奥様は

『奥様はトップランナー』〜妻をサポートする夫だけの座談会

RUN+TRAIL Vol.31 2018年 6月発売号』で掲載した「『奥様はトップランナー』〜妻をサポートする旦那だけの座談会」を加筆修正して再掲載します。この企画は、UTMFに出場した妻をサポートした夫だけ集まってもらい、根掘り葉掘り話を聞いた内容です。

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 これを読んだ女性陣から「こういう旦那さんがいい!」「どうやったらこういう男性を見つけられるのだろう」という声を多数もらいました。彼ら"夫"からどんな夫婦像が見えてきますか?

 奥さまの名前はゆかり、潤子、夕子。そして・・・旦那様の名前は晃宏、裕二、大。ごく普通の二人は、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。でも、ただ一つ違っていたのは・・・奥さまはトップランナーだったのです。

 2018年春に開催された国内最高峰のトレイルレース『ウルトラ・トレイル・マウントフジ(以下UTMF)』で女子4位、5位、9位と上位に入った3選手(星野由香里、鈴木潤子、矢田夕子)のサポートをした夫3名に集まってもらいました。

サポート準備編

──今日はよろしくお願いします。UTMF時のサポート状態を再現してもらいましたが、みなさん興味津々ですね!

鈴:大会では他の人のを見ることはないですからね〜
星:そうなんですよ。これは勉強になりますね!
矢:ヤバい。我が家がスカスカすぎる…みなさんめっちゃちゃんとしてる
星:それ、なんですか? ん? こんにゃく??
矢:本日の目玉「玉こんにゃく」です!
鈴:玉こんにゃくは矢田家の必携品なんですか?
矢:え〜と、これには深いワケがありまして、おいおい説明します

──大会モードに入ると、例えば食事を制限したり、飲酒を控えたりといったことを選手はよくしますけど、旦那として一緒に付き合うんですか?

星:同じ食事にしますねぇ。禁酒モードに入ったら一緒に禁酒もしています。一緒に戦うんだみたいな気持ちになっています
矢:マジで? アキくん(星野さん)は偉いなぁ。俺、普通に横でビール飲んでる(笑)
星:実は、最近は、ビール飲んじゃっています。ゆかりちゃんも「飲んでいいよ」って言ってくれるんですけど、言われると余計に気を使いますよね
鈴:気を使うことは確かにあって、でも、ウチは変えない派なんです。普段と何も変えないというか、特別なことはしないで過ごすことにしていますね

──事前の作戦会議はします?

鈴:もちろんやりますね。本人に想定タイムを出してもらって、各エイドでのシミュレーションもします。今回、前半はジェル系、後半は固形物と分けて準備しました
星:ウチもタイム表を出してもらいます。でも、大会までの間に何回だったかなぁ、たぶん5回は書き直していましたね。
鈴:そんなに? すごく綿密なタイムスケジュールなんですね。想定ゴール時間を決めて、そこから逆算しながら落としていく感じで、ウチは大雑把なのかなぁ(笑)
星:エイド間の時間を積み上げ式に足していくと、必ず想定タイムをオーバーしちゃうんです。そうなると、ここを切り詰めて、ここも削ろうみたいになって、書き直しするんでしょうね
矢:ですよね、、、普通はそうですよね、、、
星:何がですか?矢:タイム表とか作りますよね、普通。ウチ、作らなかったんです
星:えええええええ!?!?!?
鈴:ホント? 本当に? ウソでしょ?
矢:いや、本当なんです。もちろん言いましたよ、サポートの目安がわからないから作ってって
鈴:ですよね! でも、作らなかったんだ
矢:もし、想定より遅くなったら、その時点で凹むから作りたくないって言うんですよ。作らないことでメンタルコントロールが出来るなら、タイム表なしで僕が頑張ればいいんだ!って思いましたね
星:じゃあ、ライブトレイル様さまだったんですか?
矢:そう!大会が出してくれたライブトレイルがなかったらサポート出来なかったと思いますよ。
鈴:エイド到着予定時刻みたいなのも表示されるから、僕もライブトレイルは助かったなぁ〜

──大会前日とか、どんな雰囲気なんですか?

