
自転車の鍵を締め忘れる私が、締められるようになった話
自転車の鍵を締め忘れて妻にいつも注意されていた。
僕は自転車の鍵をよく締め忘れる。妻に何度も注意される。どうすれば締め忘れないのか、改善命令を出されている。自分の自転車なら最悪盗まれてもいいが、家族兼用の電動ママチャリも鍵を締め忘れてしまうのは問題だ。妻の意見の正論だし、どうにかしなければならない。
しかし。次の日から意識して鍵を締めることができるわけではない。もし言われただけで、鍵を締めることができるなら、とっくにやっている。開き直るつもりはないが、意識しててもつい忘れて鍵を締め忘れてしまうのだ。
意識しても難しいので、まずはヤフー知恵袋さんに頼ってみた。「夫が鍵を締め忘れるけどどうすればいいか?」お、これはヒントありそうだと思って読み進めていくと、注意欠陥障害(ADD)だから病院にいけと薦めている。
果たして病院で薬もらったらすぐ解決できるのだろうか。
人の意識はそんな簡単に変わらない。
自転車の鍵を締めることができる妻からは、こんな簡単なこと意識すればできるじゃないと言われる。これは組織づくりの仕事をしていてもよく耳にする。マネジャーが部下に対して、「こんな簡単なことができないのは意識が足りないからだ」と注意する。
部下も「はい、わかりました!これからは意識を変えます!」というだろう。でもそれで行動が変わる人は稀でははないだろうか。人の意識はそんな簡単に変わらない。人の意識が変わるときは、良くも悪くもショックを受けたときだ。
たとえば自転車に鍵をかけていなかったことで、自転車が盗まれて壊されたり、メルカリで売られていたら、さすがに鍵を締めようと戒めるだろう。
意識の問題にせずに、この問題を解決できないだろうか。
意識を変えずに、鍵の長さを変えてみた。
まずはどうして鍵を締め忘れるのか。出来事を時系列で洗い出して、振り返ることにした。
◆鍵を忘れるパターン
鍵=長さ10cmのダイヤル式のワイヤーロック
①自転車の鍵を開ける。
②鍵をカゴに入れる。
③自転車に乗る。
④自転車から降りる。
⑤鍵を締め忘れて離れる。
⑥妻に注意される。
鍵を締め忘れる瞬間は⑤にある。そして②で鍵をカゴに入れた後から、鍵の存在を忘れていることが振り返ってわかることができた。②〜⑤の間で、鍵を締めるリマインドができれば、鍵を締め忘れないだろう。
どうすればリマインドができるのか。鍵にスマートタグを付けて、離れると通知がくるようにするか?しかし今のところ、雨風にも耐えうるスマートタグなどない。
そこで僕が考えた仮説は、鍵の長さを10倍(100cm)にして、カゴにいれるのではなく身体に結びつければ忘れないのではないかというアイデアだった。早速、Amazonで100cmの鍵を購入して検証してみる。
◆新しいパターン
鍵=長さ100cmのダイヤル式のワイヤーロック
①自転車の鍵を開ける。
②鍵を身体にたすき掛けする。
③自転車に乗る。
④自転車から降りる。
⑤たすき掛けしたまま室内に入るとダサいので、鍵を脱ぐ。
⑥そのまま鍵を自転車にかける。
クスリをもらわなくても、意識を変えなくても、鍵の長さを変えることで、鍵の締め忘れがなくなった。妻からもslackで感動したというメッセージを頂き、この問題は無事解決することができた。
この経験から僕たちは何を学ぶことができたか。
人を変えるのか。環境を変えるのか。
クスリや意識を変えるという発想は、「人」を変えるというアプローチである。一方で自転車の鍵を変えるという発想は、「環境」を変えるというアプローチである。僕は相変わらず忘れっぽいし、正直なところをいうと『自転車の鍵をかけなくても今の住んでいる地域で盗る人はいない。』と意識である。
人を変えるか。環境を変えるか。どちらのアプローチがいいかは状況にあわせて組み合わせることがいいのだけど、「環境」を変える方がコスパ的にはいい。今回だって、鍵代1,280円で解決することができた。
人を変えることは、時間がかかることだし、本人にとっても負荷がかかる。根本から変わるので様々な問題が解決できるのはいいけど。でもして私の問いは、もし変わらなかった場合の対応をどうするかだ。
もし人が変わらなかったらどうするのか。
今回の自転車の鍵のように些細なことであれば、妻が諦めたら済むかもしれない。でもこれが企業で、ある社員が「企業の期待する要求」を満たしていなかったらどうなるだろう。何度も改善命令を出しているにも関わらず「人」が変わらなかったらどうなるだろう。僕も組織づくりに携わる仕事をさせていただいているので、そういう場面に立ち会う場合が多い。
一般的にはその社員は「排除」される方向に進むのではないだろうか。そして「企業の期待する要求」を満たす人が、新しくそのポジションに就くのではないだろうか。営利を追及するのが企業だから、できない人がいたら排除するというロジックが走るのは理解できなくもない。
でも果たして本当にそれしか手段しかないだろうか。どこまでその社員と「環境」を変えるアプローチを考えられただろう?部下と1on1をしているって言っても、意識を変えろ!という「人」を変えるアプローチしかしていませんかね。
できるかぎり「環境(組織)」を変えて解決していく。
「排除」が当たり前の組織は、社員が「排除」されることに怯える。「会社の求める要求」に均質化・最適化していき、それ以外のことはムダなものと認識していく。結果、大切だけど時間がかかること、不確実だけやった方がいいことに挑戦する人は減っていくけど大丈夫ですかね?(それは自分が追っかけている目標とは関係ないから大丈夫?)
できるかぎり、組織を変えて解決できることは、人ではなく組織を変えることで解決していきたい。それは自分自身が自転車の鍵すら締め忘れる人間だから。才能はなくちょぼちょぼであることが自分が一番よく自覚しているから。
僕が組織づくりを始めたキッカケとなったパートナー企業さんは、事業継承によってやむを得ず経営者になられた。古くから活躍している社員さんと、継承後に新しく入ってきた社員が入り混じっている。価値観のチガイもから衝突することもある。でも経営陣は、なるべく人のせいにせず、誰かを排除しようとせず、タイワを続けて「環境(組織)」をrebornしようとしている。企業成長だけの視点からみれば、遠回りのことをしているかもしれないけど、ステキな組織だと思ってる。
最後まで読んでくれた方へ(お詫び)
自転車の鍵を締め忘れた話に留めるつもりが、真面目な仕事の話(しかも長文)になって申し訳ございません。熱くなったら止まらない癖があるんです。(やってしまいました)noteではあんまり仕事のことを書かないように気をつけていているのですが、「環境」を変えるアプローチは、組織づくりの仕事から学ばせてもらったことなのでお許しください。今度は「トイレの便座を下げられなかった私が、下げられるようになった話」を書きたいと思います。