見出し画像

【検証コロナ禍】緊急事態宣言の発令・解除の基準は極めて曖昧 ステージ3の3県が未解除

 罰則と「まん延防止等重点措置」新設を柱とする新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法が2月13日施行された。
 1月8日から再発出された緊急事態宣言は、茨城県(2月7日解除)を除く10都府県が1ヶ月延長となったが、うち3県は
ステージ4相当の指標が一つもないのに発令されたままとなっている。他方、2つの指標でステージ4相当になっている沖縄県は発令が見送られている。
 まん延防止等重点措置は基準が一層あいまいで、発令・解除が恣意的に行われる可能性が高まっている。
(冒頭写真は内閣官房サイト=2月13日)

緊急事態宣言は「ステージ4」

 これまで、政府は「ステージ4」相当で緊急事態宣言を発令し、「ステージ3」相当になれば解除するという基本方針を示してきた。
 感染拡大状況と医療提供体制によって4つの「ステージ」に区分けする考え方は昨年8月に専門家の分科会が提言したもので、政府も原則としてこの基準を踏まえて緊急事態宣言の発令・解除を判断すると表明していた。

(緊急事態宣言発出の考え方)
 国内での感染拡大及び医療提供体制・公衆衛生体制のひっ迫の状況(特に、分科会提言におけるステージⅣ相当の対策が必要な地域の状況等)を踏まえて、全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがあるか否かについて、政府対策本部長が基本的対処方針等諮問委員会の意見を十分踏まえた上で総合的に判断する

(緊急事態宣言解除の考え方)
 国内での感染及び医療提供体制・公衆衛生体制のひっ迫の状況(特に、緊急事態措置区域が、分科会提言におけるステージⅢ相当の対策が必要な地域になっているか等)を踏まえて、政府対策本部長が基本的対処方針等諮問委員会の意見を十分踏まえた上で総合的に判断する
 なお、緊急事態宣言の解除後の対策の緩和については段階的に行い、必要な対策はステージⅡ相当以下に下がるまで続ける
基本的対処方針、2021年1月7日改定

「ミニ緊急事態宣言」解除の基準は「総合的判断」のみ

 特措法改正で、緊急事態宣言の前段階である「ステージ3」相当で発動することを想定し、緊急事態宣言時とほぼ同じ権限を知事に付与する「まん延防止等重点措置」(=ミニ緊急事態宣言)が導入された。
 ところが、同措置は「ステージ2」相当で解除するという方針が示されるのかと思いきや、そうではなかった
 まず、もともと特措法上、解除の基準が極めて曖昧であることは既に指摘したが、それを詳しく定めるはずの政令でも、新型コロナの「感染拡大のおそれ」があり「医療提供に支障が生じるおそれ」があれば、まん延防止等重点措置に該当する、とされた。これらの「おそれ」がなくならない限り、まん延防止等重点措置を発動できる可能性がある(異常に長文なので、文末注に記載)。

 法施行とあわせて改定された政府の基本的対処方針でも、解除の基準に「ステージ2」という文言は入らず、「総合的判断」という文言しか入っていなかった。

(まん延防止等重点措置の実施の考え方)
 都道府県の特定の区域において感染が拡大し、当該都道府県全域に感染が拡大するおそれがあり、それに伴い医療提供体制・公衆衛生体制に支障が生ずるおそれがあると認められる事態が発生していること(特に、分科会提言におけるステージⅢ相当の対策が必要な地域の状況になっている等)を踏まえ、政府対策本部長が基本的対処方針等諮問委員会の意見を十分踏まえた上で総合的に判断する。
 また、都道府県がステージⅡ相当の対策が必要な地域においても、当該都道府県の特定の区域において感染が急速に拡大し、都道府県全域に感染が拡大するおそれがあると認められる場合や、都道府県がステージⅢ相当の対策が必要な地域において、感染が減少傾向であっても、当該都道府県の特定の区域において感染水準が高い又は感染が拡大しているなど、感染の再拡大を防止する必要性が高い場合に、政府対策本部長が基本的対処方針等諮問委員会の意見を十分踏まえた上で総合的に判断する。

