見出し画像

『虎に翼』に心動けば動くほど

※この記事では性暴力被害に触れています。読まれる際はご注意ください。

昨日友人たちと『虎に翼』の1週目を改めて見た。新聞の日本国憲法第14条を読む寅子に、第1話の冒頭から「何だこの朝ドラ。すごいぞ」と思ったことを思い出した。同時に「でもこの憲法の下に、このとき沖縄は含まれていなかったんだよな」と、ものすごいやりきれなさを抱いたことも。それを一緒に見ていた友人に伝えると「そう、良い話であればあるだけそう」と、やっぱり同じ気持ちだよなと、同志の存在はいつも心強いけれど、ただ作品のメッセージに感動したり喜んだりさせてもらえない私たちって何なんだと、やっぱりやりきれない思いは解消されない。

朝ドラの中では全く描かれていないが1972年の沖縄の「祖国」復帰は米軍基地がなく、一人ひとりの命と尊厳が守られ、法の下の平等が日本国憲法によって保障される社会に暮らしたいという願いが込められたものだった。その沖縄に暮らす人々の思いは日本という国の政府にも、占領軍にもないものとされた。そもそもおまえたちは政治の頭数に入っていないのだというメッセージ。

今年6月25日、県議会議員選挙が終わり、慰霊の日も過ぎて、梅雨も明け、夏が来るな、そういう日に、2023年12月24日に16歳の女性が米兵から性暴力を受けたこと、警察と外務省がそれを沖縄県に伝えていなかったことが報じられた。最初にその報に接したときの気持ちはうまくことばにできない。少しずつ情報が増えてきて、平和憲法の下への復帰という希望を裏切られた当時の沖縄の人たちは、こういう気持ちだったのかもしれない、そう思った。

2023年7月から施行された刑法の性犯罪規定。同5月の衆議院法務委員会で話されたことにものすごく希望を感じて、かみしめたくて思わず文字起こしをしたのだが、希望を強く感じた分だけ、今回の失望が大きかった。

これか。私たちだけ除外されるという感覚とは。刑法が改正されたって、これじゃあ守られているなんて全く思えない。外務省が沖縄県に通知しない間、被害に遭った女性や家族はどんな思いだっただろう。もうこの状況がすでに二次加害ではないのか。さらに別の性暴力事件も起きている。通知されていれば十分か不十分かは置いておいても、何かしら対策がとられるし、被害を受ける側に「気をつけろ」というのも絶対違うが、それでもそういうことによって被害は防げた可能性が高い。

6月16日に投開票された沖縄県議会議員選挙では県政野党が過半数以上の議席を確保する結果となった。こういうときだけ日本政府は沖縄県の有権者の声を拾う。辺野古の工事を県民も受け入れたのだと、”本土”の人々に印象付けたいのだ。そういうことのために、性暴力の被害にあった女性や家族のケアやさらなる被害を生まないための対応が二の次にされ、新たな被害を生み、加害を止めず、まるでそこで傷つく沖縄の女性たちなどいないかのように扱う。

『虎に翼』で語られる大事なことばたちにただ共感し、その論点だけで希望を感じたりまだまだだと腹を立てたりする自由が沖縄に暮らす私たちにはない。今朝までの放送話の中に沖縄はほとんど出てこない。出てこないことに気が付かずにいられる自由は私たちにはない。そういう風に『虎に翼』を見ている私たちも、名目上は日本国憲法の下で、改正され不同意性交等罪が明記された刑法が機能するはずの仕組みの下にいるはずだが、はて?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?