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ファクトチェック・ジャーナリズムとは何か(上) 従来の報道との違い(4)

メディアの報道も除外されない

 ところで、主要メディアの報道はファクトチェックの対象となるのか、ならないのか、気になる方もおられるだろう。
 先に確認したように、マンザリス氏の概念整理IFCN綱領の序文にもあるように、ファクトチェックの対象は「公衆と関連する言説」()である。
 「公衆と関連する言説」から、社会的に多大な影響力をもつ主要メディアの報道だけを除外することを正当化できる理由があれば、教えてほしい。

 もちろん、主要メディアの報道がファクトチェックの対象になるケースはそれほど多くない。それはプロフェッショナルによる出稿前の事実確認と編集、校閲等のチェックを経ており、そうしたプロセスを経ていない情報源より疑わしい情報が少ないとされているからだ。だからといって、事実と異なる報道、ミスリーディングな報道が、時に出てしまうことは誰も否定できない。それが訂正されないままになっていることもある。それを取り上げるのか否かは、結局ファクトチェッカーの判断だ。

 実際、IFCNに加盟しているファクトチェック団体も、ときどき主要メディアの報道をファクトチェック記事化している。例えば、イギリスで評価の高いフルファクト(Full Fact)は最近、ガーディアン紙に掲載されたボリス・ジョンソン首相に関する読者向けクイズ記事を検証した。IFCNの中心メンバーであるポリティファクトはメディアの報道はほとんど取りあげないが、たとえば老舗のニューヨーク・ポスト紙の記事を検証したことがある。昨年加盟した台湾ファクトチェックセンター(Taiwan FactCheck Center)もメディア出身者が中心となって作られた団体だが、メディアの報道を時々取り上げている。
 そもそも次々と新しいネットメディアが誕生するなかで、仮に信頼性の高い主要メディアはチェック対象としない、信頼性の低いバイラルメディアはチェック対象とするとした場合、その境界線をどこに引くのであろうか。
 私がかつて運営していたGoHoo(2012年4月〜2019年8月)のように、もっぱら主要メディアの報道だけを検証対象とするファクトチェック団体はほとんどない。ただ、誤報の検証記事を発表する活動そのものはファクトチェックと同じだと認められたので、ポリティファクト創設者らのファクトチェック団体データベースに登録されていた(冒頭写真)。ファクトチェック団体としては異例のタイプかもしれないが、差別的な取り扱いは受けなかった。やはりアメリカのジャーナリストはフェアだと思ったものである。

 ひるがえって日本のメディア関係者には、報道が第三者によって検証されることにアレルギー反応を示す人が少なくない。しかし、今の時代、ファクトチェック団体でなくても、GoHooがなくなっても、報道は人々による検証、あるいは批判や攻撃から免れることはできない。そこで考えてほしい。何のルールと手続きもなく、イデオロギー上の動機で特定の報道機関が恣意的に検証の名の下に批判され続けるのがよいのか。それとも、国際標準のファクトチェックの厳格なルールと手続きにのっとって、公正に検証される方がよいのか。

様々なメディア・団体が担い手

 現在、ファクトチェックはどのようなメディア、団体によって担われているのかも簡単に紹介しておきたい。
 既に名前を挙げたIFCNは新しい団体とはいえ、ファクトチェックを担うメディア・団体の唯一の国際的拠点となっている(アメリカのポインター研究所に設置され、現在の2代目代表はトルコ出身)。ここの審査をクリアした正式加盟メディア等は現在85(うち13が再加盟審査中、2月18日現在)AFP通信ロイター通信ワシントン・ポストなどの主要メディアのほか、前世紀からネット上の噂などを検証してきたスノープス、ドイツで調査報道に取り組むコレクティブ(CORRECTIV)といった独立系ウェブメディア、韓国のJTBCテレビなどアジア諸国の団体も名を連ねている(日本はまだゼロ)。フェイスブックは60カ国以上のIFCN加盟団体と提携し、検証を委託している

 IFCNに加盟していない団体も含めれば、もっと多い。ポリティファクト創設者ビル・アデア氏を中心としたデューク大学の研究グループの調査は、一定の水準のファクトチェック活動を行っている団体等は世界に少なくとも230あることを確認している(追記:11月1日現在、304)。日本ではFIJが唯一カウントされている。IFCNのネットワークに入っていないメディア・団体もあり、実数はもっと多いだろう。韓国では少なくとも27の新聞、テレビ、オンラインメディアが国立ソウル大学ファクトチェックセンターに加盟し、恒常的にファクトチェックを行っている(追記:11月1日現在、加盟社は30)。

 ロンドンに本部があるファーストドラフトという団体も重要な役割を果たしている。デジタル時代のジャーナリストがスキルとして求められるベリフィケーションの普及に努めているほか、選挙中に複数のメディアによるファクトチェック協働をサポートするCross Checkプロジェクトをいくつも立ち上げてきた。
        ◇
 次回以降は、具体例をとりあげながらファクトチェックを実際にどのように行っているのかを説明しつつ、課題は何であり、どのように乗り越えていくのか、について考えていきたい。

(初出:Journalsim 2020年3月号)

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