(まん延防止等重点措置の終了の考え方)
都道府県の感染及び医療提供体制・公衆衛生体制のひっ迫の状況(特に、まん延防止等重点措置を実施している区域の感染状況が、都道府県全域に感染を拡大させるおそれがない水準か等)を踏まえて、政府対策本部長が基本的対処方針等諮問委員会の意見を十分踏まえた上で総合的に判断する
基本的対処方針、2021年2月12日改定

 従来の基本的対処方針でも、緊急事態宣言の解除は「ステージ3」相当で解除するとの原則を示していた。ところが、今回新設された「まん延防止等重点措置」の解除については、「ステージ2」相当で解除するとの原則は示されなかったのである。

 法施行と同時公表された参考資料も、緊急事態宣言が「ステージ3」になれば解除されると明記しているのとは対照的に、まん延防止等重点措置については「都道府県全域に感染を拡大させるおそれがない水準か等を踏まえて終了」と曖昧な表現にしてあった。
 要するに、ステージ2以下に下がっても「まん延防止等重点措置」を発動したままにしておけるように文言を曖昧にしたのではないか。

画像1

内閣官房サイト

発令・解除がステージと連動していない

 以上をまとめると、政府の基本的な方針は次のようになる。

(1) 緊急事態宣言は「ステージ4」になれば発令し、「ステージ3」に下がれば解除する
(2) まん延防止等重点措置は「ステージ3」になれば発令し、総合的判断により解除する

 ところが、実際は必ずしもそうではないようだ。
 実は、ステージ3・4については「病床使用率」「陽性率」「新規報告数」など6つの指標がある。
 そこで、現在も発令中の10都府県のうち、ステージ3・4に該当する指標の数をカウントしたところ、神奈川、愛知、岐阜の3県では2つの指標がステージ3相当だったが、ステージ4相当の指標は1つもなかった

画像4

 これら発令中の3県と同様、2つの指標がステージ3相当になっているのは、北海道、茨城、群馬、石川、山梨、奈良の5県あったが、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も発令されていない
 
沖縄県に至っては2つの指標でステージ4に該当し、1つの指標でステージ3に該当するが、いずれも発令されていない

画像4

 新設された「まん延防止等重点措置」はまだ1ヶ所も発動されていない。2月7日に緊急事態宣言解除となった栃木県が第1号になるとの報道もあったが、見送られている(県独自の緊急事態宣言を出している)。
 結局、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を発令するかどうかについて、政府に確固たる基準はなく、さじ加減で決めているように見えてならない。

<訂正>
・当初の見出し「ステージ3の4県が未解除」は、「3県」の誤りでしたので訂正しました。本文の表も差し替えました。(2021/2/14 11:13)
・2つの指標がステージ3相当は「4県」としていましたが、奈良を含む「5県」でしたので、訂正しました。本文の表も差し替えました。(2021/2/14 15:49)

<資料>都道府県別ステージ状況

画像4

出所:愛媛新聞サイト

<注>改正特措法と政令

● 新型インフルエンザ等対策特別措置法(2月13日施行)

(新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置の公示等)
第三十一条の四 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章及び次章において同じ。)が国内で発生し、特定の区域において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある当該区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるときは、当該事態が発生した旨及び次に掲げる事項を公示するものとする。
一 新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施すべき期間
二 新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施すべき区域
三 当該事態の概要
(太字は筆者)

● 新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(2月13日施行)

(新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態の要件)
第五条の三 (略)
2 法第三十一条の四第一項の新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態についての政令で定める要件は、当該新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施しなければ、同項の特定の区域(以下この項において単に「特定の区域」という。)が属する都道府県における新型インフルエンザ等感染症の患者及び無症状病原体保有者(感染症法第六条第十一項に規定する無症状病原体保有者をいう。以下この項において同じ。)、感染症法第六条第八項に規定する指定感染症(法第十四条の報告に係るものに限る。)の患者及び無症状病原体保有者又は感染症法第六条第九項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)の所見がある者(以下「感染症患者等」という。)の発生の状況、当該都道府県における感染症患者等のうち新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない者の発生の状況、特定の区域における新型インフルエンザ等の感染の拡大の状況その他の新型インフルエンザ等の発生の状況を踏まえ、当該都道府県において新型インフルエンザ等の感染が拡大するおそれがあると認められる場合であって、当該感染の拡大に関する状況を踏まえ、当該都道府県の区域において医療の提供に支障が生ずるおそれがあると認められるときに該当することとする
(太字は筆者)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?