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本棚を「読む」から「つくる」へ   工芸としての本棚#press(#プレス)

余白のあるリノベーション物件に引っ越しをして、早半年が経ちました。
「暮らし」を自分の手で開いていくことを決めていたので、今回は本棚をつくってみました。#press(#プレス)

01.本棚を「読む」

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本棚と聞くと、本の背がこちらを向いて手に取ってくれと言わんばかりに主張してくる姿を思い浮かぶだろう。
この時点でもう、本棚に目を向けておらず注目がそれている。それは本棚があってなきものであり、本が主役であるからである。

本が存在するから、本棚がものとして成立していて、本を支える本棚自体が自らを支えながら本を収納している。形や目的がはっきりしていて、とてもシンプルである。世の中に出回っているどれを見ても、無駄のない水平垂直な線で構成されている。

「私たちが使う人工物の世界は、たいてい~(省略)、時が経てば変化するが、それが形が古くさくなったからではなく、不適当になったからである。本箱の場合、変化の時が訪れるのは、本棚がまたいっぱいになり、本があふれ出すようになった時点だった。」
*「本棚の歴史」 第五章 書棚 p111より

本をどこに置き、どのように扱うか。の問題は今に始まったことではない。

愛読家の部屋は、テーブルや棚に余地がなくなり、あふれ出した本が、ありとあらゆる場所をふさいでいく光景を良く見ることがある。これは、本が増えすぎるがあまり収納方法に困るからであろう。

ルネサンス時代から個人用書斎が流行り出したが、聖ヒエロニムスの時代、当時の学者は大量の本を所有することはなく、仕事のために借りて、仕事を終えると返却していたというのには驚いた。現代のように個人が所有して並べることも珍しかったという。

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「本棚の歴史」 ヘンリー・ペトロスキー[著]
池田栄一[訳]

本棚という盲点を、形態的・機能的変遷として読むには、この本を是非手にとって頂きたい。

02.本棚の変化

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1588年のからくり図録に挿絵として描かれた、アゴスティーノ・ラメリの奇抜な水車型書見台
*「本棚の歴史」 第六章 書斎の詳細p127より

共進化の過程をたどってきた本と本棚として、本棚が変化するのは、今なのではないか。

十六世紀の中頃に始まった背への装飾から、現代のように本の背をこちらに向けた縦置きが始まったとされ、それまでは背を外に向けている本はなかったという。

今変化しないのは、する必要がない。ということ以上に、あたりまえに埋もれているからである。活版印刷が可能になった時代から、今やインターネット検索で本を購入したり、携帯アプリ上で本を読むことができる時代になり、書物の流通形態が変わり、個人が実際に本を持たずとも蔵することが容易になった。

このあってなきものは、無くなって初めて、最もその存在が意識される。それでは遅すぎる。本棚に限ったことではないが、今、あたりまえにあるものを再発見し、少しずつ変えていくべきだ。
本棚から本があふれ出すよりも前に、減っていくのではないかと感じている中、本棚を「つくる」へと向かう。

03.本棚を「つくる」

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名称は  #press (#プレス)

~#(ハッシュマーク)に込められた想い~
SNSが発達したことにより、インターネット上で””をタグとして、知りたい言葉の前につけて検索することが多くなったが、この検索する言葉の前にある””の意味を問うてほしい。その行動を支える基礎構造を知ってほしい。そのもの一つ一つには、語られるべき物語があり、あたりまえに存在しているものを見つめてほしい。
press
は、複数の仕切りからなる本箱を示す用語。中世英語のpresseを介して古フランス語に語源を持ち、presseは群衆や混雑した状況を表す十三世紀の言葉である。

2枚に板で構成されている字のモジュールを組み合わせて(固定金具、接着剤無し)自分の好きな高さ、幅まで組み立てることが出来る。
見た目の不安定さから際立つ、自らを”支える”もの、そしてものを”支える”存在としての本棚。

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「少し出っ張る。」
「少し傾ける。」

既存のカーテンレール、梁を避けながら自立する。本棚にとっては思いもよらないことだが、それは日常の生活では常日頃起こり得る。

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「少し差し込む。」
「少し引っかける。」

端材を組み合わせたブロックを余白に差し込むことで、新しい機能を生み出す。

あえて本にとって少し居心地の悪い状態をつくることによって、新しい余白が生まれ、本棚は進化する。本の収納機能に関係のない機能を作り続けることで本を支えていく。そんな本棚を目指した。

それは芸術的な意匠を施し、機能性と美術的な美しさを融合させた工芸としての本棚なのかもしれない。

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「建物ではなく、どんな部屋にでも設置できる自立した家具」
*「本棚の歴史」 第九章 書庫の工学 p209より

であると、技術者のバーナード・R・グリーンは自らが考案した書庫について解釈していた。これは19世紀後半に議会図書館に設置された書庫である。各部分が本棚を支えるだけでなく、職員が本を取りに来たときに歩く床も支えている。

#press (#プレス)は、L字のモジュール構造となっているため、誰でも簡単に組み立て、分解することができ、どんな部屋にでも設置できるようになっている。

二十世紀半ばに図書館建築の設計に好まれた、本箱を含む備品を自由に動かせるオープンフロア構造のように、移動前提社会のその先の不確定要素を考えると、この柔軟性は明らかに魅力的に映るのではないだろうか。

04.本棚から本との出会い方に

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「本棚が本を引き寄せるのは自然の法則らしい。~(省略)本棚と本のあいだの引力は、本棚に支配されている人間によって媒介される~」
*「本棚の歴史」 第十一章 本の取扱い p267より

本棚が本を引き寄せるのが自然の法則だとしたら、本棚が人間を引き寄せるのは簡単だろう。

新しい引力として、インターネット上で本が流通している中、改めて手に触れる本を大切にしようと、本との出会い方を工夫しようしているところが多々ある。それは本を選ぶ時間を考えたものや、嗅覚を頼りに本を選ぶものである。

本やその場所に手を加えても、それを支える本棚を変えようとしているのはまだまだ少ない。進化した本が並んでいるだけでは、存在意義ある本棚にはならないし、これからも共進化していくべきである。本にとって少し居心地の悪い状態をつくることで、本との出会い方は変化するだろう。

語られるべき物語を可視化するのは、改めて大切だなと感じる。Shoki


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