鈴:淡々としたもんですよ。明日の準備と最終確認して、レースが終わったらどうする?ってそんなことばかり話していますね
星:以前はピリピリしたこともありましたけど、今は、下手するとスタート5分前くらいまでリラックスしています。
矢:会場に向かう車の中だったかなぁ、甘いものが大好きなんですけど、助手席でスマホ見ながらニヤニヤしているんですよ。どうしたの?って聞くと、インスタでパンケーキを検索して、今度ここ行こう!とか、これ美味しそう!とか言ってて、しまいに、口をモグモグ動かし始めたんです。エアーパンケーキですよ! 糖質制限のために大好きな甘いものをずーと我慢していましたからわかるんですけど、気持ちとしてはモグモグ食べている。びっくりしました(笑)

(一同爆笑)


大会中のサポート

──さっきの玉こんにゃくの話を教えてくださいよ

矢:128km地点のA7山中湖きららの時なんですけど、フラフラの状態でエイドに入ってきたんです。すごく辛そうだったし、かわいそうになって辞めさせたかったくらい。
星:僕もそのシーン覚えています。真っ青な顔して辛そうでしたよね矢:サポートの時は旦那モードとトレーナーモードと半々な感じなんだけど、この時は完全に旦那モード状態。夕子は甘いものが大好きだから、気分転換にと思ってプチシューを準備していたんですね。そしたら、サポートしてもらっているシューズメーカーのALTRAの福地さんが「ロングトレイルは身体のPH値が酸性になるから、甘いものは吐き出すと思う。ここはアルカリ性のものだよ」って言って手渡してくれたのが「玉こんにゃく」だったんです
星:玉こんにゃくはアルカリ性なんだ!
鈴:でも、なぜ玉こんにゃくだったんだろう…梅干しとかあるのに
矢:コンビニに立ち寄ったらたまたま玉こんにゃくがあったみたいで。メーカーさんの“圧”に負けて、プチシューを引っ込めました(笑)
鈴:で、夕子さんの反応はどうだったんですか?
矢:オフィシャルカメラマンの小関さんが撮ってくれた二人のバックショットがあるんですけど、これ、きららを出るシーンなんですね。夫婦愛を感じるいい写真だ!なんて言われるんですけど、よーく見ると、夕子の両手に握られているのは…

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星:玉こんにゃく!
矢:正解! 手がパーではなくグーになっているでしょ?「美味しくない!手がカツオ臭い!」って言ってました(笑)。結局、少しかじっただけで、途中のゴミ箱に捨てたと言っていましたね。アキくんも芋けんぴの件があったじゃない!
星:あー!一つ前のエイドで「芋けんぴが食べたい」って言われたからコンビニに寄って用意していたんです。次のエイドに来たら「いらない」って言われて。仕方ないから周りの人に配りました(笑)
鈴:いるいらない話は必ずあるよね! 欲しいと言われたものが売ってなくって、別のものを買うことってあるじゃない? 本人には「なかったから」とか「売ってない」とか「ない」みたいな言葉を絶対使わず、「これが合うと思った」って断言系にして渡したことがありました
星:ネガティブな言葉を使わないってみなさん共通ですよね?
矢:同じ!「いける」「大丈夫」とか根拠ないんだけど、そういう言葉ばかり言ってますよ
星:サポートって結局そういうことしかできないんですよね

──サポートは、どこで休むんですか?

鈴:ウチは毎回御殿場にベースキャンプを作っています。時間があればその宿に戻って、仮眠を取るようにするんです。お風呂も24時間入れるからリフレッシュできていいですよ
星:ウチも今年からベースキャンプ制にしたので楽でしたし、ゆかりちゃんは毎回ほぼ想定通りにエイドに入ってくるので時間が読みやすいんですよね
鈴:誤差はどれくらいなんですか?
星:5分あるかないかくらいです矢:え? そんなに正確なの?
鈴:定期運行、JRゆかりだ! 100マイルで5分の誤差ってすごすぎる。ウチは逆に想定より早かったんです。何もかも前倒しでスケジュール立てして...
矢:ウチは…
星:タイム表ないわけだし(笑)
矢:ライブトレイルだけが頼りで、車の中で仮眠して、いつ来るかわからない状態。特に後半はボロボロになってたし、心配で仕方がなかったですね

──サポート中の楽しみはありますか?

