【会計天国】そこの経営ツートップ、とりあえず頭に水ひっかぶってから正座しようか【感想】

会計天国 (PHP文庫)

本書の主人公は、経営コンサルタントの北条。娘のウェディングドレスの試着につきあうために呼び出され、その途中で事故死。現世に復活するため、天使から指定された人生崖っぷちの5人を経営のノウハウを使って幸せにすることに……。

【第1章 なぜ、「儲かっている」といわれる会社が、倒産するのか？】

登場人物
【加賀竜二】
アパレルブランドの社長。元アイドルタレント。数字なんかわかるか、と逆ギレする程度には自覚のあるおバカさん。陣内からの「おこづかい」で毎月100万くらい散財している。内訳は飲み代とデートがほぼ10割。四の五の抜かす前に黙って歯を食いしばれ。

【陣内】
加賀の幼なじみで取締役。経理担当。だが数字をおいかけるのは大の苦手。こちらも開き直って逆ギレする。今回の危機的状況に気づいたのはお嫁さんが経理をやっていたから。苦手だという自覚があるなら得意な人間をまず雇えや。適材適所。

【状況】
前期の決算で年商15億、当期純利益3,000万にも関わらず銀行の残金が320万というミラクル。2日後の社員の給料とオープンしたばかりの表参道店の家賃が払えないよ、助けて○○えもん！

なお、決算直前に銀行から2,000万借り入れていたため、借入金の合計は銀行の融資枠額目一杯の2億円。さらに救えないことに肝心の経営ツートップはなぜこんな危機的状況に陥ったのか皆目見当もつかないという地獄。ひとまずノンバンクから1,000万借り入れて窮地をしのぐ。さあ、自転車操業は目の前だ！

初めて本書を読んだのは単行本の初版。
簿記の3級の知識も風化して久しい頃だったので、とりあえずヤバいということだけは覚えていた。
今回は日商2級の復習を半ば終え、ビジネス会計3級に照準を合わせところでタイミングよくKindle化を知ったので買い直してみたのだが。
「……出だしからすでにヤべぇっ!?Σ(￣ロ￣lll」
フィクションとはいえ、経営者がこれで10年会社がもってしまったことが一種のホラーだ。
では、本編。

「現在の」貸借対照表では流動資産2億6,000万に対して流動負債3億。本書ではここで行方不明の当期純利益3,000万が新店舗の内装設備に飛んでいたことが判明。そして問題の差額4,000万がどこから発生したかといえば、貸借対照表を見たとおり固定資産から。

▼固定資産
内装設備 1億2,000万
保証金 1億円
長期貸付金 2,000万

▼
固定負債 長期借入金1億円
純資産 資本金2,000万円・利益剰余金8,000万円

固定資産＋純資産が計2億円しかないのに、▲2,000万分は一体どこから持ってきたのかと小一時間。正解は運転資金(短期借入金)を使って補填してました。そして謎の長期貸付金2,000万の正体が何だったかと言えば、5年前から給料とは別に支払われていた「社長の毎月のおこづかい(100万)」

100万×12ヶ月＝1,200万
[1,200万円ー800万(交際費)]×5年＝2,000万

＊資本金1億円以下の会社における交際費は、領収書があったとしても、会社全体で800万/年

1,200万のうち経費として落とせなかった残り400万円が貸付金扱いになり、返済されないまま膨れ上がった5年分の結果が2,000万だったのである。
陣内から「毎月のおこづかい」をもらっていた加賀にとっては寝耳に水だったろう。通常、おこづかいはもらうものであって「返済する」ものではないのだから。

一通り数字が出そろったところで、冒頭の問題へUターン。

「なぜ、銀行の残高が320万円しかないのか？」

新店舗の内装設備で当期純利益3,000万が消滅。
固定資産の内装設備▲2,000万分を運転資金(短期借入金)で補填したため、今度は運転資金が▲2,000万。そして、経費として計3分の2は計上はできるものの、100万/月＝1,200万/年の現預金が「おこづかい」に消えていく。しかも現時点では返済の見込みなし。

……キャッシュ枯渇不可避。

当事者以上に読んでいる側も頭を抱えてしまったが、最終的に復活して東京証券取引所へ上場できたので結果オーライ。だが、交際費でまた巨額の損失出しそうなフラグががが……

大ざっぱでもいいから、貸借対照表が読める経営者が増えればいいのにな……。

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