたという。
 こういうのって家庭によっては別に問題のない普通の光景とされているのかもしれないけど、いくら親でも、子どもにこんなことを聞いたり言ったりするのはすごく失敬で失礼なことだと思う。聞いてどうすんだって話だし。
 子どもからの「してないよ、大丈夫だよ」というセリフを聞くことで親側が安堵を得るだけの、とても一方的で強引で乱雑な、コミュニケーションとも呼べない、人間同士のやりとりの中でも積極的に嫌悪すべき会話ランキング上位のものであると思う。

◆29歳の息子の行き先を聞いて殴る

 清水良太郎は今年の2月にも、闇カジノに行ってた件でニュースになった。
 アキラはこの11月1日の会見で、その時のことも振り返っていた。
 良太郎を呼び出し、「お前は(闇カジノに)行ってたのか?」と聞いたら「行ってました」と言うので、「夜中にどこふらついてるんだ」と言って殴ったという。
 息子がとんでもないことをした時に親父が殴る、っていうのが世の中ではへンなことではない、っていうのは分かる。
 実際、「保釈させない」という発言に対しては世間から批判もあった。税金の無駄遣いだ、とか。だけどこの「夜中にどこふらついてるんだ(ゲンコツ)」は完全にスルーされていた。
 だけど、良太郎、29歳の妻子持ちの男なのに、行っちゃいけないところに行って父親に殴られるなんて、小学生みたい。それか昭和の犬。殴られた良太郎は何も言わず黙っていたという。
「うそをつかない、時間を守る、自分の言ったことはちゃんとやる」と約束したのに、とアキラは振り返る。なんかほんと、繰り返しになりますけど、親とそんな約束するなんて、小学生みたい。

 アキラはその話の時「あいつは私に殴られましたから」と言った。
 おそらく「アキラに殴られること」が良太郎にとっては最大級のお仕置き、って意味なんじゃないかと思う。清水家の中では。どんな刑罰よりも、重刑。よく分からないけどそんなニュアンスを感じた。
 その割には、「息子の予想外の失態に驚いて思わず殴っちゃったんです」というテンションではなく、お茶が目の前にあったから飲みました、みたいな通例・日常のトーンで静かにおっしゃったのが、こわかった。

 ワイドショーは「良太郎の人間性に問題あり」という角度で取り上げる。
 闇カジノ事件の時は「ダメ二世」と呼び、反省してない感じの良太郎の態度、ふてぶてしさ、勘違いぶりを際立てて報道していた。
 確かにその映像の中で良太郎は、29歳の社会人として完全に好まれない口の利き方をしていた。美川憲一から一対一で説教されるという場でも、「闇カジノの件で捕まったわけじゃないのに、どうしてこんなに世間が騒ぐのかなと思う」とか言ってた。ただ神妙な顔して謝ってればいいだけの場面で、どうしてわざわざ「俺は悪くない」と主張するのか。
 良太郎の過ごしてきた環境や背景を少しでも知ってしまった今、その態度や言動は、逆に自然なものに見えなくもないような気がする。人間、どこに行っても「お前はダメだ、ダメなはずだ、ダメなことしてないだろうな」とか言われ続けてたら。

◆どこへ行っても庭

 29歳になっても、いくら悪いことをしたとはいえ、父親に殴られる(しかも反発をしない、できない)という状況で、人の親になるってものすごく難しいことだと思う。
「親としてのメンツ」っていうのがある。
 自分の子どもと対峙する時の、自分の中にある「わたしは一人前である感」。
 これは、子育てをする上で重要なものだと思う。ある程度の自信がなければ子育てはとても苦しいものになる。

 良太郎は、清水アキラ(父親)に反発することは絶対に許されない。清水アキラの思う範囲の言動しか許可されない。良太郎の世界では、清水アキラがすべてのルールである。
 いいこと(モノマネ芸)をしてもアキラのフィールドから出ることはできず、悪いことをしたらアキラに殴られる。
 アキラルールでは、「夜出歩いて非合法な遊び」と「アキラに歯向かう」が同レベルである。良太郎による「非合法な遊び=逮捕などのスキャンダル」は「アキラの仕事を侵害すること」に繋がるので、つまりは「アキラに歯向かう」が唯一の罪であり禁止事項である。
 何をやってもアキラの庭からは出られない。
 その庭の中で、新しい、自分の家庭を作る。自分の娘にとっての祖父にあたる人の「犬」をやりながら「親の顔をする」。これはとても無理がある。

