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【映画】ブルーアワーにぶっ飛ばす

「ここではないどこかへ」
若いころ、誰しもが思うことではないでしょうか。僕は思っていました、僕の居場所はここではない、どこか別な場所に本当の居場所があるはずだと。

主人公の砂田(夏帆)は、CMディレクターとして活躍し、理解ある夫もいて、不倫もしていて、と端から見れば充実した生活を送っています。しかし、
「自分のことを好きな人が嫌い」
と言うように、心の中はすさんでいて、酒を飲んでは泥酔してという生活をしています。

そんな中、茨城の実家から、容体がよくなった祖母に会うために帰省して欲しいと連絡があります。逡巡しますが、秘密の親友・清浦(シム・ウンギョン)からの提案で茨城へと向かうことになります。

ということで、物語が始まるわけです。

戻ってみれば、そこは旧態依然として変わらないままです。砂田が「ここではない」と感じたままの街だったでしょう。茨城出身者としては、まあなんと茨城をコケにしてくれるわ、と思ったりもしましたが(苦笑) 

「ここではない」と思って茨城を離れ東京に出ても、東京もまた砂田にとって「ここではない」と感じる場所だったんだと思います。そんな彼女が、茨城に戻って何を感じるのか。それがこの映画の大きな流れです。ただ実は、細かなところに様々な仕掛けがしてあります。なぜ、容体が悪化したからではなく良くなったから祖母に会いにいくのか。そもそも、清浦(シム・ウンギョン)とは何者なのか。エンドロールが流れているときに「ああ、そういうことなのか」と思うことがいくつもありました。是非それを映画館で感じてほしいです。東京に戻る車中の会話で、ある程度謎は解けると思いますから。

冒頭、「ここではないどこかへ」と思うのを「若い頃」と書きましたが、本当は違うのかもしれません。いくつになっても、その想いを抱えたまま生きている人はいるのだと思います。主人公の砂田は30歳の設定です。そもそも僕は、40歳を超えても「ここではないどこかへ」行きたいと心底思っていたのです。

でもどこかで、いま自分がいる場所が自分の生きる場所、と受け入れざるを得ない時が来ます。この映画は、その受け入れる葛藤を描いテイルのではないかと思います。

僕の拡大解釈のような気もしますが、その辺はぜひ、映画館で確かめてみてください。

とりあえず、夏帆もシム・ウンギョンも素晴らしい演技をしています。そして、夏帆の標準語と、母親役の南果歩を中心とした地元民役の茨城弁と、シム・ウンギョンの独特な片言日本語が、独特なリズム感を生み出しています。

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