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【検証コロナ禍】東京都の病床数過少報告、国会や総理会見でも言及 問題の解明はこれからだ

(冒頭写真は、3月5日の総理記者会見。首相官邸サイトより)

私なら総理にこう質問した

 昨日、緊急事態宣言の再延長を表明した菅義偉総理会見で、私が昨春以来追及してきた東京都の病床数不正報告問題について、産経新聞と京都新聞の記者が取り上げました
 この問題はすでに読売新聞など各紙が報じ、国会でも取り上げられたので、菅総理や尾身茂会長も問題の所在を認識されたと思われます。

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(左上から時計回りの順で、読売新聞(3/2)、産経新聞(3/3)、日経新聞(3/3)各朝刊社会面)

 この問題は、まだ解明されていないことがいくつもあります。
 ーーいつから不正確な報告が行われてきたのか、その時から遡ると正確な病床使用率の推移はどうだったのか?
 ーー厚労省と東京都はいつから、発表してきた重症者病床数が「国基準のものではない」と認識していたのか?
 ーー医師会・専門家らは国が発表し、報道されてきた重症病床使用率が過大だと気づいていなかったのか?
 ーー気づいていたとしたらなぜ黙っていたのか?
 ーーこの問題は、政府や分科会の専門家の、緊急事態宣言発動、延長、再延長に関する判断に影響しなかったのか?(この点について、日経新聞の3月4日付記事参照)
 ーそもそも東京都が修正報告した病床数(現在、全体で5000、重症用は都基準330、国基準1000)も東京都全体の急性期病床のごく一部にとどまる。なぜもっと拡大できないのか?
 ーー東京都による病床数の過少報告は今回が初めてではない。昨春の緊急事態宣言下でも確保病床数、入院患者数の不正報告は行われていた。なぜきちんと検証されてこなかったのか? 等々。

 いうまでもなく、病床使用率は、遅くとも昨年8月に政府分科会が4つのステージ判断の指標と決定して以来、「医療ひっ迫」を根拠としてなされる緊急事態宣言や様々な行動制約の是非を判断する上で、極めて重要な指標となっています。
 他の指標は「ステージ2」以下であっても、病床使用率だけが「ステージ3」「ステージ4」であり続ける限り、行動制限の理由として使われてしまうのです。
 実際、昨日菅総理は「ちょうど50%ぎりぎりのところも、今、ひっ迫しているところもあります」と述べ、再延長の理由として医療体制の改善の必要性を挙げました。
 私が会見の場にいたら、「具体的にその地域はどこですか?」と質問していたと思います。
 そして、「いまだにひっ迫しているのは医療提供体制の整備充実を怠ってきたからか、必ずしも入院加療の必要性のない方を多く収容させてしまっているから、ということは考えられませんか?」という疑問をたたみかけていたと思います(この問題は、改めて別稿で書きます)。

 いずれにせよ、多くの方々に問題の所在を認識していただいたことはよかったと思います。
 私だけでは非力です。
 一人でも多く方、とりわけ大手メディアにいるジャーナリストがもっと問題意識を持って調べ、多角的に解明してくれることを期待します。

【資料】これまでの経緯

2020/4/6:緊急事態宣言発出について問題提起をする記事をYahoo!に寄稿
⚫︎緊急事態宣言前夜? 「感染者数」速報で不安を煽るメディアが全く報じないデータと発言

4/7:第一次緊急事態宣言、発出

4/12:東京都、確保病床数「2000床」と発表。NHKが特設サイトで、東京都の病床使用状況は1974人/2000床と記載

4/27:NHKが特設サイトで東京都の病床使用率「131%」と記載。小池知事は入院患者数を2668人(うち宿泊療養198人)と発表

都福祉保健局は、4月27日時点の入院患者数が実際は1832人だったことを4月末までに把握し、厚労省に報告。5月10日、厚労省が公表した資料で判明したが、この入院患者数過大発表の問題を報じたメディアは皆無だった。

