第三話 癒しの空間① 「借金 × 無職 × アル中」の僕ができるまで

僕には癒しの空間があった。

僕の家の両隣には祖父祖母の自宅と、祖父祖母の友達夫婦の家があった。

「孫は目に入れても痛くない」とよく言われたもので、とても可愛がってもらえた。

幼稚園に入園した僕は祖父のスクーターの前にのって送り迎えをしてもらっていた。現代では簡単に警察に止められてしまうが、当時の取り締まりは緩かったため毎日こうやって家と幼稚園を行き来していた。

今日も祖父のスクーターに乗って秋の風を切りながら家路につくと祖父が言った。

祖父「さて、須藤さん(祖父の友達)家に行くか。」

こうして、僕は週2~3回ほど須藤さんの家で祖父母と共に須藤さん家で過ごした。

須藤「慎くん!今日も来たなぁ!!お菓子たくさんあるからゆっくりしてってよ!」

須藤さんはとても優しく、そして話し好きな方だった。

僕は須藤さんの話を聞くのが好きだし、小さな僕の話も真剣に聞いてくれる。

本当に心が休まる空間だった。

秋と言えど少し寒い日が続いたため、須藤さんは正方形の掘りごたつを出していた。

祖母「慎くん。おばあちゃんの隣に入りなぁ。寒いからちゃんとあったまるんだよぉ」

僕は祖母の座る場所に少しスペースがあり、そこに小さな体をねじ込ませる。ここが僕の定位置だ。

掘りごたつと祖母のぬくもりで僕はとても幸せな気分になる。

まずは、僕の幼稚園の一日について聞かれるので僕から話始めるのがお決まりの手順だ。

須藤さん「慎くん!今日は幼稚園でどんなことしたんだい?」

僕「えっとね~。今日は先生から将来の夢について聞かれたんだ。」

須藤さん「慎くんの将来の夢はなんだい?あんぱんまんとかかな笑?」

僕「違うよぉ。それに僕はもうあんぱんまんは見ないよ。今はビックリマンのアニメが好きなんだぁ。」

須藤さん「そうかそうか。慎くんも大きくなったんだもんねぇ。」

僕「僕はね、パン屋さんになりたいんだ。」

須藤さん「そうか!それはすごい!やっぱりあんぱんまんの影響かな笑?」

須藤さんはとてもユーモアな人でよくジョークを言ってくれるからとても面白おかしくその時間を過ごすことができた。

僕の話は祖父母も須藤さん夫婦もとてもよく聞いてくれて、それだけで30分はあっという間に過ぎる。

その後は高齢者同士の話があり、病気の事だの、近所の噂だの、時事に関する事だの色々な話が飛び交っていた。

難しい話になると小さな僕は理解できなかったので、金と銀の紙に包まれたマグロを四角くしたお菓子を食べる。

これがとても好きで、20個くらいは平らげていた。

僕はこの時間がとても好きだ。

ずっと続けばいいと思っていた。

母が帰ってくるまでの間、僕はとても癒されていた。


最後までお読みいただき有難うございます。 読んで辛くなる個所もあるかと思いますが、私のような人間を増やさないために事実を認知いただき、また、広めていただけますと幸いです。 なお、現時点で無職につきサポートいただいた資金につきましては活動費、生活費に充てさせていただきます。