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ドイツで働くレースエンジニアのサッカー選手的キャリア思考のススメ

こんにちは、ドイツレースチームでエンジニアとして働く山下です。

僕にはずっと、モータースポーツの本場である欧州で働く目標がありました。
現職に着くまで悩む事も多かったです。その時の僕なりの考え方を書きます。

海外就職、留学に興味がある方、何か目標がある方の参考になれば嬉しいです。

(1) 本当に現時点で、海外に行く必要があるのか?

僕はモータースポーツを目指すと決めた時から、一度は本場の欧州でレースのエンジニアとして働くという希望を持っていました。大学卒業後に就職した会社はドイツ系自動車システムを開発する会社のレース部門でした。出張ではドイツ本社の開発部門に行きました。また、海外レース (ex. "Nürburgring 24時間レース") に日本レースチームが参戦する際には技術サポートで同行もしました。

ただし、機会は限られており、僕はドイツ駐在を希望していました。しかし、そのチャンスは現れては消えるを繰り返し、状況は一向に進展しませんでした。

就職して5年目を過ぎた頃には、日本支社の仕事を通して技術的に学べることは少なくなりました。所属部門ではメンター(指導係)になり、若手マネージャ育成プログラムに入りました。一方で、僕はエンジニアとしての未熟さを感じていていました。僕は欧州で活躍出来るエンジニアとして成長したかったため、自分の描いたキャリアプランとのズレに、内心かなり焦っていました。

僕は行きつけのカフェで自分のキャリアについて再考しました。

「なぜドイツ赴任に行きたいのか?」
「最終的な目標は何なのか?」

僕には「モータースポーツを変えたい!エンタメでしかない現在のレースを量産開発の延長線上 (=走る実験室) に戻す!」という大目標**があります。

それを達成するために「エンジニアとしての技術力、実績を積みたい」と思い、ドイツ本社の駐在を希望していました。

しかし、再考するなかで思いました。
「本当にドイツ本社の開発部門で学ぶ必要があるのか? 」
「他に選択肢はないのか?」

ドイツ本社の技術力は確かに優れています。開発手法で学ぶことは多いです。一方で、日本もドイツと並ぶ自動車大国です。技術レベルでは両国とも世界トップレベルです。故に「エンジニアとしての成長が最重要項目であれば、日系自動車メーカで学べば良い」という結論に達しました。

そして、僕は某自動車メーカのASV(Advanced Safty Vehice) 開発室に転職しました。平たく言えば、自動運転システムに繋がる開発を行う部署です。量産部門を選んだのは、僕の目標がレースと量産の架け橋になる役割のためです。

自動運転、運転支援技術は自動車メーカー各社が、非常に多くの予算と人員をかけて開発している領域です。残業も多く大変でしたが、新規プロジェクトの立ち上げも経験し、短期間でエンジニアとして幅を広げることが出来たと思います。

(2) エンジニアのキャリアをサッカー選手に置き換えて期限を決める

日系自動車メーカに転職する事が有力な選択肢だと分かった頃、もう一つ決めたことがあります。

「欧州にはいつまでに行けば良いのか?」

本当に海外で働きたい、留学したいなら渡航期限を決めた方が良いと思います。安定した環境に慣れてしまうと、二の足を踏みチャレンジ出来ないためです。
僕はこの期限がなかったらドイツで就職出来ていなかったと思います。

この時に僕は、自分のキャリアをサッカー選手のキャリアに置き換えて考えることにしました。サッカーはモータースポーツと同じく欧州が本場です。有力選手の多くが欧州リーグの移籍を希望します。

欧州で活躍した選手の中で、移籍年齢が比較的遅いのが、24歳でドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトに移籍した岡崎慎司選手です。その後、岡崎選手は同リーグのマインツで2年連続、二桁得点の大活躍、さらにイングランドプレミアリーグのレスターでは主力としてリーグ優勝に大きく貢献しています。

これを "海外で働きたいエンジニア" である自分に当てはめました。サッカー選手の選手寿命は20〜32歳と仮定すると、岡崎選手の海外移籍タイミングは選手寿命の1/3を経過したあたりです。
一方でエンジニアの寿命は大学院卒業後 (24歳) から約30年間としました(65歳定年までの最後10年はマネージャとして除外)。

つまり岡崎選手の移籍タイミングをエンジニアに当てはめると34歳が対応します。この考えを基に、34歳になるまでに欧州でレースエンジニアになれなかった場合は、目標は諦めて国内で働くつもりでした。

結果的には、「やはりレースに戻りたい」という思いが強く、昨年の夏に自動車メーカを退職しました。その後、渡独してドイツ語を勉強しながら就活しました。最長で一年半ほど無職を想定していました。幸い、多くの人にサポートしてもらい、知人との偶然の再会もあり、32歳でドイツレースチームで働いています。

(3) 目標達成の成功率を上げる方法

僕には大小を問わず達成したい目標がいくつかあります。自分の欠点だと思っているところは、目標を立てた後に、思考が停止してしまい、最初に思いついたルートで漠然とゴールを目指してしまうことです。

上手く行けば、それで構わないです。しかし、目標達成の確率を上げるためには、必要な能力、コネクション、予算をリストアップするなど因数分解が必要です。すると複数のルートや別の可能性を見つける事が出来ます。

「上手くキャリアを積む人は、目標達成までに複数の選択肢を持っている。あるルートが上手くいかなくても次善策があれば心にゆとりが持てる」

これは20歳年上の友達に言われた言葉です。
「ドイツにレース関係で働くために就活に行く」と告げた時に教えてもらいました。過去に自分がドイツ赴任に悩んでいたことを思い出して、とても納得したことを覚えています。

僕はレースエンジニアとしてようやく欧州に来ました。
必ずここからもう一歩、二歩ステップアップします。
そのために、自分の目標をもう一度、因数分解してみようと思います。

読んで頂いてありがとうございました。スキやフォロー頂ければ励みになります。

**上述した大目標の背景となった体験談が下記の記事です。
この当時も目標に対して一直線のルートしか見ていませんでした・・・苦笑



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