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よりみち和菓子日記 9

12月 聴雪

雪を聴く、と書いて「ちょうせつ」と読むそうだ。なんと美しい名前だろう。
空からしんしんと舞い降りる雪。地が、木々が、雪に覆われて、白くなってゆく。静かな冬の景色が、まぶたにうかぶ。

雪が降るときに、音はしない。
「雪を聴く」とは、ないものを感じる、ということだ。そう考えて、少しはっとする。うまくいえないが、「ない」と「ある」とは実は同じなのではないか。そんなことを考える。

お菓子は、真っ白なあんこで包まれていて、舞い落ちる雪のように、黒ごまが散らしてある。上面に押された、源氏香の図の刻印が、アクセントになっている。

窓の外は、小雨が降り、うす暗い冬の日。
紅く染まった葉もあるが、枯れはじめた葉もある。秋明菊もすっかりしおれ、どこかもの寂しい景色だけれど、あたたかいお茶を飲みながら眺めていたら、なんだかほっとした。北鎌倉は、雨が似合う。

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