見出し画像

それはこんな暖かな日だった。


函館空港へ飛び立つのは、これで五回目だ。

五年前に学校を卒業したあと、私たちは物理的に疎遠になった。毎日顔を合わせていたあの頃と比べて会う頻度はずいぶんと減ったけれど、関係は変わらず続いている。

そういうわけで今年もまた会いに行くけれど、北国の春は寒い。向こうへ着いたらまずスーツケースからコートを出すことになるだろう。マフラーも必要かもしれない。

けれど、そんな日もこれで最後だ。

今日、自分たちは結婚する。

初めて出会ったのもこんな風に穏やかな季節だったし、お互い次会う日まで、と別れたのもこんなやさしい季節だった。

向こうに着いたら、久しぶりに二人で花見をするのもいいかもしれない。今までは夏の花火か冬の雪景色しか見られなかったから。こちらは散ってしまったけれど、あちらはまだ咲いているだろう。

あたたかな期待と大きなスーツケースを抱え、飛行機に乗った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?