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【日本マーケティング学会カンファレンス2021ベストポスター賞受賞!】ユーザー参加型新商品開発のはじめ方 /USER INNOVATION LAB. レポートVol10

NOTEをご覧の皆さま、こんにちは。本日は博報堂ブランド・イノベーションデザインの米満よりお届けします。

いつも本連載を読んでくださり、ありがとうございます。これまでの連載では、ラボの講義内容をご紹介しながら、ユーザー・イノベーションを体系立てて記事にしてきました。少しでも皆さんのご理解に役立っていれば、メンバー一同とてもうれしく思います。

一方で、もしかすると、
「ユーザー・イノベーションの考え方については、なんとなくわかったんだけどなぁ…」
「何から始めたらいいのか、まだピンと来ないなぁ…」
とお感じの方もいらっしゃるかもしれません。

今回の記事は、そんなあなたにピッタリな内容になっています。題して、『ユーザー参加型新商品開発のはじめ方』。新たに開発した『ユーザー・イノベーション診断マップ』というフレームもご紹介します。なお、本記事の内容は1年間のラボの活動のまとめとして、日本マーケティング学会のマーケティングカンファレンス2021ポスターセッションにて発表し、なんとベストポスター賞(!)をいただいた内容をアレンジしたものです。

ぜひ最後までご覧ください!

★本連載は博報堂と法政大学西川英彦研究室の共同で立ち上げましたユーザー・イノベーションの研究会「USER INNOVATION LAB.」の活動をレポートするものです。

★ご参考:日本マーケティング学会主催「マーケティングカンファレンス2021」の様子はこちらからご覧になれます。

★本記事の資料(PDF)はこちらからも御覧いただけます。

①実践!ユーザー・イノベーションは企業の実務に活用できるのか?

−改めて振り返ってみると、あっという間にラボの活動も1年経ちました。コロナ禍ということもあり研究会はすべてオンラインで行われ、参加頂いた企業の方とはリアルでは一度も会えないという少し残念な状況ではあったものの、濃密な1年間でしたね。実際にラボの活動の中からは、どのような企業の取り組みが生まれたのでしょうか?

実際にラボからは、各社様々な取り組みが生まれました。ここでは特に、ユーザー・イノベーションの活用の代表的な手法である「リードユーザー法」「クラウドソーシング法」それぞれの取り組みについてご紹介します。

まず、リードユーザー法に関する取り組みです。復習になりますが、リードユーザー法とは「企業がユーザーを探し会いに行く探索型アプローチ」でした。(詳しくはコチラ

図1

この手法では、食品メーカーさんの取り組みを紹介します。

健康食品の新商品開発を行うため、テーマを「精進料理、中でも制約がある料理での工夫」に設定しました。精進料理ということでお坊さんからインタビューを始め、複数人の方から同じ人物の名前があがりました。その方を尋ねると、今度はお坊さんではなく「禅寺で修行した経験を持つ三ツ星シェフのレストラン」の方にたどり着き、さらに紹介をたどっていくと、「国際結婚し日本で暮らすムスリムファミリー」の方にたどり着きました。ご家庭内の様々な料理の工夫から、開発のヒントが得られたそうです。

続いて、クラウドソーシング法の取り組み事例をご紹介します。クラウドソーシング法とは、「ユーザーに自ら参加してもらう応募型アプローチ」のことでした。(詳しくはコチラ

図2

この手法では、電機メーカーさんの取り組みを紹介します。新しいエアコンのアイデアを得るために、第三外部サービスを活用して、「意外なエアコンの使い方」というテーマでユーザーからの投稿を集めました。実態レベルの投稿から、他の人の投稿もみたくなるような投稿まで、多くの人に回答をもらうことで、アイデア開発のヒントになる投稿を多くの人からいただくことができました。

ここで取り上げたのは取り組みの一部です。もちろん取り組み方やテーマは各社様々ですし、開発自体はそれなりの時間がかかりますので現在も継続的に取り組んでいる方がほとんどです。

②開発!手法採用のガイダンス 〜ユーザー・イノベーション診断マップ(β版)

−こうやってみると、ラボに参加された方々はとてもスムーズにユーザー・イノベーションの活用に取り組めたように見えますね。やはり、しっかりと学べばすぐに実務にも活かせるということなんでしょうか?

