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人生は、夢を見ているように過ぎていく

寝ている息子の、雨上がりの綿毛のような髪に
顔を埋めると、ふいに昔の記憶が蘇った。

中学時代。重くて肩が凝る制服、
校庭の砂の色に変色したスクールバッグ、
チョークのせいなのか、私の気持ちのせいなのか、
いつも粉っぽくて息苦しい教室。

あの頃、休み時間はいつも、
しょうもない落書きと
誰かのペン先で彫られた小さな穴だらけの
茶色い机に突っ伏していた。

友達がいなくて、休み時間に
トイレに行く意外に、
身の置き場が無かったから、

長い休み時間は図書館で過ごし、
短い休み時間は、寝ていた、

というか寝ているフリをしていた。

大して眠くなくても、寝ているフリをすれば
それなりに格好がついて喋る相手がいない
ことを露呈しなくて済んだ。

教室を見渡せば、他にも何人か
同じように寝ている子がいて、
彼らが本当に眠かったのか、
あるいは私と同じように寝ているフリで、
なにかから逃げていたのかわからない。

教室の中にはいるのに、
クラスの中には入れない自分が、
あの頃は本当に嫌だった。

それでも、自分のことが
可愛い気持ちは捨てられなくて、
恥もかきたくなくて、

人には興味がない、
冷めたキャラのフリをしていた。

きっと当時の私は心を閉ざした嫌な子で、
大人にとっても扱いづらかったはず。

あの時の私は、今も私の中に住んでいて、
息子のにおいや動作に刺激されて
ふと顔を見せることがあり、
その度に戸惑い、目を伏せたくなる。

目を伏せた先にあるのは息子の寝顔で、
私は確かに起きているのに、
なんだかずっと長い夢を見続けているような気持ちになる。


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