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小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第1話 一日の始まり
「千佳、お弁当、持った?」
朝、出がけに必ず母はこう言う。社会人五年にもなって、毎朝自分のお弁当を作って出社しているのに毎朝これだ。私が子供の頃、しょっちゅうお弁当を家に忘れ、学校まで届けに来てくれたのがトラウマにでもなっているだろうか。
「持ったよ、大丈夫。今日は多分会社で夜食が出るから、夕飯は気にしないでいいよ」そう言い残して私は家を出た。
今日は満月、仕事が忙しくなる日。それも正月を控
メルクリウスのデジタル庁の年末 制作裏話
表題の小説は、私が産まれて初めて書いた中編の連載作品だ。このお話の構想は高校生の頃に思いついたあることが切っ掛けだった。
当時、父の転勤の関係で、私達家族はイギリスに住んでいた。かの地に住む外国人は16歳を迎えた誕生日の一か月以内に近隣の警察へ行き、外国人登録というものを行う。そして灰色がかった緑色の外国人登録書という身分証明書をもらうのだ。
外国人登録登録書はAlien registrati
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第2話 デジタル庁
デジタル庁は、コスモ連合国の中で、唯一メルクリウス星に設置された省庁だ。
連合国の省庁は通常、主に夜のないヘリオス星に設置される。だがデジタル庁だけはコスモ連合国の中でも抜群のコミュニケーション力を誇る住人が暮らすメルクリウスに設置されている。
デジタル技術が高くコミュニケーション力に長けていれば、物理的にヘリオスに設置される必要性もなかった。他の省庁と連携する業務は、3Dの音声付き惑星間通信
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第3話 年末気分と仕事
今日のテラはグレゴリオ暦の2020年12月31日。
デジタル庁のあるメルクリウスと各惑星の一年間という概念は異なっている。各惑星の公転周期が異なるため、一年の締めくくりは惑星ごとに異なるのだ。またテラのように1年を12の月に分け、年末を12月31日と定めている惑星もあれば、冬至などの季節の変わり目で区切ったり、その年一番日の明るさが長い日と定めている惑星もある。
ヘリオスには一年という概念すら
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第4話 COICA星間協力隊の魂
申請なしの魂の隠しフォルダーの処理がようやく終わりかけた所で、サラさんからテレパシーが入った。
「千佳、三十分ばかりケビンの仕事を手伝ってくれる?今日は惑星間を転生した魂の記録が普段より多いようで、他のチームの方でもどうしても手が回らないようで」
「承知しました。隠しファイルの処理があと五千件程なので、終了次第すぐにそちらに回ります。」
「助かるわ、ありがとう。処理が終わったらケビンに連絡し
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第5話 COICA星間協力隊の魂(2)
前回のお話
「ケビンさん、お忙しいところすみません。ちょっと見ていただきたいフォルダーがあるのですが」
私はケビンさんに話しかけた。
「うん?どうした?」
ケビンさんはスクリーンを見つめ、作業の手を止めないまま返事をした。
「電気バリアで弾かれるフォルダーがありました。いつもの弾かれ方よりも強力なので、一度見ていただけたらと思いまして」
フォルダーに弾かれるのはいつもの事なのだが、この
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第6話 年末の魂の記録
惑星間を転生した魂のフォルダーの作業もやっと一息ついた。これからが今日の本番だ。
現在グリニッジ標準時刻十時三十六分。テラで一番夜の時間が来るのが早いニュージーランド付近では、すでに23時を廻っている。睡眠中にエーテル体でこちらにやってくる魂の数はすでに増え始めているはずだ。
日中にテラの居住区内にある情報館によく来館するのは、地上でセラピストをやっている情報取り扱いのプロの人の魂が多いため、
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第7話 昼休み
サラさんのデスクのビッグ・ベンの時計台が12:00を知らせた。
テラの情報を扱っている限りは、テラの時間感覚をつねに気にしながら仕事をする、というサラさんの方針のもと、私たちはテラの時刻にあわせて行動をしていた。12:00になると2交代で1時間の昼休み休憩に出かけられた。
1時間、中庭のベンチに座って日向ぼっこをしながらお弁当を食べる。それが私の至福の時だった。
いつものベンチは私の特等席。
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第8話 金星編
昼休みを終えた私たちはおしゃべりをしながら部屋に戻った。
情報課の入り口まで来ると、カーチアさんがちょうど部屋の扉から出てくるところだった。相変わらず6次元の人達は物質をものともせずに通過できるから羨ましい。扉を開けることなくそのまま通過できるのだ。
「あら、二人そろって。いつも仲が良いわね!外でたっぷりプラーナを補給できたかしら?」とテレパシーで声をかけてくれた。
「はい。ありがとうござい
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第9話 水星編
「サラさん、忙しいところごめんね。千佳をほんの一瞬借りてもいいかしら?3次元のフォルダーの扱いに詳しい人の手を借りたくて」
カジミアさんの声がテレパシーで聞こえた。これはおかしい。
通常テレパシーは、語り掛けている人以外には聞こえないはずなのだが、サラさんへのテレパシーが私にも聞こえている。
「いつもならケビンにお願いをしていることなんだけど、まだ休憩から戻ってきていないようだし・・・テラの
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第10話 太古の記録
私がテラ・チームの島に戻ると、アラームがひっきりなしになっていた。トートさんが走り回り、現場のスタッフに指示を出している。
「先ほどのグループソウル全体の情報が一気にダウンロードされた件、もう一度警備チームと申請書を確認するように。タツヤ、さっきの魂の経歴の一部が開示された件は手を付けたか?場合によってはSEに相談をするので、フォルダーの閲覧履歴の分析を頼む。
サラ、申し訳ないが、今起きている
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第11話 スターシード
私はトートさんの方に向き直り、今作業を終えたばかりだと伝えた。
「千佳、良かった。手の空いている人がいて。たった今テラの居住区にある第6情報館からの通報で、あるグループソウルの魂の記録が一気に開示されてしまったそうだ。
幸い、どこで情報を開示したかははっきりしているので、第6情報館のスタッフと連携して調査を頼む。まずフォルダーの状態の確認と鍵の状態をチェックしたら、その後保護をするところまでや
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第12話 木星編
ペーターさんからテレパシーが入った。
「先ほどの魂の記録、こちらの分は完了したよ。鍵の修復もプロテクションもかけておいた。あとはまかせて大丈夫かな?」
「ありがとうございます、助かりました!一人じゃとても無理でした。」
「とんでもない。こちらの仕事でもあるしね。今日はまだ忙しいだろうけど頑張って!」
こういう声掛けをしてくれる職場は本当にありがたい。
テラとマルスの魂の記録に再度目を通し
小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第13話 土星(1)
「千佳さん、すみません。今よろしいでしょうか?」サトゥルーヌス・チームのサリからテレパシーが来た。
「はい、どうしました?」
「今、申請済の記録を処理しているんですけれど、3次元のバイブレーションのフォルダーがあって。テラの記録の様なんです。私がテラに転生していた時と同じようなバイブレーションで。ちょっと見ていただけませんか?」
私は一瞬狼狽した。魂の記憶の秘密を守るための申請をしたフォルダ