そのように見えるかもしれませんが、全くそんなことはありません。どの取り組みも試行錯誤の結果生まれています。実際には「この課題のときには、どう始めたらいいんだろう…」とか「リードユーザー法とクラウドソーシング法、どっちを選べばいいんだろう…」というお声もありました。実は、理論的にも手法採用に関する研究は少ないという現状もあります。そんな疑問にお答えすべく、今回開発したのが「ユーザー・イノベーション診断マップ(β版)」です。

図3

このように①「課題の範囲」②「ユーザー参加の範囲」の2つの軸を設定することで4象限をつくり、それぞれの象限に対して最適な手法と考えられるものをオススメするというものです。

課題の範囲とは、現状取り組むにあたっての課題を「オープン(特定分野に絞り込まず、ユーザーに委ねる)」とするのか「特定領域(分野の専門家がいるレベルまで絞り込む)」とするのかという視点です。ユーザー参加の範囲とは、ユーザーに参加してもらう範囲を「アイデア(開発のヒントに繋がる切り口)」とするのか「ソリューション(商品化に直結する解決策/専門知識)」とするのかという視点です。

③診断!あなたに最適なユーザー・イノベーションの手法は?

−確かに、なにをどこから始めたらいいのか判断がつかない場合、手法のガイドがあれば目安のひとつにできますね。実際には、この「ユーザー・イノベーション診断マップ(β版)」は、どのように活用できるのでしょうか

先程の食品メーカーの事例で「新商品開発を検討しているケース」を例に考えてみましょう。以下のようなチャートで考えていきます。

図4

■STEP1:取り組むにあたり「課題の範囲」はどこまで限定されているかを考える
選択肢は2つあり、「A健康に良い食品全般」と広く設定し、どのような領域・テーマのアイデア・ソリューションかはユーザーに委ねるのか、「B特定領域(精進料理)」と絞り込み、一緒に特定の分野について考えるのか、です。

■STEP2:実施するにあたり「ユーザーが参加する範囲」はどこまでにするのかを考える
ここでも選択肢は2つ、「1アイデア(切り口)を多く集めたい」のか、「2すぐ実装できるソリューションがほしい」のか、です。まずは開発のヒントに繋がるような切り口を多く集め、その中から自分たちで選び検討していくようなプロセスを検討している場合は前者を、情報をすぐに開発に活かしたたりユーザーと一緒に開発していくようなプロセスを検討している場合は後者を選ぶことになります。
■STEP3:診断結果をもとに採用する手法を検討する
診断結果は以下の4パターンです。
① オープン×ソリューション
自由な発想で専門的な知見を募るために、該当するユーザーがいる/募集できそうなプラットフォームやサービスを利用する【他社型クラウドソーシング法】が向いています。
例えば「美容や健康に詳しい読者やインフルエンサーとつながりがある雑誌コミュニティで情報や企画を募る」というやり方がこれに当たります。専門的な知見や企画を募る場合は、それなりのインセンティブを用意し、参加を促すというのが一般的な形です。
② オープン×アイデア
自由な視点で広くアイデアを多数募るという意味では、既に顧客基盤を持っている場合は【自社型クラウドソーシング法】が最も向いているでしょう。既にいるファンの方々と交流をすることで、更に絆を深めることにも繋がります。
もちろん、自社で顧客基盤がない、ユーザーとの接点がない、という場合には他社サービスを活用することでクラウドソーシング法を実践するのが良いかと思います。
③ 特定領域×ソリューション
特定領域まで課題が絞られており、ソリューションを探索したい場合には、【リードユーザー法】がおすすめです。先程の事例のようにそのテーマに合ったリードユーザー候補(お坊さんなど)を定め、ヒアリングを行い、探索を進めていきます。
④ 特定領域×アイデア
課題が特定領域に絞り込まれているにも関わらず、アイデアレベルでアウトプットを広げるというアプローチは非効率な進め方になってしまうため、この手法を採用するケースは少ないかもしれません。ただ、直接的な開発につなげるのではなく、ネーミングやデザイン、パッケージアイデアなど、別のプロセスにおいて共創活動に参加していただくというやり方は、企業やユーザーにとっても実施・参加しやすい形でもあり、ユーザー・イノベーションの活用においてもよくある形のひとつです。その場合には【自社型クラウドソーシング法】にて応募を募ります。

この図の流れからもわかるように、「課題設定をどう設定するのか」「ユーザーが参加する範囲をどこに定めるか」に応じて採用すべき手法は変わってきます。言い方を変えれば、社内/社外(市場)の状況や動向などからどのように課題と参加範囲を決めるのかという設計力が問われるということにもなります。

④終わりに 〜ユーザーの知恵を活かした“参加型”新商品開発の実践を!

