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市場再構築の今、リアル店舗に新たな可能性。三井不動産の「移動商業店舗プロジェクト」とは

フィットネスクラブを中心としたリアル店舗の顧客管理、予約、決済を行うSaaSサービス「hacomono」を提供する弊社。Withコロナ、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代における店舗ビジネスのネクストスタンダードをつくるという言葉を掲げて、日々チャレンジをしています。このオウンドメディアでは、hacomonoの機能やスタッフの紹介に限らず、リアル店舗に関わるニュース記事やコラムもお届けしていきます。

新型コロナウイルスの流行をきっかけに、リアル店舗のあり方が見直されつつある昨今。都市部を中心に緊急事態宣言も出され、状況は日々変化していく中、どのような場に商機を見出していくのか。考えを巡らせている小売店オーナーは少なくないと想像します。

このまま、リアル店舗だけのビジネスを続けていくのか。それとも、ECへと販路を拡大し、両軸で売上を確保するのか。特性の違う2つの分野だからこそ、挑戦には高いハードルもあるはずです。もしリアル店舗とECの中間的な役割を担えるフィールドがあったら、今抱えている迷いを解消する一つのきっかけになるでしょう。

2020年12月15日、三井不動産株式会社が「移動商業店舗プロジェクト」を始動させたことを発表しました。リアル店舗のメリットを残しつつ、デメリットを軽減するこの取り組み。もしかすると、未来の小売のカタチを変えていくかもしれません。

日常の延長にある不動産の空きスペースで消費行動を

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▲テナントと不動産の空きスペースをマッチングする「移動商業店舗プロジェクト」

移動商業店舗プロジェクトは、移動販売車両を「移動商業店舗」とし、様々なスペースと商業店舗のマッチング事業を行うことで、街に埋もれたコンテンツや、ECにしかない店舗と思いがけず出合えるセレンディピティを提供する取組です。

ビルや駐車場、マンション、商業施設といった不動産には、活用しきれていないデッドスペースが少なからず存在しています。そのような場所を店舗の出店場所として利用すれば、さまざまな面でメリットがあるのではないかというアイデアのもと生まれました。

不動産開発を通じて三井不動産が得てきた知見を活かし、曜日や時間帯などの条件で移動商業店舗と不動産の空きスペースをマッチング。例えば、マンションであればスーパーやパン屋、オフィスビルであれば飲食店やアパレル店舗などを出店し、本来ほかの場所でおこなわれていた消費行動を、日常生活の延長にある不動産の中で促そうというわけです。

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このような考えで生まれた同プロジェクトには、3つの効果があると紹介されています。

①ボーダレス化:商業店舗が身近な場所に移動してくることで、固定店舗とECの間をつなぎ、誰もが生活圏の中でリアルな購買体験を獲得できる。店舗事業者にとっては新たなチャネルが生まれ、より深い顧客との関係性構築につなげられる。

②コンテンツとの出会いの創出:人々のライフスタイルに合わせた買い物体験を提供することで、生活圏の中で思いがけない魅力的な店舗と出会える可能性が生まれる。

③体験価値の向上:不動産そのものを、さまざまな体験を提供するサービス(Real Estate as a Service)として利用することで、街の魅力そのものが生まれていく。

同社は、こうした3つの効果が相互に作用していくことで、「その不動産を持つ街全体の魅力が底上げされる」と記しています。この公園に行けば、子どもとの時間やランチ、夕食・日用品の買い物を完結できるだけでなく、いつも魅力的な新しい店舗と出会える――。そのような世界観が生まれたら、不動産そのものの体験価値が向上していくのかもしれません。

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今後は「ホテル」や「ワークスペース」などの店舗も展開へ

移動商業店舗プロジェクトは、三井不動産の「モビリティ構想」の具体的な取り組みの一つです。同社グループは長期経営方針の中の重要施策として「街づくりを通して、持続可能な社会の構築を実現」「テクノロジーを活用し、不動産業そのもののイノベーション」を目指すことを掲げています。その中で街で暮らす人々に新たな体験価値を提供することを目的として、ヒト・モノ・サービスの「移動」に着目したモビリティ領域への取り組みを開始しました。

私たちの暮らす社会では、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、働き方や暮らし方の選択肢が多様化し、ライフスタイルの変化が加速しています。生活におけるデジタルサービス活用の重要性も増す中、同社はモビリティ領域(MaaS、移動商業)の取り組みによる新たな価値創出をテーマに掲げ、さまざまなプロジェクトを並行して進めてきました。

同社広報によると、移動商業プロジェクトは三井不動産グループの事業提案制度「MAG!C」によって2018年に提案されたもの。提案者のアイデアは2013年から温められたもので、2020年9月から12月にかけてトライアルイベントを行うなど、事業化が進められています。外出の自粛要請などで事業意義が高まり、サービス展開に対しては社内も積極的になったそうです。

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▲トライアルイベントの様子

首都圏を中心に5か所で実施されたトライアルイベントでは、飲食や物販など、全10業種・11のテナントが参加、実際にマンションやイベント広場に移動商業店舗を派遣し、一般消費者も交えたテスト運用が行われました。

利用者にアンケートをとったところ、利便性の良さに加えて「新たな店舗や商品と出会えたセレンディピティ」を高く評価。店舗事業者からも「想定よりも高い売り上げが出た」「プロモーションの観点でも出店の価値がある」といったポジティブな声が得られたとのこと。一方で、まだ決済関連でのフローや今後のテナント開拓に課題が残っているといいます。

今後の展開としては、エリアやユーザー特性に応じて、「ホテル」「ワークスペース」「グランピング施設」などバリエーションを増やし、出店場所を拡大する予定。ビジネスモデルとして、さまざまなスペースと商業店舗とのマッチングに加えて、希望事業者に対する移動販売車両のリースを検討しているそうですが、同社広報は「どのようなコンテンツを提供していくか、事業展開のスケジュールなどはまだ具体的に決まっていない」と語りました。


今回発表された移動商業店舗プロジェクトは、リアル店舗とECの中間的な役割を果たしていくと考えられます。テナントは、違う新たなチャネルとして消費者との接点を獲得でき、顧客とのより深い関係の構築が可能となります。移動販売店舗の特性を活かし、曜日や時間帯に応じて出店場所を変えれば、効率的に売上を伸ばすこともできるでしょう。運用に必要な車両にかかる経費が、リアル店舗の出店コストより低い点も忘れてはなりません。

Withコロナ、DX時代にマッチした小売の形とはいったいどのようなものなのか。三井不動産が展開する移動商業店舗プロジェクトには、そのヒントが隠されていそうです。

(写真出典:三井不動産 プレスリリース

執筆:結木千尋/編集:庄司智昭