星:ネタになればと思って持ってきたものがあるんですが、UTMFにはグルメスタンプラリーってあるじゃないですか、実は、2013年と2014年のチャンピオンなんです
鈴:チャンピオンって、どういうこと?矢:サポートしながら、グルメスタンプラリーもやってたの?
星:おめでとうございます!あなたが1位です!とか言って鐘を鳴らされて
鈴:今年アメリカのディランが優勝して2連覇を達成したけど、彼より早く連覇した人がいたとは!
矢:そうそう!あの話はしないの?
星:あの話?
矢:ダウンジャケットの話だよ
鈴:え?何々??
星:あのですね、レース中なんですけど、まとまった時間ができたから途中でアウトレットに寄ってダウンジャケットを新調したことがあったんです。それをそのまま着てサポートしてたら妻から「ねぇ、その色持ってたっけ?」と問い詰められまして......
鈴:レース中のドサクサに紛れてしれっと買って既成事実を作ろうとしたら失敗したんだ!(笑)
矢:僕、このシーン横にいて目の当たりにしたんですけど、ゆかりちゃん(奥様)が2度見したんですよ。「あれ? その色どうしたの? 持ってなかったよね? どうしたの?」って詰められたアキくんが絵に描いたようにアタフタしちゃって、あー、負けたな。ウチは今回負けたわーって思ったのを覚えています。
星:ドサクサ作戦は完全に失敗しました。うまくいくと思ったんだけどなー(笑)。でも、このエピソードで負けを認めたってどういうことですか?
矢:だってレース中だよ!特に走っているランナーは、テンションが日常と違うじゃない。なのに、超日常会話がエイドでなされているんだもん。

──大会が終わって「ありがとう」って言われたりするんですか?

星:ない……かな。サポートは年間に何度もあって、生活の中にサポートも組み込まれている感じなので、改まった形では、照れ臭いし、ないかもなぁ
矢:UTMFの時は、それこそ一緒にゴールする時「ありがとう」ってふと言われましたけど、別にその言葉を求めているわけじゃないし、言われなれていないからどんな顔していいか分からないかも
鈴:ウチはそう言うのしっかりやりますね。目を見て「ありがとうございます」って言ってくれます。もちろん、その言葉を求めているわけじゃないけど、言われたらやっぱり嬉しいもんですよ
矢:マジっすか! 目を見て言われたら、「お、おぅ…」ってホント照れ臭くって、どこ見ていいか分からなくなりますよ

サポート大会後

──お家に帰るまでが遠足、洗濯や片付けするまでがウルトラトレイルとよく言われますが、それぞれの家庭では、家に帰ってからの作業分担はどうなっていますか?

鈴:それ聞きたい!気になる
矢:ウチはそれぞれですよ。サポートものは僕が、選手ものは夕子が自分でやっていますね。シューズとか道具を自分で管理したいみたいで。
鈴:ウチもそう! 洗濯とか自分でしてますね。ただ、以前は棚にきちんと戻していたんですけど、最近はサポート用のバッグに入れたまんまのことが多いかも
矢:アキくんは、全部やってそう
星:そ、そうですね。僕がやって…ます…かね。シューズも洗ってあげているかも
矢:明日、急遽サポートに行くことになっても、すぐに支度できちゃう感じですか?
鈴:余裕ですね。すぐに準備できちゃいます
星:小1時間あれば、準備完了しますね。普段からジェル類や電池の補充をしているので、特に問題ないです。
矢:僕ももちろんですよ!みなさんより抜群に少ないし(笑)

──角度の違う質問なのですが、奥様がトップランナーということで「○○さんの旦那さん」と必ず呼ばれると思うんですね。この点について、男性として内心どう感じていますか?

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