4/29:小池知事、緊急事態宣言の延長要請を表明

4月30日、将来を悲観していた都内在住の市民(東京五輪聖火ランナー)が全身大やけどで亡くなる痛ましい出来事が起きた(NHKなど複数のメディアが報道)。

5/4:政府専門家会議が「入院患者を引き受ける医療機関への負荷は現状でもぎりぎりの状況にある」との見解を示す。政府、緊急事態宣言の延長(5/8〜5/31)を決定

4月中旬以降、東京都の新規陽性者の減少傾向が続く中、入院患者数の発表値は4月30日〜5月4日に急増(2608人→2915人)していたが、実際は全く異なる数字だったことが、後になされた修正報告で判明した。
また、東京都は宣言延長が決定された5月4日までに、確保病床数を「2000床」と厚労省に報告していたが、これも実際は「4月中に3300床確保」だったと5月19日以降、修正報告した。

5/6:小池知事、入院患者数を2974人(うち宿泊療養164人)と発表

5月6日時点の入院患者数は2974人ではなく1511人だったと東京都が修正報告していたことが、厚労省の5月12日公表資料で判明。後に確保病床数も上方修正されたため、5月6日時点での病床使用率は約46%(重症病床使用率23%)だったと6月初め頃にわかった。

5/8:厚労省、それまでの集計方法を変更したとして、突如「入院治療等を要する者」を約5000人減の下方修正

厚労省は遅くともこの5月8日までに、東京都の入院患者過大報告の事実を把握したと考えられる。

5/10:厚労省が都道府県別の入院患者数、確保病床数の調査結果(4月27日時点)を初めて発表。以後、ほぼ定期的に各都道府県からの報告をとりまとめた資料を公表するのようになる

5/11:時事通信が前日の発表に基づき、東京と石川が病床逼迫と報道、Yahoo!ニューストップに掲出。NHKも東京の病床使用率91%と報道。同日、小池知事が会見で「3300床確保」と明かす

5/12:東京都が新しい患者管理システムを運用できるようになったと発表。入院患者数を大幅に下方修正(5月11日2509人→12日1413人)

5月12日報道発表では、集計漏れにより76名分(累計感染者数)の上方修正を発表したが、入院患者数の大幅下方修正を発表せず、メディアも前者のみを報道していた。

5/14:政府、基本的対処方針の改定で「医療提供体制及び検査体制に関するわかりやすい形での情報の提供」を明記

5/17:東京都が4月27日時点、5月6日時点の入院患者数を大幅に下方修正して厚労省に報告した事実を、筆者の検証記事で指摘
⚫︎【新型コロナ】入院患者が4割減少 東京都の病床使用率も50%以下に改善

5/19:東京都の重症患者用の確保病床数(当時未公表)を都福祉保健局への取材で確認し、病床使用率13%(5月18日時点)と判明、記事化
⚫︎【新型コロナ】東京都の重症者病床使用率、大阪を下回る 正確なデータを公表せず

5/22:NHKの病床使用率に関する誤報をInFactのファクトチェック記事で指摘
⚫︎ 「(5月11日)東京は病床がひっ迫 使用率8割超え」NHKが誤報 実際は5割未満

5/下旬:厚労省、東京都が確保病床数について「4月中に3300床確保」と報告した5月19日付文書を公表

5/25:第一次緊急事態宣言、全面解除

6/4:東京都福祉保健局の担当課長、筆者の取材に「3300床確保は4月中だった」と回答し、4月30日時点での確保病床数が2000床→3300床に上方修正されたことを記事化
⚫︎東京都、病床確保数も不正確と認める 緊急事態宣言延長前2000→3300床に修正

東京都は5月下旬の緊急事態宣言解除後、確保病床を3300床から1000床に削減、軽症者用療養ホテルも6月から7月にかけて相次いで解約した。これにより7月中旬に療養ホテルが異常に逼迫し、菅義偉官房長官(当時)が苦言を呈した。

7/24:東京都が軽症者用ホテル受入室数について不正確な報告(過大報告)していたこと等がわかり、記事化
⚫︎【新型コロナ】東京都、軽症者用ホテル受入室数の発表も不正確 大幅縮小で一時逼迫するも改善

7/26:医療提供体制の情報開示レベルについて、東京都が首都圏の中で最低レベルであることを指摘
⚫︎【新型コロナ】ベッド・療養ホテル使用率の情報公開度、東京都は首都圏で最低レベル

2021/1/2:小池知事、1都3県共同で緊急事態宣言の再発出を要請
⚫︎ 緊急事態宣言は本当に必要か? 再発出なら出口戦略とセットで

1/7:弁護士、ジャーナリストら11名による緊急事態宣言の再発出に慎重な対応を求める有志の緊急声明(筆者も名を連ねる)

