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何かを諦めないと幸せになれない。平凡な人生を愛する人には敵わない。

夢や欲望は、ときに私たちをアリ地獄へ誘う。上を目指そうと足掻けば足掻くほど足をとられ、ずるずる底へ堕ちていく。

営業だったころ、ライターになりたくてしょうがなかった。
ライターになったころ、独立したくてしょうがなかった。
独立したころ、稼げるようになりたくてしょうがなかった。
稼げるようになった今、知名度を上げたくてしょうがない。

あの日の私が描いた夢の上に立ってなお、青天井の欲望が私から達成感を奪い去り、さらなる夢がはるか上から私を見下ろして嗤う。走れども走れども理想に追い付かず、常に喉はカラカラ、自信はほんの一握り、身の丈に合わないプライドばかり持て余している。

今自分が立っている土俵で満足できず、いつも物足りなさを感じる。自分のパーツが何かしら欠けている気がして、満たされない。

幸せそうな人に「今、幸せ?」と聞いたら、予想通り「幸せだけど。そんなに多くを求めてないから」とあっさり答えた。うらやましい。どんな修行をしたら、どこの滝に打たれたら、美しく諦められるのだろう。現状に満足できず、ゆらゆらぐだぐだ、夢のような刺激的な日々を思い描いている。

そんな折、映画『海よりもまだ深く』を鑑賞したところ、樹木希林さんの言葉が、煮え切らない私の心に突き刺さり、犬も食わない違和をぬるくやわく溶かしていった。

なんで男は今を愛せないのかねえ
いつまでもなくしたもの追いかけたり
幸せってのは何かを諦めないと手にできないものなのよ
海より深く人を好きになったことなんてこの歳までないけどさ
ないから生きていけんのよ

幸せとは、おだやかな諦めの先にあるものなのか。目を凝らさないと見つからないものなのか。もっと深く、もっと強く、もっと、もっと、もっとと大きさを求めているうちは、幸せを実感する心のスキマが生まれないのだ。人生の豊かさは、波乱万丈な波にあるのではなく、平坦な余白に宿るのかもしれない。

平凡な人生を愛する力、ください。

aki kawori | Twitter

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