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2019年9月に読んだものの感想


西兼志,2017,『アイドル/メディア論講義』東京大学出版会.

筆者が訳書、共著をもつベルナール・スティグレール、ウンベルト・エーコのメディア論を用いながら、〈スター〉〈タレント〉〈アイドル〉性とその変化を論じた前半が特に面白い。

メディア論をやや離れて、ハビトゥスや言語行為論に踏み込むと、ちょっと理論が先走りすぎているように思う。学生向けに、メディア論への導入としての側面を持たせようと書いている部分もわかるので、そこは良し悪しだが。


太田省一,2018,『テレビとジャニーズ――メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?』垣内出版.

よく論じられるSMAP、嵐以外に、V6、TOKIO、KAT-TUN、それから関ジャニ∞、NEWS、もっと若い世代のSexy Zone、Hey! Say! JUMP、Kis-My-Ft2、ジャニーズWESTまで視野に入れた記述で勉強になる。

月刊連載をまとめなおしたものだが、終盤にジャニーズWEST出演のNetflixドラマ『炎の転校生REBORN』に触れ、テレビからの離陸について論じる構成。 そうなると、その後の「新しい地図」の動向も気になるなあ。すでに論じているだろうけど。

「テレビってまだまだ面白ぇ……」と思いながら一気に読み終えた。この感情が、本書から受け取った一番の宝かもしれない。


香月孝史,2014,『「アイドル」の読み方――混乱する「語り」を問う』青弓社.

本当にアイドル論を「idol 偶像」の原義の話から初めてよいのか、本当にK-POPより日本のアイドルがハイコンテクストなのか、本当にファンは「疑似恋愛」していてアイドルは「恋愛禁止」なのかなど、簡単な答えに飛びつかずに一旦立ち止まる誠実さに惹かれる。「『アイドル』という、わかりやすそうでわかりにくい言葉について、そのわかりにくさの理由をきちんと整理」している点に独自性がある。


上間陽子,2017,『裸足で逃げる――沖縄の夜の街の少女たち』太田出版.

先月、打越正行『ヤンキーと地元』を読んだので、ジェンダー対称的なこちらも読むことにした。そして、打越さんを読んだときも思ったのだが、素朴に「なんで殴るん。。。」と思ってしまう。「理解」できないんだよな……。にもかかわらず、小中時代の同級生はこういうヤンキーカルチャーで育った人間も多いので、距離が取れなくて読んでてつらい。

「でも翼の中学校の教師たちも、「見捨てない」といいつつ、翼たちをなぐっていた。自分を大切にしてくれるひとが、一方では自分に暴力をふるうひとにもなる。そのことは、のちに翼がパートナーと関係をつくるにあたって、大きな問題を残したように私には見える」(p. 70)
「ようするに、未成年者の飲酒や喫煙を取り締まるはずのシステムによって、亜矢たちは年上の男性との接触機会を頻繁にもつようになっていく。」(p. 151)

このあたりはルポルタージュを超えて社会学的な理論化に踏み込んでいるように思えて興味深い。


知念渉,2018,『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー――ヤンキーの生活世界を描き出す』青弓社.

べらぼうに面白かった。今年読んだ本のなかでは一番かも。そして読みやすい。

若者文化論、生徒文化論、階層文化論としてのヤンキー論は、そのいずれかの力に還元してしまうことによって、重層的な作用が描けていない。したがって、本書では複数の力学を想定することによって、〈ヤンチャな子ら〉内部の多様性を描き出す、という。

言うのは簡単だけれども、それって要するに「先行研究の3倍頑張ります」と言ってるのと同じだ。自分ならしない。でも知念さんは3倍頑張ったので、そのへんの本の3倍面白い。

ポスト構造主義的なジェンダー論を経験的研究に落とし込むにはどうしたらいいか、自分も悩んでいるところだったので、第4章の〈インキャラ〉というカテゴリをめぐる男性性の議論が興味深かった。知念さんは、「男性性をメタの視点から定義しないという方針」(知念 2018: 118)を諦めて次善策をとる。これが唯一の解法だとは思わないが、参考になった。


架神恭介原作・横田卓馬画,『戦闘破壊学園ダンゲロス』ヤングマガジン.

漫画を漫画で喩えるのは失礼なのかもしれないが、『めだかボックス』のような能力者バトルを、『監獄学園』流の「シリアスエロコメ」ジャンルで行う怪作。

感染すると体中から精液が噴き出す致死性ウイルスを撒き散らす能力「災玉」や、食べた者の頭が爆発するほどカレーの辛さを増幅させる「サドンデス・ソース」、宇宙一セックスのうまい女子高生など、頭のおかしい能力者ばかり。なのに知能戦。

続編『ダンゲロス1969』は、任意の空間に男根を出現させる能力 VS オナホールを操る能力や、人前で脱糞すると蟻地獄を発生させる能力 VS うんこを燃やす能力など、さらにイカれた能力者同士の熱いバトルが続く。われらが社会学研究室のある東大法文2号館は「電マ会」に守られることになってしまった。どうか守り切ってくれ。



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