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不可視光

語りたい景があふれているときの
かえって静謐な(しんとした
幼子にいつか来る死を思わず噛みしめてしまったような
払い落とせない寂寥の

水時計、
わたしの足元からとめどなくせせらぐ川
かわせみが飛びたって
あ、と思うときには大きな獲物を連れ去って
残されたものだけがただ透いている


果てしのないかべがみの白に迷って
そこにそっと額を当てる
迷う先にひとつ
したたり落ちるとすれば
そこにはどれほど純な欺瞞が凝っているだろうか

果たしてなにをすくい上げることができようか
螺旋に身を委ねることしかできないまま
(屈折して、屈折して、レンズなのかプリズムなのか、
 水槽の硝子も、虹彩も、ビニール傘も、クオーツも
 出し抜かれることに甘んじているのかもしれない)


雨に灼かれたことがある
日に焼けて真っ赤になった肌に
夏のぬるい俄雨のまれにみる烈しさ
あのとき確かにあの雨滴は熱を持って
私を焼き殺そうとしていたのではなかったか

光の輪郭をつかみそこねたまま
月の下に翡翠の花が咲いて
これは幾度目かの漂着だ、と思う


私が死んだ日
彼方の水底に雨が降るといい

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