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製造業の支援を通して

中小企業診断士を名乗っている以上、中小企業を支援するのは義務だと思っています。まして僕の勤務先は中小企業です。勤務先を良くしていくのも診断士としての仕事だと考えています。実は勤務している会社を支援先として見ている部分もありまして(笑) そうやってちょっと突き放して、客観的に、俯瞰的に見られた方がいい場合もあるのではないかと思っています。

勤務先は大分類でいえば製造業になります。それだけに製造業を支援するならどうするか、考える機会が多いのですが、これはなかなか難しいなあ、というのが実感です。

■大企業と同じ理論は通用するの?

日本企業の99%は中小企業です。製造業で考えれば、その大半は受注生産の形態にあると想像されます。つまり「B2B」企業です。

ところが、中小企業診断士の一次試験で課される「企業経営理論」や「運営管理」といった科目は、大企業を分析対象にして構築されています。世の中に出回っているビジネス書も、大企業をモデルケースにしているものが大多数です。

一部、中小企業向けのものもありますが、そのほとんどは「B2C」企業を対象にしています。つまり、従来学んできたマーケティング理論や戦略論、生産管理論は、受注生産をしている中小企業にとって、ダイレクトに利用できる考え方ではありません。中小企業の現状にあわせてアレンジしないといけないのですが、それができる人がどれだけいるか。中小企業の内部人材で見つけるのは難しいと思います。能力があっても余裕がない場合も見てきました。では支援する側にいるかといえばそれも心許ない。学んできた理論を乗り越えるのは容易ではないのです。

受注生産というからには発注者がいます。当然、発注者のほうが力関係では上になります。まして多くの場合、発注者側が大企業ですから受注側は圧倒的に不利な状況にあるわけです。この状況で一般的なマーケティング理論などを振りかざしたところで、逆効果になるのは目に見えているのですが、なかなか個々の企業にカスタマイズしたやり方を構築するのは難しい状況にあります。

■発注者の過剰要求

こうした力関係ですから、自分たちの努力だけでどうにかできる範囲はもともと狭いのです。発注者の意向を考慮に入れない施策は自己満足にすぎません。まして、発注者の過剰な要求は、法規制などで減ったと思えるものの、まだまだなくなったわけではないようです。

僕が聞いた範囲でもこんなことがありました。
・18時過ぎに発注したものを翌日9時までに納品しろ
・要求仕様の変更が当初見積の回数を超えても費用は追加しない
・注文書なしで試供品を非公式手配してくる(採用されなければ費用は払わない)
・金額が安い方に発注をしたのに、翌年「品質に満足できないのでまたお願いします。ただし金額は去年下げてしまったのでそれに合わせてください」と無茶な値引きを言ってくる
こうしたやり方が「経費削減」だと思っている調達担当はいまでもいるようです。ここから発注企業批判を展開することもできますが、今日の目的はそこではありません。

■日本の受注産業の強さ

上記のような、無茶苦茶な発注企業の要求に応えられてしまうのが、日本の受注産業の強みです。できなくても不思議ではないですよ、こんな無茶な要求。

問題は、受注企業側が自分たちの要求対応力(受注生産力)が強みだと理解できていないことです。従来の受発注関係の中で、あるいは「系列」に組み込まれてしまっていて、自分たちの価値に気付けていないのではないかと思います。

日本では古くからの商習慣によって無償になってしまっている仕事も、契約社会である海外との取引先であれば「有償」にできる可能性が大いにあります。また、発注サイドから見ても、海外サプライヤーからモノを買った経験がある人なら、いかに日本企業の対応力が素晴らしいか痛感していると思います。また、国内中小企業の廃業が増える中、従来のような対応をしてくれる企業を失ってしまっている人もいるのではないでしょうか。要求対応力(受注生産力)そのものが中小企業にとっては差別化の要因になり得るのです。

それをどう利益に結びつけていくのか。明確な答えは僕の中にまだありません。ただ、取っ掛りになるヒントは見つけたように思っています。これから支援の現場で試行錯誤をしつつ、さまざまな知見を広げて答えを探していきたいと思います。

とにかく日本の製造業は、技術的にも利益的にも、受注生産企業が支えていると言っても過言ではないはありません。日本が「ものづくり国家」の看板を下ろさない限り、日本製造業の復活・発展のために、微力を尽くしていくつもりです。

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