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できるライターは「平凡なイタコ」になる

魅力的なコンテンツは、圧倒的個性と圧倒的共感によって生まれる。驚きと共感が同居して初めて人の心を奪うのであり、どちらかだけではハートを射抜けない。

商業ライターは、強い個性を共感できる文章に翻訳しなければならない。珍味が多くの人に愛されるのは、料理のプロが手間暇かけて精巧に調理するからだ。文章のプロであるライターは、鋭い言葉の角を適度に和らげ、絶妙な塩梅に調理する。尖った言葉を尖ったまま提供しても、無数のとげが喉に突き刺さって飲み込めない。

取材記事を書くとき、私はイタコになる。取材対象者のAさんに憑依して、Aさんのつもりで書く。AさんよりもAさんらしく、を目指す。同時に読者をイメージし、Aさんと読者の間を行ったり来たりして、双方の意思疎通を成立させる。要は、ずば抜けた能力や個性を持つ人の言葉を、一般人でも理解できる言葉に翻訳して記事化するということだ。

ライターは専門知識も強みになるが、それ以上に「難しいことをどれだけわかりやすく伝えられるか」という説明能力のほうが大事だ。わかりやすく説明するには、読者と同じ目線を持たねばならない。「この文章で読者に伝わるか?」「この文章を読んだら読者はどう思うか?」と徹底的にイメージしながら書く。

この能力はライター以外にも求められる。優秀な先生は、難しい問題を頭の良くない生徒でもわかるように解説する。池上彰氏があれだけ活躍しているのも、説明能力が際立ってるからだ。難しい政治の話も、国民が理解できるように話す。要点を踏まえ、理解しやすい簡単な言葉で説明する。

文章を書くときは、目の前に読者(仮)を置いてほしい。自分の文章を読んで、その読者がしっかり頷いてくれるか。首を傾げたり、眉根を寄せたりしないか。どんな文章であっても、公開した瞬間に「だれかとの対話」になる。どんな引きこもりライターも、コミュニケーションからは逃れられない。

相手のことを考えない思いやりなき文章は、だれの心も射抜けないのだ。

aki kawori | Twitter

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