◆法律に許されても

 こういう親子関係は、良太郎に限ったことではなく、よくあることだ。多くの場合、「犬」か「親の顔をする」のどちらかをやめるという選択をとる。
 両立させようとするとどちらも居心地が悪く、自分の立場が不明瞭になるため、別の居場所が必要になる。別の居場所の作り方は人によって様々で、浮気する人もいれば、配偶者や子に過剰な存在感と立場の誇示(モラハラやDV)という形で現れたり、アルコールに依存したり、いろいろな形で「犬」と「親の顔」のギャップを埋めようとする居場所確保行動が現れる。

 良太郎の場合、それが覚せい剤とデリヘルの組み合わせ(デリヘル嬢に覚せい剤を飲ませようとする暴力)だったのではないかと思う。
 反社会的なことでしか、「庭から出て、一人の人間としての感覚を味わう」ができなかった、とここでは想定してみたい。

 そんな良太郎、せっかく犯罪を犯して、初めて「警察」というアキラ以外のルールに捕まることができたのに、「保釈させない(年明けまで拘留されてろ)」と結局アキラがまた、国家権力越しにジャッジを下す。
 法律に許されても、アキラに許されなければ檻からは出られない。

 そんな強烈すぎるお仕置を与えながら、面会でアキラは良太郎に「どんなことがあってもお前の味方だから」と伝えたという。
 アキラは、良太郎のいない会見では世間に向かって「(芸能界復帰は)いくら努力したってだめでしょう」と良太郎を“客観的に”評する。そして号泣しながら「私の子どもですから」「家族ですから」と言う。
 でもそれまでの話を聞いていると、なんだかまるで「(家族みんなこんなに一生懸命やってるけど、それを台無しにする奴もいるんです、でもそいつも)家族ですから(仕方ない)」というような感じしかしない。

 しかしお茶の間やネットでは、「清水アキラの親心、苦渋の決断、親子の絆」として理解された。大多数の人が感動し、アキラの好感度はぐんぐん上がった。

◆登場しない被害者

 ワイドショー及び清水アキラの会見において、デリヘル嬢への良太郎による暴力については、何も言及されない。
 何の問題でもないみたいな感じになってるのが解せない。
 アキラは「女性(デリヘル嬢)のことより尿検査についてしか頭になかった」と数回言っていたし、ワイドショーでも「覚せい剤依存からの立ち直り」とか「清水さんの親心」の話ばかりで、うっかりすると良太郎が覚せい剤をやっていただけみたいに聞こえる。

 清水良太郎の世界では、裁判官も検事も弁護士もキリストも閻魔様も全員が清水アキラである。被害者は、デリヘル嬢じゃなくてアキラなのである。母親も兄も妻も子も研ナオコも美川憲一も村田英雄も五木ひろしも全員が清水アキラ。映画「マルコヴィッチの穴」(映画)みたい。
 何してもどこにいっても誰に会ってもそこには清水アキラがいる。清水アキラが全ての中心であり、森羅万象であり、彼の触れるものすべてにアキラの息がかかっている。

 私は清水良太郎に対して同情してないし、清水アキラを批判したいわけでもない。こういう親子関係は、芸能人だから目に見えるだけで日本中にたくさんある。だから世間的に言われているアキラへの批判(甘やかしてるとかなんだとか)はどうでもいい。
 ただ、良太郎は相当しんどいんじゃないかなあとは思う。
 巧妙に隠された、父親の自分への冷たさ。自覚したら壊れてしまうほどのしんどさではないかと思う。そのしんどさには勝手に同情する。だって、どうやったらその、「アキラヴィッチの穴」から抜け出せるというのだろう。

 清水アキラが会見で言っていた「清水家、一からやり直し」をするなら、まずデリヘル嬢にどんなにひどいことをしてしまったか、そこからだと思う。

 今は「覚せい剤」のインパクトによって、良太郎によるデリヘル嬢への暴力が世間的にもかき消されている。世間的にかき消されていること、は良太郎の世界では無罪である。アキラに影響を及ぼさないからである。
 そうやって、清水アキラになってしまっている被害者のデリヘル嬢を、一人の人間として認識することで、良太郎の世界から、一人ずつ清水アキラを消していく作業をする必要がある。その一人目は被害者のデリヘル嬢以外にいない。

 だけどおそらくそんな話にはならないのではないかと想像する。

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