−なるほど。これをガイドにしながら、ひとつの手法を選ぶことだけにこだわらず、複数の手法を実施するなど他にも進め方がありそうですね。企業やプロジェクトの事情に合わせて検討することが大事になりそうです。

現に複数の手法のメリットを活かしながら、取り組む事例も出てきています。しかし、現実的には予算やリソースの制限があることが一般的で、「まずは一つの手法からはじめてみよう」ということが多いかと思います。ここでは、「取り組みたいけどどう始めたらいいのかわからない…」という声に対して「まずはここから検討してみはどうでしょう?」というガイダンスとして利用してもらえれば、という想いから開発をしました。

とはいえ、この診断マップも、ラボの取り組みから導いたもので、まだまだβ版です。ラボでは更に精度を高め、学術的にも実務にも活用できるものを目指していきますので、どうぞご期待ください。

今回の『ユーザー参加型新商品開発のはじめ方』いかがでしたでしょうか。少しでも「私にも始められそうかな?」と思っていただければうれしいです。うまくはじめるポイントは、いきなり売上成果等大きな目標を掲げずに、小さく始めながら継続的に取り組み、徐々に大きな活動にしていくことだと思います。新たな手法を探している方、ユーザーや生活者との新しい関係づくりを検討されている方は、この診断マップを参考にぜひユーザー・イノベーションの活用を実践してみてはいかがでしょうか。

私たちが見つけていないイノベーションのヒントは、まだまだ生活者の中に眠っています!あなたもガイドを片手に、ともに探索の旅に出発しませんか?

★「ユーザー・イノベーションを自社で取り入れてみたい!」と興味がわいた方は、ユーザー・イノベーション・ラボ事務局(uilab@hakuhodo.co.jp)までお気軽にお問い合わせください。

(参考文献)
・Churchill, J., von Hippel, E., & Sonnack, M. (2009). Lead user project handbook: A practical guide for lead user project teams.
Retrieved from https://evhippel.files.wordpress.com/2013/08/lead-user-project-handbook-full-version.pdf
・Dahlander, L., & Piezunka, H. (2020). Why crowdsourcing fails. Journal of Organization Design, 9:24.
・Franke, N., Poetz K. N., & Schreier. M. (2014). Integrating problem solvers from analogous markets in new product ideation. Management Science, 60(4), 1063–1081.
・本條晴一郎(2016).「リードユーザー」『 マーケティングジャーナル』35(4), 150-168.
・Howe, J. (2006) The rise of Crowdsourcing. Wired 14(6)
Retrieved from http://www.wired.com/wired/archive/14.06/crowds.html
・Lilien, G. L., Morrison, P. D., Searls, K., Sonnack, M., & von Hippel, E. (2002). Performance assessment of the lead user idea-generation process for new product development. Management Science, 48(8), 1042–1059.
・西川英彦(2020)「新製品開発クラウドソーシングがもたらす複合的成果」『組織科学』54(2), 4-14.
・Piller, T. F. & Walcher, D. (2006). Toolkits for idea competitions: A novel method to integrate users in new product development. R&D Management, 36(3), 307-318.
・Poetz, M. K., & Prügl, R. (2010). Crossing Domain-Specific Boundaries in Search of Innovation: Exploring the Potential of Pyramiding. Journal of Product Innovation Management, 27(6), 897–914
・von Hippel, E. (1986). Lead users:A source of novel product concepts. Management Science, 32(7). 791-805.
・von Hippel, E. (2005). Democratizing Innovation. Cambridge, Massachusetts:The MIT Press(サイコム・イ ンターナショナル監訳 (2006)『民主化するイノ ベーションの時代』ファースト・プレス).


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