1/8:第二次緊急事態宣言、発出

1/14:入院要否の判断基準である「中等症」の統一基準が存在しないことがわかり、記事化
⚫︎ 【検証・コロナ禍】入院要否を左右する「中等症」の基準を政府は定めていない

2/8:第二次緊急事態宣言、栃木県を除き延長

2/12:厚労省が都の報告に基づき、重症病床使用率「100%」と発表。NHKなども特設サイトでこの数字を掲載。

2/17:都福祉保健局の担当課に取材。担当者つかまらず「解除の判断に関わる重大な事項」なので、一両日中の回答をお願いする。

2/19:報道ステーション、都の重症病床使用率「100%」と報道。同日夜、厚労省が資料更新し「86%」と発表。NHKなども特設サイトでこの数字を掲載。

2/22:都に再度回答を求める。都から「都議会で忙しい」とゼロ回答。

2/23:厚労省に取材、担当者いわく「都に修正を求めているが、なかなか修正してこない」→noteとYahoo!個人(ショート版)で記事化
⚫︎東京都の重症者病床使用率100%?厚労省の発表値は都と大きく乖離
⚫︎東京都の重症者病床使用率100%?緊急事態宣言解除先送りの都は訂正せず

2/25:1都3県の前倒し解除見送りの判断、その際に「86%」のデータが政府に伝えられたとされる(日経

2/26:報道ステーション、都の重症病床使用率「86%」と報道。夜、厚労省が資料更新し、重症病床「1000床」に上方修正、使用率「33%」と発表。

2/27:noteで記事化→週末に拡散(約4000RT)
⚫︎東京都の重症病床使用率、大幅な下方修正 気づかず再び誤報のメディアも

3/1:NHK特設サイトに下方修正の解説記事掲載

3/2:読売朝刊、日経産経ネット版、TBS News23が報道、アゴラ(池田信夫氏)が詳細に紹介。同日午前の官房長官会見で質問・答弁あり

3/3:モーニングCROSS(TOKYO MX、倉持麟太郎弁護士出演)AbemaPrime(Abema TV、筆者出演)で取り上げられる

3/4:参議院でこの問題が取り上げられる。J-Castが詳報。JAM THE WORLD(J-WAVE、筆者出演)で取り上げられる

3/5:第二次緊急事態宣言、再延長(3/8〜21)を決定。菅義偉総理記者会見の質疑で、病床数不正報告問題について質問が出て総理が答弁

菅内閣総理大臣記者会見(2021/3/5)(抄)

(記者)
 京都新聞の国貞と申します。
 病床使用率についてお伺いしたいのですけれども、2月下旬に東京都の重症者病床の使用率が国の基準に合わせたことで、突然大きく下がったということがありました。
 これに関して、一昨日の参院の予算委員会でも質問があって、これは厚労大臣が答弁されたと思うのですけれども、実は、病床使用率の修正は、今回始まったことではなくて、1月以降、京都府と神奈川県でもありました
 京都の場合で言いますと、東京とは逆に使用率が跳ね上がったのです。
 これは、国が公表する指標の数値というのは詳しい説明なく、修正されたような形になっているのですけれども、この使用率なのですが、緊急事態宣言の発令とか解除に関わる重要な指標であって、専門家、総理も判断材料の一つにされていると思うのですが、ただ、こういう重要なデータがころころ、都道府県の報告の上げ方があるのかもしれませんけれども、大幅な修正が何度も続くようであれば、数字の信憑性(しんぴょうせい)にも関わってくると思うのですが、総理、こうしたことがもう起きないように、何か基準みたいなものをもう一度より明確に何か統一するとか、そういったお考えというのはありませんでしょうか。
(菅総理)
 まず本来、各都道府県の病床の状況というのは、全国統一の基準で見るべきものだというふうに思います。
 かねてから、東京都に対しては厚労省から、東京は都独自の基準でしたから、病床の占有率ですか、報告されたものですから、国の基準に基づいて報告するように東京都にお願いをしてきました
 これを受けて、2月中旬に都が国の基準に基づき調査をし、2月下旬にその報告を頂き、今般、その基準に基づいて行っている、そういうことであります
 ですから、全国の都道府県というのはほぼ国の基準で行っていますけれども、そうでないところについては国の基準に合わせてほしい、そうした指導をしております。
(会見全文は首相官邸

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